睡眠・排泄パターングラフを用いた生活リズム改善への取り組み
入居者一人ひとりに合わせた生活リズムの構築を目指して
羽田野 政治ら
【研究目的】
睡眠および排泄は、生命維持・活動に必須の基本的ニードである。特に認知症高齢者において、中核症状からくる睡眠障害や排尿障害といった症状の改善には、生活のリズムを整えることが重要だと考えられている。そこで、当研究所附属グループホームでは、入居者(72名)に対し、睡眠・排泄パターンを記録・グラフ化し、個々のADL・既往歴・認知度等に合わせ分析し、ケアプランに反映できるよう提案している。須藤(2006.2007)にて、このグラフの活用がいくつかのBPSDの軽減、ADLの維持・改善に有効であると報告された。
今回は、附属グループホームに入居しているA氏の事例、睡眠・排泄パターンと生活のリズム(環境適応)の関係について紹介する。
※尚、本研究における個人情報の取り扱いについては、事前に本人および家族に趣旨を伝え、了承を得ている。
【研究経過】
対象者:附属グループホーム入居者A氏 90代女性 ATD 要介護度:3 HDS-R:12点 既往:糖尿病 高血圧 両下腿浮腫 右大腿骨頸部骨折
【介入内容】
A氏入居(7/1)より、早期覚醒や中途覚醒、被害妄想・排便に対する不安感といった問題点が抽出された。そこで、A氏の睡眠・排泄パターンを1週間記録(7/25~7/31)・グラフ作成し、A氏の排泄に向う時間帯、中途覚醒が多く見られる時間帯等を視覚的に把握した。作成したグラフ、MRI画像診断、MDS2.1、バイタル測定・水分食事摂取量の記録、ケア記録(SOAP方式)を用いて分析を行った。その結果を計画作成担当者に提案、ケアプランへ反映し、半年後のA氏の睡眠・排泄パターン(1/9~1/15)との変化を比較・分析した。介入期:2007/7~2008/1尺度:問題行動評価票(TBS: 1994.朝田ら)
【研究結果】
介入前の分析結果から、『被害妄想の緩和に対し、無条件の肯定的尊重、安心できる環境(場所・信頼関係)・役割意識を構築すること』『排便に対する不安感には、毎日の下剤服用および排便のあった事実を繰り返し説明(現実見当識訓練)し安心感をあたえること、適度な運動を促すこと』がケアプランに反映された結果、排泄以外での中途覚醒の頻度5回→1回。早期覚醒(朝6時を基準とした)3回→0回。排泄時間帯が整ってきた。また、ケア記録からS「お皿拭こうか?」といった役割意識がみられるようになった。
【考察】
A氏の睡眠障害の改善は、環境適応によるものが大きいと考えられる他、排泄パターンが整ってきたこと・排便に対する不安感が現実見当識訓練により緩和したことも考えられる。
この取り組みによって、対象者の睡眠・排泄パターンが整ってきたこと、役割意識をもち、意欲がわいてきたことなどから、落ち着いた日常生活の回復が伺える。引き続き、被害妄想や排便への執着が見られるため、さらにスタッフとの信頼関係の構築が必要であると考えられる。
また、介護スタッフが1週間の睡眠・排泄パターンを記録し、その分析結果を見て検討することで、介護スタッフの対象者への理解が深まっただけでなく、専門知識の共有を図ることができたと考えられ、クライアントにとってより良い生活のリズムが確立されてきたといえる。