1.はじめに
川越によれば、在宅ターミナルケアのゴールは在宅死ではなく、在宅での生活の延長線上に自然なかたちの在宅死があると述べている。また、自然なかたちの在宅死は、やすらかな死であり、看とる家族も心ゆくままでお世話ができたと思える死としている。症状コントロールが困難な場合や、家族に負担がかかりすぎて不安が強い場合は入院をして死を迎えることもあるが、死までの最後の日々で、死にゆく人が家族に最期のメッセージを残す場合があり、それは残される家族にとってたいへん重要な意味がある。しかし、これらの看取りには医療者、介護者の連携や、随時状態変化に合わせた対応が必要などの課題も多い。
2.目的
本事例は、末期がんが発見されながらも、自宅での看取りを希望されたA氏を中心に新しい地域包括ケアを意識した体制により在宅でのターミナルケアを経験することができた。この中で、随時変化する状態に応じた取り組みについて報告する。
3.対象者
A氏99歳 要介護度4 既往歴:緑内障・白内障・前立腺肥大・かかつ性膀胱・胆嚢炎(胆嚢癌の疑い)
4.倫理的配慮
本研究における個人情報の取り扱いについては、事前にご本人・ご家族に趣旨を伝え了解を得た。
5.利用の経過
1月下旬より右腹部痛の訴えあり、在宅医からの紹介で2月病院へ緊急受診し、胆嚢炎にて即日入院。ガンの可能性も含むも、検査やOPEの身体的負担の方が大きいとの家族の判断があり、退院し在宅介護となった。3月定期検査の結果、短期間で胆嚢が2mmに拡大していたが、OPEはしないとの意向を決められ自宅にて加療をされる。ご家族の希望により4月1日より本事業所でケアを行うことになった。
6.方法
遠隔ネットワークを使用し多職種で随時状態変化に合わせた情報共有と対応を可能にするためKCISを使用し体動が多くベッド上からの転倒防止の為眠りSCANを用い睡眠パターンとその変化を確認した
7.介入の経過
終末期にあたり、KCISを活用することで、看取りを経験していないヘルパーでもOJTが適切に得られる仕組みになっている。A氏は嘔吐・歩行障害が出現したが、ヘルパーが随時、適切な記録を入力すると、即時に医師からバイタル測定の指示、介護ステーションからは測定について指導員が教育に来るなどの体制でケアにあたった。A氏は、徐々に無表情が増え、発語も少なくなり、食事摂取ほぼ不可となり、服薬拒否も見られるようになったためケアプランは緩和療法が追加され、ご家族が氏に触れる機会が多くなった。その後も徐々に状態変化し経口摂取・服薬中止、1000ml/日点滴にて補液。SPO2:90%以下で酸素0.5。ターミナル対応に入った。家族・専門職間の情報共有をKCISの活用を行いながら精神的苦痛・身体的苦痛を取り除くケアを行った。眠りスキャンにて死期が近くなるに伴い覚醒時間が長時間続くようになることが分かったため、A氏はご家族に見守られながら安らかに永眠することができた。
8.考察及び結論
在宅での看取り・ターミナルケアにKCISを使用することで医療者・介護者との遠隔ネットワークが行われ、介護職員がKCISを使用し入力をした情報を医師がリアルタイムで把握でき、指示を現場に戻し即対応に移すことができた。このことで遠隔ネットワークが活用できたといえる。随時状態変化に合わせた対応が可能になり、事前にご家族にも氏の現在の状況を伝える事が可能になる。新人職員にアンケートを実施し、職員から「情報が医師からリアルタイムで来るので安心してケアにあたれた、ターミナル時に医師に報告すべき数値が明確化されていてすぐに相談ができた。」など在宅でのターミナルにおける随時変化する状況においた適切な方法で対応ができる事が分かった。ご家族からも「在宅にて看取れたことは本当によかった」というお言葉を頂き。本事例で在宅では難しいとされていた、ターミナルケアにおいてKCISを用い、医療者・介護者・家族の随時状況に合わせた対応の課題を克服すべく今後も取り組みたい。
参考文献:系統看護学講座 ターミナルケア p326