Science Park 2023 May No2★人工知能が教えてくれる認知症ケア「キョウメーションケア(Kyomation Care)」★~人工知能が認知症の人を見守る時代~

現代の脳科学のいちじるしい進歩は、認知症のすべての謎を知り尽してしまったかのように原因疾患に関する説明や診断方法、あるいは認知症の人に対する介護の具体的な方法など多くの良書を手にすることができるようにしてくれました。

しかし、本当にそうなのでしょうか。引っ込み思案な老人が、細かいことばかり気にかけ部屋に落ち着いていることが出来ず廊下を何度も行き来している様子を見ると、ほとんど手つかずのまま残されている大きな謎が認知症の人の「心」であることを痛感します。

さて、記憶や学習、推論、判断など高度な作業に必要不可欠となる人間の知能をコンピューター上で人工的に構築し、これまで人間が脳内で行ってきた作業を再現する仕組みである人工知能:AIによって認知症ケアが、どこへ向かうのか、少しお話したいと思います。

新たな人工知能が次々に到来し、それが、もたらすものには驚かされます。

昨年、AMED(日本医療研究開発機構)が行った実証事業で人工知能を使って介護へ応用したところ、認知症の行動・心理症状(問題行動BPSD)の大部分は、思っているより、ずっと予測できたということです。

なぜなら、BPSDの発症の仕組には必ず傾向があるからです。

こうした傾向の源は、神経細胞やシナプス、神経伝達物質など、脳内そのものが電気の流れによって生み出されているからです・・・

つまり、物理、生理学、医学、化学的な特性そのものに由来するものです。

これにより、例えばアルツハイマー病の人には、同じパターンが繰り返し生み出され・・・

このパターンによって、行動や心の動きに同じような変化が出来るのです。

これは、物理で言う、重力のようなものと考えて頂くと理解しやすいと言えます。

山の頂上に降る雨を創造してみて下さい・・・

ひとつの雨粒が海に流れていく道筋は・・・予測できません。

どこを通るかなど分からないのです。

でも…大まかな方向性は、物理的に避けることが出来ない不可避なもので、下へ下へと向かいます。

同様にBPSDが、大体、どう発症するのか、どう展開するのか、おしはかることが出来るのです。

生理学的に考えれば、認知症にまつわるBPSDの発症の仕組みには、流れや必然性なるものが、こうして刷り込まれているのではないでしょうか・・・。

つまり、行動や物事は、だいたい、どう進むのか、推し量ることが出来ると考えられるのです。

これまで人間が脳内で行ってきた作業を再現する仕組みである人工知能の「認知化」について、お話しましょう。

少し話は飛躍しますが、昔、グラハム・ベルがアメリカで電話を発明した1876年…。日本では1890年12月に初めて電話が出現しました。

当時の電話機は壁掛式で、電話を掛けようとすると、まず「交換局」につながり、そこで「交換手」に相手の電話番号を伝えると繫いでくれるものでした。

電話の加入者が増え、人の手による交換では追いつかなくなり、1923年の関東大震災で首都圏の交換設備の多くが壊れたのをきっかけに自動交換機が使われるようになりました。

これは、私のopinionですが、この現象、実は、現在の認知症高齢者を取り囲む社会情勢に似ていると思うのです。

介護者が交換手さながら「介入」して意思を伝達している訳です。

意味不明な言葉や摩訶不思議な行動から、トイレに行きたいことを予測し…排泄介助を行います。お腹がすいたことを理解して…食事を介助するというように、介護の中で決めらえたダイヤルを回すと、決められた介助を受けられるのです。

これは、当時の電話交換手と同様のルーチンで決まりきった仕事を一連の手順で対応していることと似ていますが、掛かってく人の声で伝えたいことが分かると言っています。

しかも、当時の電話交換手の教育課程の中で…「お客様が怒髪(どはつ)(かんむり)を衝いても温厚(おんこう)篤実(とくじつ)に」というスローガンもあったそうです。

これは、どんなに怒られても穏やかに、また誠実に対応しなさいという事です。

まさに、認知症患者を受容する介護者のようではありませんか…。

そして、もうすぐやってくる…人口の20%が「後期高齢者」になり、単純労働に就くのは高齢介護者と外国人の人々。医療と介護の安心は根底から覆る2025年は、まさに関東大震災の再来ではないかと言うことです。

さて、前置きはさておき、電話の話に戻しましょう。

ここで、大事なことは、大地震に見舞われても電話の普及は避けることができない不可避なモノだったという事です。・・・その最大の理由が、コミュニケーションのツールは必要不可欠であるということなのです。

認知症の方の介護に従事しながら、眼の前で次々と示す、激しいもの忘れや、様々な異常行動をしばしば経験すると、つくづくコミュニケーションの重要性を痛感します。

認知症の人と介護者の間に人間関係(コミュニケーション)が取れれば疎遠にならないし悪化することもない、双方が悩み苦しむことも無いし、悲しい出来事や事態を避けることもできるでしょう。

そのためには、コミュニケーション能力である「気づき」の連続性を得なければなりません。

昔、単純に音を双方向で繋げた電話の役割は、今では私たちの生活を一変させました。しかも、現在は音だけでなく情報伝達、オンデマンド、保存、検索、豊富な表現形式(文字、静止画、音、動画など)感覚までもがリアルタイムの双方向性や多双方向性マスメディア化へと様々な顔を持つようになってきたのです。

ますます、人の神経伝達機能Neural Networkに近づき始めているのです。

例えば、iOSは…電話だけの機能を持っている訳ではありませんandroidも同様です。

同じ様にInternetは、不可避ですが・・・Twitterはそうではありません。

電話は、従来の「耳」の機能から「目」を持つようになったのです。

ここに、コミュニケーション能力を持つ人工知能によって、未来の認知症ケア方法が見えて来るのです。

今、様々な流れが、同時進行している訳ですが、その中でも特に重要だと思うのが、何でも、賢くする=Make smart・・・という流れです。

わたしは、これを人口知能の「認知化」と呼んでいます。

人工知能のロジックも記銘(memory)→保持(Retention)→想起(Recall analysis)→認知(Cognition)の流れを持ち始めている訳です。

私は、これこそが、今後20年で社会に最も影響を与える・・・

発展であり傾向、方向性、原動力のひとつになると考えています。

もちろん、それは、すでに始まっています。

私たちは人工知能AI(Artificial intelligence)を、既に手にしていて、AIは目に見えないところで動いています。

今や、AIは拡張知能AI(Augmented intelligence)と呼ばれ出しているのです。

介護施設や病院では、AIがレントゲン画像を人間の専門医より正しく診断していることでしょう。

法律事務所では、法的証拠を、くまなく調べるのにAIが使われています。

人間のパラリーガルより、よくやってくれるでしょう。

皆さんが乗っている飛行機の操縦にもAIが使われています。

人間のパイロットが操縦するのは、7~8分だけで、残りはAIが操縦しているのです。

もちろんAmazonでは、裏でAIが動いていて、いつの間にか私が欲しいものが欲しい時に…いろいろと勧めをしてくれます。

それから、ご承知の通り、もっと先進的な側面をあらわすAIとして、AlphaGoが世界のトップ棋士に勝利をおさめたことがありました。

でも、その意味合いは、それだけにはとどまらないと私は思っています。

ビデオゲームをすることは、AIと対戦することでもあります。

さらに最近では、GoogleはAIを訓練し、ビデオゲームのプレイ方法を学習できるようにしました。

ビデオゲームのやり方は、機械学習により既に教えていたわけですが・・・。

実は、ビデオゲームのプレイ方法を自ら学ぶのは、新しい段階と言えます。

人工知能から「人工知性」へと思考に近いArtificial Mentality=AMに成り始めているのではないかと考えています。

私たちは、今、この人工知性を・・どんどん、賢く高めていこうとしているのです。Chat GTPは、その一つです。

この大きな流れの中で、十分、認識されていない側面が、3つあります。

この3つのことを理解すれば・・・

AIに対する理解も、ぐっと深まるはずですし、AIも受け入れやすくなるでしょう。なぜならば、AIを受け入れなければ、AIの舵取りなどできないから・・・

大きな流れを受け入れてこそ、実務的なことを動かしていけるのです。

電話やInternet同様、AIは不可避なのですから…

AMED「認知症対応型AI・IoTシステム研究推進事業」では、介護にAIを用いて認知症の人の意味不明な行動を察知する実証事業が行われました。

それでは、この実証事業で得られた3つの側面について、お話しましょう

 1つ目は、私たち自身が介護現場に於いて、どのように認知症の人へケアを行えばよいのか、認知症の人は何を求めているのか、介護に必要なニーズについての知性は、何が知性たるか自身をほとんど理解していないことでした。

私たちは、知性をとかく1次元で考えがちです。ですから知性が次から次にと変化していくことに気づかないのです。

音で言うなら、音量が、どんどん上がるように…です。

その背景にあるものは、皆さんが知っている知能指数(IQ)…まさに知性にブレーキをかけているのがIQのようです。

認知症の診断で必ず検査される知的機能検査は、IQをチェックしている反面もあるのです。その段階から、知的レベルは意識するのですが知性に関しては意識しなくなるのです。

ネズミのような単純で低いIQに始まり、エイプであるチンパンジー、機転がきかない回転が鈍い人から私達のような平均的な人間が来て、それから、ジーニアス(天才)といったように・・・このIQだけで表される知能は、高くなる一方ですね。これは、完全な間違いです。これは、知性ではありません。

少なくとも人間の知性では、ないということです。

知性は、むしろ、色々な音の調和に近いもので・・・様々な認知機能で奏でられる音が集まったようなものではないでしょうか。
これを私は、「キョウメーション」と呼びました。

人間には、多種多様な知能があります。

論理的(ろんりてき)演繹的(えんえきてき)な思想、感情的(かんじょうてき)な知能や空間的(くうかんてき)知能など・・・

おそらく100種類くらいの知能をみんな持っているのですが、それぞれの知能のレベル(高さ)は、人によって違います。

そして、様々な動物は動物で、また別の様々な知能を、持っているわけです。

もしろん、右図にあるように私たちと同じ機能を持っていることもあるでしょう。

動物も人間と同じように思考できますが、持っている知能の組み合わせが違うのです。人間より動物の方が優れている場面もあります。

例えば、リスの長期記憶は、本当に卓越したもので、木の実を埋めた場所を、ずっと覚えていられます。チンパンジーの短期記憶は、見たものを人間より遥かにしっかり覚えているのですが・・・、それ以外の知能は、人間より低いかもしれません。

私たちが、AIを作る上でも、このことを理解して…同じように設計することになるでしょう。

つまり、ある種の知性は、人間より、グンと高くするけれども・・・

ほかの多くは、必要ないので、人間には遠く及ばないままと、言うようにです。

私たちは、このようにして、様々な知能を人工的に寄せ集め・・・より、変化に富んだ、人工的認知能力をAIに与えようとしているのです。

今回の認知症対応型AI・IoTシステム研究推進事業では、人間では気づけない変化をIoTセンサーと連携してAIを構築したのです。

今後、認知症対応型AIは、もっと特化したものになっていくでしょう。

私達の目の前にある電卓…正式名は電子卓上計算機の略ですが、計算においては、計算機の方が、すでに人間より賢いですね。

空間認識である空間ナビゲーションは、GPSの方が賢いです。

長期記憶に於いては、GoogleやWatsonが人間より上です。

私達は、こうした様々な思考を取り出して、今度は、自動車に搭載しようとしている訳ですね。

自動運転のためですが…、しかし、自動運転は人間のようには運転しない可能性があるのです。GPSと街並みや道順の予測から最も適切な経路を選択し実装しますが、「私は雨が嫌い」という情報をAIに入れておくと…雨の中を走りたくないというコマンドが入力されてしまい自動運転をしなくなってしまう…そんな応用力がAIは苦手なようです。

つまり、人間と同じようには考えない・・・そこがミソなのです。

しかし、気が散ることもなければ、鍋の火の消し忘れを心配することもなくなります。

自動運転とは、ただ運転するだけなのです。

もしかしたら、こんな宣伝文句で売られるかもしれません…「250馬力・250知力・意識ZERO」…その車には、意識がないのです。

さっき話したようなことに、関心はなく、気が散らないのがAIなのです。

 つまり、私たちが、認知症ケアでAIを活用して、やろうとしているのは・・・

できるだけ多くの種類の気づきをする思考を、作り出すことなのです。

介護現場の空間を、あらゆる種類の思考で、いっぱいにしようというのです。

介護や医学や科学の世界では、難しすぎて、人間自身の思考だけでは・・・、

手に負えないような問題も、実際にあることでしょう。

そんな時は、2段階で対処します。

新たな種類の思考を作り出して、・・・私たちが、そばで協働しながら、とても大きな問題である心の判断や気分や気持ちといった問題を解いていくのです。

そのために、私は人工知能AIとの会話を楽しみながらインターネット上で自動的に情報共有しタスクを実行していく、ボットを活用したのです。

つまり、未知の知能を作ろうという訳です。

タスクに、生活支援記録法(F-SOAIP)を採用してAIとの会話を整理して記銘することで、AIはより整理された情報を認知できるようになったのです。違った考え方をするのに。役に立つはずです。

違った考え方が、創造やユトリ、新しいケアの原動力となりました。

2つ目の側面は、私たちがAIを使うことで・・・

次の産業革命が起きようとしていることです。

最初の産業革命が起こったのは、人工動力とも言うべきものの発明があったからです。

それより前の・・・農業革命においては、何かを作るとしたら、全ては人間の筋肉か、牛や馬の動物の力を使わなければなりませんでした。

それ以外にはやりようがなかったのです。

産業革命における大きな革新は、蒸気や化石燃料を使って、この人工動力を生み出し、それを使って、何でも出来るようになったことです。

今では、トラクターに乗りながら、スイッチをポンと押すだけで、250馬力を意のままに操れます。

さらに、そうした力を使って、高層ビルや都市、道路を作り・・・

農場では、人力では到底作れない程・・大量の小麦や野菜などが、生み出されるようになったのです。

こうした人工動力は、また、送電網を通じて、全ての家庭や工場、農場に届けられ、ただ、何かを接続するだけで、誰でも、その人工動力を買うことが出来ます。

これは、新たな革新の源にもなりました。

そんな変化が何千、何万と膨れ上がる中で・・・その公式が生み出されたのが、産業革命でした。

身の回りのあらゆるもの、私たちに享受(きょうじゅ)している、この発展は、その掛け合わせの産物なのです。

そして、今、同じことをAIでやろうとしています。

AIはネットワークを通じて、届けられます。

例えば、電気歯ブラシを手に取って、それに人工知能を足せば、スマート歯ブラシが出来て、歯周病はたちまち治ってしまいます。

そんな変化が何百万と生じれば、次なる産業革命となるのです。

つまり、知力が加わって、要介護者や認知症の人の介護も自動化され革新的なケアが始まるのです。遠隔にいる家族とAIを通して両親のケアに参加します。

毎朝、一緒に住んでいるかのごとく声を掛けます。手で触れることもできます。

一緒に食事も可能です。AIによって空間を超越した仮想空間を構築して家族の距離を縮めることが出来るようになるのです。

医療・介護サービスや警備会社とボット連携して家族は人的バックアップも受けることもできるので安心です。

AIは、新たなcommodity(コモディティ)必需品になります。新たな、公共資源となります。AIはクラウドというネットワークを流通していきます。

電気がそうして広まったように…です。そして、かつて電化したあらゆるものを…今度は「認知化」するわけです。

それによって、次なる産業革命を起ころうとしているのです。

Industry5.0時代の到来です。

今、この瞬間、Googleにログインすれば、AIを購入して6円で100回の処理が出来るのです。既に、手に入るせかいなのです。

さて、3つ目の側面ですが・・・、

それは、このAIに体を与えることで、ロボットが出来ることです。

ロボットがボットになり・・・

私たちが、これまでやってきた多くの作業をこなすことになります。

仕事も作業の集まりですから・・・、

私たちの仕事も再定義されるでしょう。

一部の作業はロボットがするわけですから・・・

でも、ロボットが入ることで、新たなカテゴリーができ、新たな作業も大量に生まれることになります。

これまで必要だと気付かなかったものです。ロボットによって、必要になる新たな仕事、新たな作業が生まれてくるのです。

丁度、自動化によって、新たに作り出されたものの多くが、それまで必要とは思っていなかったのに・・・今では、なくてはならないのと同じです。

ロボットは人間から奪う以上の多くの仕事を生み出していきます。

大事なのは、ロボットに託す作業の多くは、効率性や生産性という観点で、定義されるものであることです。

肉体労働であれ、頭を使うものであれ、ある作業が、効率性や生産性に落とし込めるものであれば・・・、それは、ロボットがやります。

生産性はロボットのものです。

私たちはとかく、時間の無駄遣いにたけていますから・・・

私たちは非効率的なことが、すごく得意なのです。

科学なんて、そもそも非効率なモノでしょう・・・!

次から次へと失敗することで、前に進むのです。試験や実験をして、うまく行かないから進展するのであって、それが無ければ、進歩しません・・・から。

科学は、それ自体に、効率性があまりないことで、成り立っています。

革新も本質的には、非効率なことです。

プロトタイプを作って、うまく行かない、機能しないものを、試すのですから、

探検も元来、非効率的です。アートも効率的ではありません。人間関係も効率的ではありません。

こうしたことに・・・

私たちは引き付けられるのは、それが、効率的ではないからです。

高率性は、ロボットのものです。

今後、私たちは、こうしたAIと補完しつつ協働していくことになるでしょう。

AIは、人間とは違う考え方をしますから・・・

しかし、介護現場のニーズに最もたけているのは、介護者でもAIでもなく、両者のチームなのです。私たちは、これから、こうしたAIと協働し、将来は、どれだけボット(人間に代わって作業を行うPC)と、うまくやれるかです。

これが3つ目の側面で、ロボットは私たちと違い、誰もが使うもので・・・

敵対するのではなく、補完しつつ協働するものです。

さて、これからの未来は、どうなるのでしょうか?

今から25年先にいる人が、過去を振り返って、私たちがAIを語るのを見たとしたら、こう言うでしょう!

それは、AIなんかじゃない・・・インターネットだって!

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