Science Park 2025年10月号第1章:脳の声を聴く

―地球上にあふれる命―生命の誕生―

秋の風が少し冷たくなり、夜空の星がひときわ輝く季節。 球上にあふれる命、夜空に瞬く星—そのすべてが、原子という共通の材料から生まれました。

宇宙を構成する物質は、同じルールに従って存在し、やがて生命を形づくるようになりました。 では、どのようにして原子が「心を持つ感じる物質」へと進化し、記憶や感情を持つようになったのでしょうか。

そして今、私はその記憶が揺らぐ現象—認知症—と向き合っています。

この章では、生命の起源を振り返りながら、認知症の現在地と未来を見つめてみたいと思います。

宇宙の法則に従って生まれた命が、脳という器官を持ち、記憶と感情を育み、そしてその機能が揺らぐとき、私たちは何を知り、どう支えるべきなのでしょうか。

宇宙を創る物質は、同じルールによって存在しています。 水素、ヘリウム、リチウム、炭素——わずかな種類の元素が、銀河を形づくり、恒星を輝かせ、そして地球上の生命を育んできました。

その割合を変えるだけで、人間の体になることをご存じでしょうか? 他の生物も、すべて同じ材料からできていて、違うのはほんのわずかな配分だけ。 つまり、私たちの身体は、星々と同じ素材でできているのです。

宇宙の初期、ビッグバンのあとに広がった水素のガスが集まり、恒星が生まれました。 その中心部では、超高温・超高圧の環境のもと、核融合が起こり、ヘリウム、炭素、酸素、窒素など、生命に必要な重い原子が生み出されました。 太陽系や私たちの体を構成する原子は、こうして星の中で作られたものなのです。

そして、地球という舞台で、これらの原子が集まり、細胞となり、やがて脳を持つ生命が誕生しました。 人間は、意識を持ち、記憶し、感情を抱く存在——まさに小宇宙と言えるでしょう。

しかし、その複雑な脳の構造ゆえに、私たちは「記憶の揺らぎ」とも向き合うことになります。 それが、認知症という現象です。

宇宙の素材から生まれた脳が、なぜ記憶を失うのか。 その謎を解くことは、生命の本質を探る旅でもあります。 もしかすると、人類最後の科学的挑戦は、認知症なのかもしれません。 そしてそのヒントは、星々の中に眠っているのかもしれないのです。

1950年代、科学者のスタンㇾ―・ミラー(Stanley Miller)博士の実験では、生命の材料が自然界でも生成されうることを示しました。 つまり、生命の誕生は特別な奇跡ではなく、宇宙の物理法則に従った、ある種の必然だったのかもしれません。

アミノ酸、脂質、DNA—これらのシンプルな材料が組み合わさり、細胞が生まれ、やがて複雑な生命へと進化していきました。 そしてその進化の果てに、人間らは「記憶」や「感情」を持つようになったのです。

しかし、記憶を司る脳もまた、宇宙の素材からできています。 鉄やカルシウム、酸素や炭素—それらは超新星爆発によって宇宙にばらまかれた星のかけら。 私たちの脳は、星の記憶を宿していると言っても過言ではありません。

では、その脳が、なぜ記憶を失うのでしょうか。 なぜ、感情が揺らぎ、思い出が遠ざかっていくのでしょうか。

それが、認知症という現象です。 宇宙の素材から生まれた脳が、老化や疾患によって変化し、記憶のネットワークが崩れていく。 この現象を解き明かすことは、生命の本質を探る旅の延長線上にあるのかもしれません。

もしかすると、認知症の治療法は、星々の誕生と同じように、物理と化学の法則の中に隠されているのかもしれない。 人類が最後に挑む科学の謎——それは、記憶の揺らぎとその再生なのかもしれません。 

ミラー博士の実験は、生命の材料が自然界でも生成されうることを証明しました。 それは、生命の誕生が地球だけの奇跡ではなく、宇宙のどこかでも起こりうる現象かもしれないという希望を与えてくれました。

その後、科学者たちは、太陽系を形成したガスの中にアミノ酸が含まれていた可能性を真剣に考えるようになります。 実際、彗星や隕石の中からアミノ酸が検出された例もあり、宇宙空間に生命の材料が漂っていたことが示唆されています。

つまり、私たちの体を構成するアミノ酸や脂質、DNAの材料は、宇宙の星々の爆発によってばらまかれた原子から生まれた可能性があるのです。 星のかけらが集まり、細胞となり、やがて脳を持つ生命へと進化した—その果てに、私たちは「記憶」という機能を手に入れました。

しかし、記憶は永遠ではありません。 脳の神経細胞は、酸化ストレスやタンパク質の異常蓄積によって傷つき、やがて記憶のネットワークが崩れていきます。 それが、認知症という現象です。

宇宙の素材から生まれた脳が、なぜ記憶を失うのか。 その謎を解くことは、生命の本質を探る旅の延長線上にあるのかもしれません。 そしてその答えは、もしかすると、星々の記憶の中に眠っているのかもしれないのです。

私たちの体は、星のかけらからできている。 その原子が集まり、細胞となり、やがて脳を持つ生命へと進化した。 そして脳は、記憶という不思議な機能を手に入れました。記憶は、脳の中のネットワークによって支えられています。

最近の研究では、視覚記憶に関わる脳領域として、側頭皮質前方部と眼窩前頭皮質が連携していることが明らかになりました。

物を「見ている」時には視覚入力が側頭皮質前方部を活性化し、それを「覚えている」時には、眼窩前頭皮質からのトップダウン入力によって記憶が保持されるというのです。

このネットワークが寸断されると、記憶は保持されなくなります。 つまり、認知症とは、こうした記憶ネットワークの機能不全によって起こる現象なのです。

さらに、脳の「白質」に注目した研究では、オリゴデンドロサイトという細胞が形成する髄鞘の障害が、学習や記憶のばらつきを引き起こすことが示されています。 髄鞘がうまく機能しないと、神経信号が同期せず、記憶の定着が不安定になるのです。

このように、認知症は単なる「記憶の喪失」ではなく、脳内ネットワークの乱れによって引き起こされる複雑な現象です。 そしてそのメカニズムの解明は、星の誕生と同じように、物理と化学の法則に従って進められています。

もしかすると、星々の記憶をたどるように、脳の記憶を再構築する日が来るかもしれません。 認知症の治療とは、宇宙の素材から生まれた脳のネットワークを、もう一度整えることなのかもしれないのです。

認知症を宇宙規模で考えると、人間の脳は、星のかけらから生まれた素材でできているということです。

その脳が記憶を持ち、感情を抱き、思考するようになったことは、生命の進化の中でも特に驚くべき出来事です。 しかし、その記憶が揺らぎ、日常生活に支障をきたすようになると、私たちは「認知症」という現象と向き合うことになります。

認知症には、神経変性疾患系、血管性・循環障害系、外傷・手術・圧迫系、感染症・免疫系、その他稀少疾患など、いくつかの種類があり、それぞれに異なる症状と原因があります。 最も多いのが神経変性疾患系のアルツハイマー型認知症で、脳内に蓄積されたアミロイドβという異常なたんぱく質が神経細胞を破壊し、記憶障害や見当識障害を引き起こします。 次に多いのが血管性・循環障害系の脳血管性認知症で、脳梗塞や脳出血などによって脳細胞が損傷され、段階的に症状が進行します。 レビー小体型認知症では、幻視やパーキンソン症状、睡眠中の異常行動などが特徴的です。

前頭側頭型認知症では、感情の抑制がきかなくなったり、社会的なルールを守れなくなったりする行動変化が見られます。 さらに、65歳未満で発症する若年性認知症もあり、就労や育児との両立が難しくなるなど、社会的な課題も大きいのです。

治療法は、従来の薬物療法と非薬物療法の組み合わせが基本で、薬物療法では、アセチルコリンやグルタミン酸などの神経伝達物質の働きを調整する薬が使われ、記憶や思考の低下を緩やかにする効果が期待されています。 さらに近年では、アミロイドβに直接作用する疾患修飾薬(レカネマブ、ドナネマブ)が登場し、病気の進行を抑える新たな可能性が開かれています。

一方、非薬物療法では、認知リハビリテーションや回想法、現実見当識訓練などが行われ、残された認知機能を活かしながら生活の質を維持することが目指されています。 これらのケアは、薬に頼らず、環境や人との関わりの中で脳を刺激する方法として注目されています。

認知症の治療は、まだ「完治」には至っていません。 しかし、宇宙の素材から生まれた脳が、再びそのネットワークを整える日が来るかもしれません。 星々の記憶をたどるように、私たちの記憶もまた、科学の力で再構築される未来が近づいているのです。

1969年、オーストラリアのマーチソン村に落下した隕石は、地球よりも古い記憶を宿していました。 その内部には、アラニン、グリシン、グルタミン酸など、生命を構成するアミノ酸が含まれていたのです。 さらに、細胞膜を形成する脂質の分子や、DNAの主成分までが検出されました。

この発見は、生命の材料が宇宙空間に普遍的に存在することを示しています。 2003年には、赤外線宇宙望遠鏡が十数万光年離れた銀河の水素ガスの中に、有機物の特徴を示す光を捉えました。 つまり、アミノ酸や脂質、DNAの材料は、星々の誕生とともに宇宙に漂っていたのです。

地球が誕生したとき、それらの物質は隕石や彗星とともに地球に降り注ぎました。 そして、火山島が連なる原始地球の潮溜まりで、有機物が濃縮され、脂質分子が泡となって膜を形成し、細胞が誕生したと考えられています。 この膜こそが、生命の基本単位「細胞」の始まりでした。

しかし、地表は強烈な紫外線にさらされ、細胞が生き延びるには過酷すぎました。

そこで科学者たちは、生命は太陽光の届かない深海の熱水噴出孔で誕生したのではないかという仮説を立てました。 実際、深海の地殻の割れ目から吹き出す高温の水の周囲には、光合成を必要としない化学合成微生物が生息していたのです。

このようにして誕生した細胞は、エネルギーを獲得し、膜で外界と隔たり、自らの設計図を保存する—生命の三要素を備えた存在へと進化しました。 そして、細胞が集まり、脳が形成され、記憶を持つ存在へと変化していったのです。

しかし、記憶は永遠ではありません。 脳の神経細胞は、酸化ストレスや異常タンパク質の蓄積によって傷つき、記憶のネットワークが崩れていきます。 それが、認知症という現象です。

認知症は、宇宙の素材から生まれた脳が、時間とともに揺らぎを見せる現象とも言えるでしょう。 その治療の鍵は、細胞のエネルギー代謝や膜の機能、そして遺伝子の修復にあるかもしれません。 つまり、生命誕生のメカニズムを理解することが、記憶の再生への道を開く可能性があるのです。

記憶の再生へ

—認知症の未来と世界の挑戦―

宇宙の素材から生まれた細胞は、やがて記憶を持つ存在へと進化しました。 星のかけらが集まり、泡となり、膜をまとい、エネルギーを獲得し、設計図を抱えたその小さな命は、やがて脳を育み、記憶を紡ぐようになったのです。

しかし、記憶は永遠ではありません。 時間とともに、その繊細なネットワークは揺らぎ、ほどけ、やがて「認知症」という現象として私たちの前に現れます。

2025年現在、認知症は「治す病」ではなく「共に生きる病」として捉え直されています。 日本では「認知症基本法」が施行され、本人の声を起点にした地域づくりが進められています。 「マイクロハピネス(小さな幸せ)」に着目し、本人の生活の知恵を尊重するケアが広がりつつあります。 これは、認知症の人が「できること」に焦点を当て、社会とのつながりを保つ新しい認知症観です。

世界に目を向けると、国際アルツハイマー病協会(ADI)は、2025年の世界レポートで「認知症とリハビリテーション」をテーマに掲げました。 認知症の人も、リハビリによって生活の困りごとを減らし、できることを増やせることが科学的に示されています。

たとえば、誤りを避けて正しい記憶を形成する「エラーレスラーニング」、 読む・書く・話すなど複数の感覚を使って記憶を強化する「エフォートフルプロセッシング」、 練習間隔を徐々に広げて記憶を定着させる「エキスパンディングリハーサル」などの技法は、 介護施設への入居を平均6ヶ月遅らせる効果があるとされ、生活の質の向上にもつながっています。

治療法の面でも、希望の光が見え始めています。 アミロイドβに直接作用し、病気の進行を抑える可能性を持つ疾患修飾薬(レカネマブ、ドナネマブ)が登場し、 血液バイオマーカーによる早期診断も進みつつあります。 さらに、認知リハビリとSMART目標設定を組み合わせることで、無理なく意味のある目標を達成し、達成感を積み重ねる方法も注目されています。

そして、認知症の根本には、細胞のエネルギー代謝の乱れがあります。 ミトコンドリアの機能障害や膜の劣化が、神経細胞の働きを低下させるのです。 神経伝達物質のバランスもまた、記憶の揺らぎに深く関わっています。

たとえば、地球外生物の難病の一つとも言われるパーキンソン病では、ドパミンが減少し、アセチルコリンの相対的な増加が認められています。

このアセチルコリンがムスカリン受容体に結合するのをブロックすることで、症状を緩和できることが知られており、古くから治療薬として使われてきました。

一方で、アセチルコリンは副作用として統合失調症や認知症の症状を悪化させることもあり、そのバランス調整は極めて繊細です。 パーキンソン病やアルツハイマー病は、こうした神経伝達物質のバランスの崩れによって発症する——まさに、細胞の対話が乱れることで起こる病なのです。

これらの解決策や治療法は、もしかすると宇宙医学の研究によって、隕石の中から見つかるかもしれません。 生命の材料が宇宙に漂っていたように、記憶の再生のヒントもまた、星々のかけらの中に眠っているのかもしれないのです。

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