喜怒哀楽という感情は遺伝的に人の脳にセットされ大脳基底核にあります。
それぞれの人がどういう状況で喜び、どういう状況で怒るか、それは異なりますが、誰が怒ろうと、怒りは怒りなのです。認知症の方だからと言うことはまったくありません。
たとえば、ネコが怒っているのに気づくとします。なぜ気づくかといえば、たとえ相手がネコであっても、その表情や行動に、人間の怒りと類似点があるからネコが怒っていることに気づくのです。私たちが、それを「読み取る」ことが出来るのです。
ヒトと動物の感情の表現はそれほど大きく変わるものではないのです。
つまり、読み取る機能は動物の脳からの遺産と言ってもいいし認知症の方の気持がなんであるかを気づかせてくれる、貴重な働きだと言ってもいいのです。
この様に顔を認識して、感情を見極めるのは、側頭葉の下部にある紡錘状回(ぼうすいじょうかく)の中にある顔細胞と呼ばれる紡錘状顔領域(Fusiform Face Area : FFA)といわれています。
認知症の方の暴言には、日常生活における注意や制止に対して起こることが多く幼児期の子供に似ています。
あるいは理由もなく突然現れますが、その背景には欲求不満があると言われています。また暴力は、感情の中でも、怒りによって表出される場合や破損行為などがあります。つまり、気持ちの表現、あるいは反発行為だと考えられているのです。ですから、どんな暴言・暴力にも、認知症の方にとっては“必然性がある”と理解する必要があるのです。
その背景や理由について、様子観察では態度や表情、言動や仕草からヒントを見出し、要因を予測し、本人の反応をしっかり読み取る工夫が必要になります。
要因としては、自分の領域が侵されたと感じるケースが多く、自分のベッドや、日常的によく座る椅子などが侵されたと感じた時などに起こるようです。
また、妄想が背後にあることも多く、この場合は他人を責める行為が多いのです。その他には、相手の気を引くためという場合もあります。
暴言・暴力への対応方法の基本は、介護者が落ち着いて適切なケアで対応することが大切です。
知的判断が低下し、以前の体験や知識がなくなっているので、今との比較、因果の関連付け、反省、批判、洞察、予測が困難です。
正しい判断ができず困惑や混乱から、暴言・暴力行為に至るので、間違いは許容し、自分の生き方を失わせないよう接すると緩和されます。
また、入居者や近隣の方への暴言や暴力には、一方に非があったとしても、公平な立場を保ちます。
間違いを許容しながら人間関係をつくり、現実の生きるよりどころを与えるなど安心させることが重要です。そのためには静かな場所に移動して、ゆっくり話を聞く姿勢を示します。
暴言や暴力を起こす方には、日頃から気持をまぎらわすように、作業療法や運動療法を行うと効果的です。また、欲しいものが手に入らなかったり、自分の要求が通らなかった場合に起こる暴言・暴力への対応は、どのような時間や場所で、どのような要求をしているかを観察します。
知的判断の低下から、判断や洞察、予測が困難になって暴言や暴力を振うからです。同じ話を繰り返したり騒いだりしても、しばらく会話し、間違いは許容する態度で接します。
ホットミルク(200mlの牛乳をマグカップに入れて、ラップで包み600Wのレンジだと1分20秒くらいで、約60℃程度)を提供すると、落ち着く傾向にあります。
要求がわからない場合は、ホワイトボードなどを使って別の表現手段や伝達方法がとれるように指導します。
水分1日1500ccを維持し、チーズ類や牛乳、バナナ、卵黄を多く含む献立にします。これらに多く含まれるトリプトファン成分は、神経伝達物質として作用するので(セロトニン効果)精神安定に役立ち、暴言・暴力行為が軽減すると言われています。
そして、暴言・暴力の大半は、介護職の行動が認知症の方に対して、直接的かつ重要な影響を及ぼしているということです。
その一つに、介護現場で起こる介護職の人間関係が挙げられます。
例えば、多くの介護者は認知症の方が示すBPSDが制御できるものだと思っており、介護職側は、暴言・暴力は介護者に対しての敵対感情に違いないと考えていることが多いのです。介護職は意外に「こんなにしてあげているのに」感謝の気持ちが掛けていると思い込んでいるのです。
認知症の方との信頼関係は、時間をかけて築いていけば必ずできます。意見が衝突する時や聞き入れてくれない時は説得するのではなく「話をまずは聞く姿勢」を示していくと不思議と暴言・暴力は治まります。