Science Park AUGUST 26th 森が消えるとき

―我々の命を守る森林―

第一章 夏の北方林へ

2026年の夏は、例年よりもいくらか早く熱を帯びていたらしく、白川遼がロシア極東の空港に降り立ったとき、彼は思わず上着の前を緩めて胸いっぱいに重たい空気を吸い込んだ。

北方林の夏といえば、ひんやりとした風が肌を撫で、針葉樹の匂いが静かに漂うものだと長年の経験から知っていたが、今年はどうしたことか、空気は湿り気を含んで重く、遠くの地平線が陽炎のように揺らいで見え、まるでこの土地が別の世界へと変わりつつあるかのような気配があった。

白川は二十年以上にわたり樺太フクロウの生態を追い続けてきた生態学者であり、北方林は彼にとって研究対象であると同時に、人生の大半を費やしてきた場所でもあった。

空港の出口に向かうと、見慣れた男が無造作に手を振っている。

地元の猟師セルゲイである。

無口で飾り気のない男だが、森の変化を誰よりも早く察知する鋭い感覚を持ち、白川は彼を信頼していた。

「遼、今年はおかしいぞ」  

セルゲイは挨拶もそこそこにそう言い、続けて雪解けが早すぎたこと、ハタネズミが減っていること、そしてフクロウが南へ移動していることを淡々と告げた。

白川はその言葉を聞きながら眉間に皺を寄せた。ハタネズミは樺太フクロウの主食であり、その数が減るということは、森の生態系が静かに乱れ始めている証拠にほかならない。

二人は車に乗り込み、森へ向かって走り出した。

窓の外には黒々とした針葉樹が果てしなく続き、その深い緑は白川にとって「生命の宝庫」と呼ぶにふさわしい荘厳さを湛えていた。

森の入り口に差しかかると、白川は車を降り、深く息を吸った。

針葉樹の匂い、湿った土の匂い、遠くで枝が折れる乾いた音が混じり合い、いつもの森の気配が確かにそこにあるはずなのに、今年の森はどこか息苦しく、風が弱く、まるで森全体が何かを恐れて身を潜めているような静けさが漂っていた。

そのとき、頭上を影が横切った。

白川は反射的に空を仰ぎ、灰色の羽を広げて滑空する一羽のフクロウを見つけた。アシリである。

彼が長年追い続けてきた若いメスの個体で、その行動は森の変化をもっとも敏感に映し出す。

白川は双眼鏡を取り出し、アシリの姿を追った。

羽毛の奥にわずかな乱れがあり、まるで何かが潜り込んでいるように見えた。

「……虫か?」  

セルゲイが低くつぶやいた。 「こんな寒い土地で虫が生きられるのか?」

「本来なら、生きられないはずだ」  白川は双眼鏡を下ろしながら静かに答えた。 「だが、今年の夏は暖かすぎる。シラミ蝿が北へ移動してきてもおかしくない」

アシリは森の奥へと消えていった。白川はその姿を見つめながら、胸の奥に重いものが沈んでいくのを感じた。人間にとって森林は生命の宝庫である。

しかし森に生きる者たちにとっては、森は世界そのものだ。

その世界が、いま静かに崩れ始めている。

白川はゆっくりと歩き出した。2026年の夏は、森にとって“異変の夏”であるらしい。その声を聞けるのは、森と共に生きてきた者だけなのだと、彼は深く思った。

第二章 森の奥で

森の奥へと踏み入るにつれ、白川は足元の土が例年よりも柔らかく沈むのを感じた。

雪解けが早かったというセルゲイの言葉は、単なる観測ではなく、森そのものが発している声であるらしく、踏みしめるたびに湿り気を帯びた土が靴底にまとわりつき、まるで森が人間の侵入をためらうように引き留めているかのようであった。

針葉樹の枝が頭上で重たげに垂れ下がり、風が弱いせいか葉の一枚一枚が空気に貼りつくように動かず、森全体が息を潜めているような静けさが漂っていた。

白川はこの静けさをよく知っている。

北方林の静けさは本来、生命が深く眠るような安らぎを含んでいるのだが、今年の静けさはどこか違い、まるで森が何かを恐れているような、あるいは何かを待ち構えているような、そんな不穏な気配が混じっていた。

セルゲイが前を歩きながら、突然立ち止まった。

「遼、見ろ」彼が指さした先には、ハタネズミの巣穴があった。

白川はしゃがみ込み、巣穴の周囲を観察した。

土は崩れ、巣穴の入口は乾きすぎており、いつもなら巣の周りに散らばっているはずの食痕がほとんど見当たらなかった。

「……いないな」 白川は低くつぶやいた。

「今年は本当に少ない」セルゲイが言う。

「このあたりは、いつもなら巣穴がいくつもあるんだが、ほとんど見つからない」

白川は巣穴に手をかざし、土の温度を確かめた。冷たすぎる。巣が使われていない証拠だった。

ハタネズミが減れば、樺太フクロウは餌を求めて南へ移動する。

アシリが森の奥へ消えていったのも、餌場を探しているからかもしれない。

森の奥へ進むと、白川はふと鼻をつく匂いを感じた。

「……煙だ」彼は立ち止まり、空気を吸い込んだ。  

遠くで火災が起きたときに漂う、あの独特の焦げた匂いが微かに混じっていた。

「セルゲイ、最近火事は?」 「二週間前に南の方で少し燃えた。雨が少なかったからな」セルゲイは淡々と言ったが、その声にはわずかな不安が滲んでいた。

白川は空を見上げた。  

灰色の雲が低く垂れ込め、光が弱く、森の色がいつもより暗く沈んで見えた。  

そのとき、再び影が横切った。  

アシリだ。  

彼女は低く飛び、木々の間を縫うように進んでいく。  

その飛び方が、いつもより重たげに見えた。

白川は双眼鏡を構えた。アシリの羽毛の奥に、やはり黒い点のようなものが見える。  羽毛の間に潜り込んだシラミ蝿かもしれない。  

本来なら、この極寒の地では生きられないはずの虫だ。

白川は胸の奥が冷たくなるのを感じた。  

虫が北へ移動するということは、気温が上がっている証拠であり、気温が上がれば病原体も北へ運ばれる。  

シラミ蝿が媒介する西ナイルウイルス―その名を思い浮かべただけで、白川は背筋に冷たいものが走った。

アシリは木の枝に止まり、しばらく動かなかった。  

白川はその姿を見つめながら、森の静けさが一層深く沈んでいくのを感じた。  森は何かを訴えている。  

その声は、風のない空気の中で、かすかに震えていた。

「遼、どうする?」セルゲイが問うた。

「調査を続ける。アシリを追う」白川は静かに答えた。

「森が何を語ろうとしているのか、確かめなければならない」

白川は歩き出した。森の奥へ、さらに奥へ。  

2026年の夏は、ただの季節ではなく、森の運命を左右する“境界の夏”であるように思えた。

第三章 沈黙の森で

森の奥へと歩を進めるにつれ、白川は胸の内に重たい石を抱え込んだような息苦しさを覚えた。

湿り気を帯びた空気は肌にまとわりつき、針葉樹の影はいつもより濃く沈み、森全体が何かを隠しているような気配を漂わせていた。

セルゲイは前を歩きながら、時折立ち止まっては周囲の気配を確かめるように耳を澄ませていたが、その横顔には長年森と共に生きてきた者にしか分からぬ不安が薄く滲んでおり、白川はその沈黙の重さを背中越しに感じ取った。

やがてセルゲイが「遼、ここだ」と短く告げ、指さした先には黒く焦げた地面が広がっていた。

火災の跡である。

白川はゆっくりと膝をつき、焦げた土を手に取った。指先に触れる土は乾きすぎており、崩れた炭の粒が風もないのにふわりと舞い上がり、火が通った場所が生命の匂いを失い、ただ静かに冷えていることを物語っていた。

「二週間前の火事だ」  セルゲイは淡々と言った。 「雨が少なかったから、すぐに燃え広がった。昔はこんなこと、めったになかったんだがな」

白川は焦げた木の幹に触れた。

樹皮は薄く剥がれ、内部の繊維がむき出しになっており、北方林の木々が本来極寒の気候に適応してゆっくりと成長するはずのものが、熱に耐えられず崩れ落ちている様子は、森が自らの限界を訴えているように思われた。

森の奥へと進むにつれ、白川は足元の土が次第に重たく沈み込むのを感じ、まるで森そのものが人間の侵入をためらわせるように湿り気を帯びた土を靴底に絡みつかせていた。

その静けさは生命が眠る安らぎではなく、何かが森の奥で密かに進行していることを告げる不穏な沈黙であった。

セルゲイは前を歩きながら、時折立ち止まっては耳を澄ませ、森の気配を探るように周囲を見渡していたが、その横顔には長年森と共に生きてきた者にしか分からぬ緊張が薄く滲んでおり、白川はその沈黙の重さを背中越しに感じ取った。

やがて二人は、森の奥にぽっかりと開けた空間に出た。

そこは木々が不自然に倒れ込み、枝が絡み合って複雑な影を落としていた。

白川はその光景に違和感を覚え、倒木の根元に近づいた。

根は乾きすぎており、土は崩れ、まるで木々が自らの力を失って倒れたかのようであった。

「遼、これを見ろ」セルゲイが低く呼びかけた。  

彼が指さした先には、倒木の陰に広がる黒い斑点があった。

白川はしゃがみ込み、手袋越しにその斑点を触れた。

湿り気を帯びた黒い土である。火災の跡ではない。

これは、腐敗の兆候であった。

「……菌だ」白川はつぶやいた。

「木が弱っている。温度が上がれば、菌の繁殖が早まる。

倒木が増えるのは、そのせいかもしれない」

セルゲイは眉をひそめた。

「こんなに広がるものなのか」 「本来なら、ここまで急激には広がらない。だが、今年は気温が高すぎる」

白川は立ち上がり、森の奥を見渡した。倒木は一つではなく、周囲にいくつも散らばっていた。

木々の根元には黒い斑点が広がり、まるで森が内側から静かに崩れ始めているようであった。

そのとき、森の奥からかすかな音が聞こえた。  

羽ばたきではない。  

小さな、しかし確かな動きの音である。

白川は耳を澄ませた。  

セルゲイも息を止めた。  

やがて、倒木の陰から一匹のハタネズミが姿を現した。  

しかし、その動きは異様に遅く、体は痩せ細り、毛並みは乱れていた。

「遼、あれは……」 「病気だ」  

白川は即座に答えた。 「体温が上がれば、寄生虫も増える。

ハタネズミが弱れば、フクロウは餌を失う」

ハタネズミはふらつきながら倒木の陰へ戻っていった。  

その姿は、森の静けさの中でひどく痛々しく見えた。

白川は胸の奥に冷たいものが広がるのを感じた。  

アシリの羽毛に潜んでいたシラミ蝿。  

倒木を覆う黒い菌。  

弱りゆくハタネズミ。  

それらはすべて、森が静かに崩れ始めている証拠であった。

「セルゲイ、これは……」 「森が弱っているんだ」セルゲイは静かに言った。

「今年の森は、いつもと違う。何かが起きている」

白川は深く息を吸い、森の奥を見つめた。  

風はなく、空気は重く、木々は沈黙している。  

その沈黙は、森が何かを訴えているようであり、白川はその声を聞こうとするかのように目を閉じた。

「調査を続けよう」白川は静かに言った。

「森が何を語ろうとしているのか、確かめなければならない」

二人は倒木の広場を離れ、さらに森の深みへと歩き出した。  

2026年の夏は、森にとってただの季節ではなく、長い歴史の中で初めて訪れた“崩落の夏”であるように思われた。

第四章 森の縁にて

翌朝、白川はセルゲイの案内で北方林の南端へ向かった。

そこは森が痩せ、木々の影が住宅地の境界にまで迫り、人間の暮らしと森の世界が不自然に混じり合う場所であり、白川はこれまで研究のために何度も訪れたことがあったが、今年のその景色はこれまでとはまるで違って見えた。

森は縮み、木々はまばらになり、ところどころ地面が露出し、まるで森が自らの体を削り取られているようであった。

セルゲイは車を止め、遠くの住宅地を指さした。

「遼、あれを見ろ」白川は目を凝らした。

住宅の屋根の上に灰色の影が止まっていた。

アシリである。

彼女は人間の家屋の上に身を置き、周囲を警戒するように首を動かしていたが、その姿は森の王者であるはずの樺太フクロウが、まるで居場所を失った迷い鳥のように見え、白川は胸の奥に重たいものが沈むのを感じた。

「ここまで来るようになったのか」白川はつぶやいた。

「今年は特に多い」セルゲイは静かに答えた。

「森が縮んでいる。餌も少ない。フクロウは南へ、南へと追いやられているんだ」

アシリは屋根の上で羽を震わせた。  

その羽毛の奥には、昨日見た黒い影―シラミ蝿が潜んでいるのだろう。  

白川は双眼鏡を構えた。  

アシリの目は落ち着かず、住宅地の周囲を警戒するように動き続けていた。  

森の奥では天敵の少ない彼女も、人間の生活圏では常に危険に晒される。  

車、犬、騒音、光―森には存在しない刺激が絶え間なく襲いかかる。

白川は双眼鏡を下ろし、深く息を吐いた。

「気温が上がれば、虫が北へ移動する。虫が来れば、病原体も来る。フクロウはその両方に追い詰められている」セルゲイは黙って頷いた。

「昔はこんなこと、考えもしなかった。フクロウが人間の家の上に止まるなんて!」

白川は住宅地の向こうに広がる森を見つめた。  

その森は、かつては果てしなく続く緑の海であり、樺太フクロウが自在に飛び回り、雪の下に潜むハタネズミを捕らえ、何世紀にもわたり命をつないできた場所であった。  

しかし今、その森は縮み、火災で黒く焦げ、倒木は増え、菌は広がり、ハタネズミは弱り、フクロウは病に蝕まれ、ついには人間の住宅地にまで降りてきてしまっている。

白川は思った。  

森は、地球を守る巨大な緑の盾であった。  

樹木は二酸化炭素を吸収し、土壌は炭素を蓄え、森は大気を浄化し、地球の呼吸を支えてきた。  

しかし、火災が増えれば蓄えた炭素は空へ放出され、温暖化はさらに進み、温暖化が進めば火災は増え、森はさらに縮み、森が縮めば動物は追われ、動物が追われれば生態系は崩れ、崩れた生態系はさらに温暖化を加速する…その悪循環は、もはや止まる気配を見せなかった。

「遼、ティッピングポイントってやつか」セルゲイがぽつりと言った。

「森が一度縮み始めたら、もう戻らないって話だろう」 「……そうだ」白川は静かに答えた。

「そして、もう越えてしまったのかもしれない」

アシリは屋根の上で羽を震わせ、やがてゆっくりと飛び立った。  

その飛び方は、森の奥で見せた軽やかさを欠き、どこか重たげであり、白川はその姿を見送りながら胸の奥に冷たいものが広がるのを感じた。

「遼、フクロウはどうなる」セルゲイの問いは、森そのものの問いでもあった。  

白川は答えられなかった。  

樺太フクロウは何世紀にもわたり北方林で種を存続してきた。  

しかし今、温暖化で森林は被害を受け、棲み処は奪われ、食糧は減り、病原体は北へ運ばれ、フクロウは危機に瀕している。

白川は静かに言った。 「森を守らなければ、フクロウは守れない。森が消えれば、彼らは生きられない」

セルゲイは深く頷いた。

「遼、森はどうすれば守れるんだ」白川は住宅地の向こうに広がる痩せた森を見つめた。  

その答えは、簡単ではなかった。  

しかし、答えを探さなければならない―森が沈黙を破る前に。

第五章 地球の呼吸を思う

森の縁でアシリの姿を見送ったその日の夕刻、白川はセルゲイの家の裏手にある古い木製のベンチに腰を下ろし、沈みゆく夕陽が森の端を赤く染めるのを黙って眺めていた。

空気は昼間の熱をわずかに残し、風は弱く、森の影は長く伸びて地面に沈み込んでいた。白川はその影を見つめながら、森がまるで地球の呼吸そのもののように思われ、胸の奥に重たい思索がゆっくりと広がっていくのを感じた。

北方林は、地球を守る巨大な緑の盾であった。  

樹木は二酸化炭素を吸い、土壌は炭素を蓄え、森は大気を浄化し、地球の呼吸を支えてきた。  

しかし、火災が増えれば蓄えた炭素は空へ放出され、温暖化はさらに進み、温暖化が進めば火災は増え、森はさらに縮み、森が縮めば動物は追われ、動物が追われれば生態系は崩れ、崩れた生態系はさらに温暖化を加速する―その悪循環は、もはや止まる気配を見せなかった。

森は静かに息をしている。 葉の奥では、光が水と二酸化炭素を結びつけ、有機の命を生み出している。 その営みこそが、地球の呼吸であり、われわれの生命の源である。 上の図は、その仕組みを示したものである。

光を受けた葉緑体が、空気中の二酸化炭素と根から吸い上げた水を結びつけ、酸素を放ち、有機物を生み出す。 森はこの循環を絶やすことなく続けてきた。 しかし、温暖化が進めば、この呼吸は乱れ、地球の均衡は崩れていく…

白川は、これが「負のフィードバック」というものなのだと静かに思った。  

森が弱れば温暖化が進み、温暖化が進めば森がさらに弱る。  

その循環は、まるで地球が自らの体温を制御できなくなり、熱に浮かされているようであった。

北方林の縮小は、以前から温暖化のティッピングポイント―閾値と呼ばれてきた。  

いったん縮小が始まれば、流れはもう止まらない。  

そして、白川は今日、森の奥で倒木と菌の広がりを見たとき、すでにその閾値を越えてしまったのではないかと感じた。  

森は静かに崩れ始めている。  

その崩れは、誰にも止められないほど深く、広く、静かに進んでいる。

白川は夕陽の赤が森の影をさらに濃く染めるのを見つめながら、アシリの姿を思い浮かべた。  

彼女の羽毛に潜んでいたシラミ蝿。本来なら、この極寒の地では生きられないはずの虫が、気温の上昇によって北へ運ばれ、フクロウの体に寄生し、西ナイルウイルスを媒介する。  

感染すれば、フクロウは死に至る。  

温暖化は、ただ暑さをもたらすだけではなく、病原体を運び、動物の体を蝕み、森の命を奪っていく。

春になれば雪解けのぬかるみに蚊が大量に発生する。  

蚊もまた病原体を運び、森の生き物を脅かす。  

温暖化が進めば蚊の発生は早まり、病原体はさらに広がる。  

森は、静かに、しかし確実に病んでいる。

白川はふと、遠く南の森――アマゾンを思った。  北方林から七千キロ南に広がる熱帯雨林も、同じ問題を抱えている。  

ペルー、アマゾン川流域の原生林はかつて動物の楽園であり、朝にはアケボノインコが目を覚まし、続いてルリコンゴウインコが粘土質の土手に姿を見せ、消化を助けるために粘土を食べる。  

コンゴウインコのつがいは一生を共に過ごし、木々の間を飛びながら食料を探し、ブラジルナッツの実りを待つ。  

しかし、そのブラジルナッツの実りの時期が、温暖化によってずれ始めている。  植物のライフサイクルが乱れれば、動物の暮らしも乱れる。  

森のリズムが崩れれば、動物は食糧を失い、棲み処を失い、命を失う。

北方林もアマゾンも、地球最大の炭素の貯蔵庫である。  

しかし、温暖化が干ばつを生み、干ばつが火災を生み、火災が炭素を放出し、炭素が温暖化を進める。  

その悪循環は、地球の両端で同時に進行している。

白川は夕陽が沈み、森の影が夜の闇に溶けていくのを見つめながら、静かに思った。  

森は生命の宝庫である。  

生態系の中で、すべての生物が役割を担い、どれか一つが欠ければ全体が崩れる。  森が縮めば食料が減り、食物連鎖が崩れ、生態系は維持できなくなる。  

その崩れは、やがて人間にも及ぶ。  

人間は食物連鎖の頂点に立つ捕食者であるが、森が崩れればその頂点もまた崩れる。

白川は深く息を吸い、静かに目を閉じた。  温暖化は、地球の地質的変化とは違い、数十年単位で進行する。  その速度を遅らせるか早めるかは、人間の対応次第である。  

この図は、世界の平均気温の変化を示している。

黒い線は過去の記録、赤い線は未来の予測である。

線が急に立ち上がるその瞬間こそ、人間が地球の均衡を崩した証である。

森が沈黙し、海が膨張し、空が熱を帯びる。

それでもなお、我々が手を打てば、この赤い線の傾きを緩めることはできる。

森を守ることは、地球の呼吸を取り戻すことなのだ。

迅速に手を打てば被害は最小限に抑えられる。  

しかし、議論だけを重ね、実行までに数十年が経過すれば、最悪の事態を目にすることになる。

動物を救うには、まず森を救わなければならない。  

森の縮小を食い止められれば、森は本来の回復力で元の姿に戻る可能性がある。  樹木が増えれば降水量も増え、炭素が蓄積され、温暖化は緩和される。  

森を守ることは、動物の棲み処を守るだけではなく、温暖化を止める最後の手段である。

白川はゆっくりと立ち上がり、森の方へ歩き出した。  

長い進化の中で命を存続してきた我々の前に、温暖化というかつてない巨大な敵が立ちはだかっている。  

森は沈黙している。  

その沈黙を破るのは、人間の行動しかない―白川はそう思った。

第六章 森の声、人の声

夜の森は静かであった。  

白川は調査を終えた後、ひとりテントの外に出て、北方林の空を仰いだ。  

星々は澄み渡り、遠い光が冷たい空気の中で瞬いている。  

その光は、何千年も前から変わらぬ輝きを放っているというのに、地上の森はわずか数十年のうちに姿を変えようとしていた。  

白川はその対比に、言葉にできぬ痛みを覚えた。

森は地球の呼吸である。  

樹木は光を受け、水と二酸化炭素を結びつけ、有機の命を生み出す。  

その営みが絶え間なく続くことで、地球は呼吸を保ち、生命は循環する。  

しかし、火災が増えれば蓄えた炭素は空へ放たれ、温暖化はさらに進み、温暖化が進めば火災は増え、森はさらに縮み、森が縮めば動物は追われ、動物が追われれば生態系は崩れ、崩れた生態系はさらに温暖化を加速する。  

この負の連鎖は、まるで地球が熱に浮かされて自らの体温を制御できなくなったかのようであった。

白川は思った。  

北方林の縮小は、すでにティッピングポイントを越えている。  

森が一度縮み始めれば、流れはもう止まらない。  

その流れは、アマゾンの原生林にも及び、地球の両肺が同時に病んでいる。  

ペルーの森では、コンゴウインコが粘土を食べて消化を助け、ブラジルナッツの実りを待っている。  

しかし、温暖化によってその実りの時期がずれ、鳥たちは食糧を失い、棲み処を奪われている。  

北の森も南の森も、同じ苦しみを抱えている。  地球の呼吸が乱れれば、生命のリズムも乱れる。  

それは、森だけの問題ではなく、人間自身の問題でもある。

白川は静かに息を吐いた。  

人間は、森の恩恵を受けて生きてきた。  

木々が酸素を生み、水を蓄え、土を肥やし、命を支えてきた。  

その森を失えば、人間もまた生きる力を失う。  

生態系の中で、すべての生物が役割を担い、どれか一つが欠ければ全体が崩れる。  森が縮めば食料が減り、食物連鎖が崩れ、やがて人間の生活も脅かされる。  

人間は捕食者であると同時に、森の一部でもある。  

そのことを忘れたとき、文明は自らの足元を崩すのだ。

白川は夜空を見上げた。  

星々は静かに瞬き、森の影は深く沈んでいる。  

彼は思った。温暖化は数十年単位で進行している。  

その速度を遅らせるか早めるかは、人間の対応次第だ。  

迅速に手を打てば被害は最小限に抑えられる。  

しかし、議論だけを重ね、実行までに数十年を費やせば、最悪の事態を目にすることになる。  

動物を救うには、まず森を救わなければならない。  

森の縮小を食い止められれば、森は本来の回復力で元の姿に戻る可能性がある。  樹木が増えれば降水量も増え、炭素が蓄積され、温暖化は緩和される。  

森を守ることは、動物の棲み処を守るだけではなく、地球の呼吸を取り戻す最後の手段である。

白川は立ち上がり、森の方へ歩き出した。  

夜風が頬を撫で、遠くでフクロウの声が聞こえた。  

その声は、森の奥から響く祈りのようであった。  

長い進化の中で命を存続してきた我々の前に、温暖化というかつてない巨大な敵が立ちはだかっている。  

それでも、森が沈黙を破る前に、人間がその声を聞き取ることができるなら―  

まだ希望はある。。。。  

編集後記

世界は今、森を守るために多くの手を尽くしている。

ブラジルでは違法伐採を監視するためにIBAMA(ブラジル環境・再生可能天然資源院)が森林警備隊を増員し、衛星監視システム「DETER」を強化した。インドネシアはパーム油農園の拡大を規制し、森林火災の常習地帯であるスマトラ島とカリマンタン島に早期警戒システムを導入した。

コンゴ民主共和国では、EUと連携した「FLEGT行動計画」により違法伐採の木材を欧州市場から締め出す取り組みが進んでいる。これらは、森の崩れゆく均衡を支えるための具体的な行動である。

焼失した土地には苗木が植えられ、劣化した土壌は回復され、火災の跡地には在来種が戻される。

中国は「退耕還林政策」により数億本の植林を進め、アフリカでは「グレート・グリーン・ウォール計画」がサヘル地域に長大な緑の帯を築こうとしている。

アマゾンでは、ペルーとコロンビアが共同で「アマゾン協定」を結び、国境を越えた森林保護区の管理を始めた。

これらの努力は、森が再び息を吹き返すための希望の種である。

国連森林フォーラム(UNFF)は、世界の森林政策を束ねる司令塔として機能し、各国のデータを共有し、保全プロジェクトを結びつけている。

REDD+(森林減少・劣化の抑制)では、ノルウェーがブラジルやインドネシアに巨額の資金を提供し、森林保全を経済的に支える仕組みを築いた。

カーボンクレジット市場では、ケニアやコスタリカが森林保護を収入源とする新しいモデルを生み出し、民間企業もESG投資を通じて森の未来に関わり始めている。

しかし、進展はあるものの、地球の変化の速さに追いついてはいない。

北方林もアマゾンも、すでにティッピングポイントを越えつつある。

火災が増えれば蓄えた炭素は空へ放たれ、温暖化はさらに進み、温暖化が進めば干ばつが増え、干ばつが火災を呼び、森はさらに縮む。

負の連鎖は地球の両端で同時に進行し、森は静かに、しかし確実に弱っている。

樺太フクロウは棲み処を失い、アマゾンのコンゴウインコは実りの時期の乱れに翻弄される。

どれか一つの生物が欠ければ、生態系は崩れ、やがて人間の生活も脅かされる。

それでも、希望はある。

森は本来、強い回復力を持っている。

縮小を食い止められれば、森は再び息を吹き返し、炭素を蓄え、雨を呼び、生命の循環を取り戻すだろう。

人間が迅速に手を打てば、被害は最小限に抑えられる。

しかし、議論だけを重ね、実行までに数十年を費やせば、最悪の事態を目にすることになる。

森は地球の呼吸であり、生命の宝庫である。森を守ることは、動物の棲み処を守るだけではなく、人間自身の未来を守ることにほかならない。

長い進化の中で命を存続してきた我々の前に、温暖化という巨大な敵が立ちはだかっている。

だからこそ、今こそ行動しなければならない。森が再び静かに息を吹き返す日を信じて。

日本もまた、森を守るために静かに手を尽くしている。

全国民から徴収される森林環境税は、各地の荒れた森を整備する力となり、クリーンウッド法は違法伐採材の流通を退け、国内外の森林を守る盾となっている。

衛星「だいち」は遠いアマゾンの減少を見守り、JICAは東南アジアのREDD+事業を支え、森林監視の技術を世界へ届けている。

国立公園は生物多様性の砦として質を高め、全国植樹祭は人々の心に森の記憶を刻み続ける。

公共建築物木材利用促進法は木造建築を広げ、伐り、使い、また育てるという森林循環を保つ仕組みを整えた。

こうした静かな努力の積み重ねが、日本の森を今日まで支えてきたのである。  日本は世界でも珍しい「森林面積が増えている唯一の国」である。

つまり、地球を守る中心的役割を果たしてきたのですが、森林火災が増えると蓄えた二酸化炭素が放出されます。

この負のフィードバックという作用により、温暖化がされに進むという悪循環が繰り返される事でしょう!

以前から、北方林の縮小は温暖化のティッピングポイント(閾値)と呼ばれています。

いったん縮小が始ますと、流れはもう止まりません。

そして、既に、そのティッピングポイントを越してしまい、一気にその状態がいきわたっているのです。

北方林に暮らす野生動物の未来は、明るいものではありません。

今後50~100年の間に、気温は4~10度上昇すると言われています。

森林は更に失われ、二酸化炭素の放出量が増えれば、更に温暖化は急速に進むのです。

春になると雪解けで土に出来たぬかるみに、蚊が大量発生します。

シラミ蝿同様、蚊も西ナイルウィルスなどの病原体を媒介するからです。

温暖化が進めば蚊の発生が早まります。

樺太フクロウは何世紀にも渡り、北方林で種を存続してきました。

しかし、温暖化で森林が被害を受けています。世界中の野生動物と同様、棲み処が奪われ、食糧難や病原菌によって危機にひんしているのです。

樺太フクロウの生息環境を守るためには、いったい私たちに何が出来るのでしょうか?

気温の上昇で季節の移り変わりが乱れ、樺太フクロウだけでなく、世界中の鳥たちが食糧不足に陥っているのです。

北方林から7000キロ南に存在する南米の広大な熱帯雨林も北方林と同じ問題を抱えています。

ペルー、アマゾン川流域の熱帯雨林、アマゾンの原生林は動物の楽園でした。

気候変動による原生林の縮小が、動物たちに悪影響を与えたのです。

朝、まず目を覚ますのがアケボノインコです。

続いて世界で最も大きいインコであるルリコンゴウインコが翼をはばたかせ粘土質の土手に姿を見せます。消化を助けるために、粘土を食べるのです。コンゴウインコのつがいは、一生を共に過ごします。

コンゴウインコたちは常に木々の間を飛びながら食料を探しています。

野生での寿命は40~50年です。

好物は、ブラジルナッツです。ブラジルナッツは年に一度実をつけます。

熟して40メートルの高さから落下するのが毎年1月~3月です。

ところが、温暖化によって、植物に異変が生じています。

ブラジルナッツの実りの時期がずれ、コンゴウインコに影響が及んでいます。

気候の変動はとても気がかりです。

気温が急激に上昇したため、植物のライフサイクルが変わってきています。

アマゾンの森に暮らす動物たちは、植物がいつ実をつけるのかよく知っています。

ところが近年は温暖化で実の風が減ったり、全くつかなかったり、あるいは時期がずれることもあるのです。

鳥たちは不安定な収穫のリズムに適応していかなくてはなりません。

一つの異変が別の異変を生む、すべてが温暖化を発端とする連鎖反応なのです。

コンゴウインコは実りの時期を記憶しており、毎年遠くからでも飛んできます。

しかし、季節の変化が不安定になれば、食料を探す能力をさらに磨かなければなりません。

それだけではありません樹木の減少で、棲み処も奪われているのです。

干ばつと森林火災で、アマゾンの原生林は無残な姿に変わりつつあります。

緑の屋根が失われ、草原になる可能性があるのです。原生林はインコだけでなく、多種多様な動物を抱えています。

そして樺太フクロウが住む北方林と同様、地球でも有数の広大な炭素を貯蔵庫でもあります。しかし、この森も悪循環に陥っているのです。

温暖化が干ばつを生み、干ばつが火災を生む、そして、二酸化炭素が放出され、さらなる温暖化を生むのです。

私たちも含め動物たちの未来は、北方林やアマゾンの原生林の行く末にかかっているのです。森林は生命の宝庫です。

生態系の中で、すべての生物が役割を担っています。しかし、今、世界最大の原生林は縮小しつつあります。

温暖化と乾燥化の悪循環から抜け出せずにいるのです。

その影響は食物連鎖の頂点に立つ、われわれ捕食者、人間に及ぶのです。

あらゆる生物は、生態系の一部です。

大昔から生態系に於いて,それぞれの生物が担っている役割があります。どれか一つでも欠けると、全体が崩壊してしまうのです。森林が縮小すれば、食料が減り食物連鎖の一部が崩れ始めます。そうなると生態系の維持は難しいでしょう!

21世紀末までに、アマゾン川流域の気温は7度上昇すると言われ、生命の宝庫はいずれ消滅し大量の種類の動物は絶滅するでしょう。

地球の地質的変化は少なくとも数千年単位で起こりますが、温暖化は数十年単位で進行しているのです。

その速度を遅らせるか早めるかは、人間の対応次第なのです。

つまり、われわれが迅速に手を打てば、被害は最小限に抑えられるのです。

しかし、対策を議論するだけで実行までに数十年が経過すれば、最悪の事態を目にすることになるでしょう!

動物を救うには、まず森を救うことです。

縮小を食い止められれば、森は本来の回復力で、元の姿に戻る可能性もあります。

樹木が増えれば降水量も増え、より多くの炭素が蓄積できて温暖化が緩和されます。

森林を守ることは、動物の棲み処を守ることだけでなく、温暖化を止める最後の手段になるのです。長い進化の中で命を存続してきた我々の前に、温暖化と言うかつてない巨大な敵が立ちはだかっています。我々は生死をかけた戦いを強いられているのです。

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