★理論物理学が認知症ケアを考える★
私は、よく恩師からパラサイトと呼ばれていました。
なぜなら、私には研究費もバックグランドもなかったので、よく他の人が集めたデータを分析に使わせてもらっていたからだそうです。
「何か発見できるから」と言い、私は構わずデータを集めました。
朝から晩まで、認知症の人の生活場面から得た大量のデータは、私にとって、まさに海の沈む宝物でした。
認知症ケアの分野では、現在、毎日のデータがIoTデバイスから集められていますし、介護者は、認知症の人を観察して、状態や作業を記録します。
IoTデバイスは、時系列にバイタルや環境を測ります。
居室やトイレの場所の温度や、湿度や、いつ起きて、いつ寝るのか・・・
IoTデバイスを使ったKCiS(Kyomation Care Interface System)の人工知能AIは、認知症ケアの大規模な予測シュミュレーションを繰返しコンピュータ内で行います。
解き明かすのは人間の脳の複雑な問題、認知症の行動・心理症状を緩和し介護負担を軽減する治療方法はあるのか、脳内に潜む人類の脅威となるものを探しだす計算をしているのです。
実は、この計算方法は、理論物理学を応用したビッグデータ解析を使っているのです。
理論物理学や天体物理学では、衛星や望遠鏡から得た膨大なデータを使って,恒星や惑星の場所や動き、エネルギー量などをデータから予測しているのです。
例えば、隕石によって人類滅亡の可能性はあるのか、宇宙に潜む地球の脅威になる隕石は存在するのか、この解析方法はNASAの指令で始まりました。
指令は、直径1㎞大の小惑星をすべて探すことでしたが、その解析はあっという間に解き明かされたのでした。
今は、直径140mの小惑星を探しています。
その大きさでも衝突すれば山梨県の甲府規模の都市が崩壊します。
ですから、今は直径140m大の小惑星で、地球に衝突しそうなものを探しているのです。
ところで、銀河系にいくつの恒星があるか知っていますか、答えはおよそ一千億、人類はまだ近くの惑星を識別できるようになったばかりで、直径140m級は、ほとんど見つけられないのです。
でも、AIがそれを可能にするのです。
ビックデータ解析を少し説明すると、まず、星は動いていても地球との相対的な位置は変わらないことを覚えておいてください。
それは、全ての星が動くからです。
星空を観察し、時間を空けて再び見ると全体が移動していることが分かります。
一晩に2枚、長期間継続的に撮った写真を比較することで、宇宙で不自然に動く物体を探し出すわけです。
その中の小さな変化を見つけ出すのです。
それが地球の脅威となる可能性があるものなのです。
まずは写真同士をリンクさせます。
点と点を結ぶと、その線は太陽系の軌道と重なります。
これは、三次元における捜索の古典的問題で、小惑星の動きは太陽や他の惑星の重力に基づきます。これを「影響」として計算するのです。
ですから、位置が分かればすぐ軌道を正確に推測できるわけです。
さらに、時間をかけて、その物体の観測を行えば正確さはより増すわけです。
地球に近づいているのか衝突するのかが予測できることになるのです。
小惑星が衝突する可能性が分かれば、私たちは事前に準備できるのでは・・・
つまり、予測できれば未来は変えられるし、予測できれば認知症の人や介護者の負担は軽減できるのではないかと・・・
予測分析の目的は、データにパターンを見つけ、それを認知症ケアに生かすことです。
認知症ケアの目的は、様々な認知症の人と介護者の要望を知ることです。
IoTデバイスを設置して,要望を集め、それを精査し相互関係を探りました。
何か読み取れるか,分析を進めると、台所や水場を調べるべきだと分かったのです。家庭内衛生に関係があったことが分かりました。
正直言って、とても驚きました。
不衛生な場所を予測するなんて・・・
当初、150の異なるデータ分析から始めました。
BPSDを発症する場所を探るためです。しかし、コンピュータが選んだのは不衛生な場所でした。
一見見た目が綺麗でも、空気が淀んでいたり妙に湿気が高かったり・・・
最終的に予測を導くための要素は31に絞れました。
例えば、居室のごみ箱の内容や量など、それらの分析によって答えを導こうとしました。
次に予測された場所のリストを作成に、そのリストと歩行距離とスピードの情報を重ね合わせました。
実際にBPSDが起こるのを事前に防ぐことが必要だからです。
たかが、ごみ箱やシンクの掃除だと思っていませんか、それらは、恐ろしい感染症の原因でもあるのです。
別段、誰からも苦情は出ていませんが、先手を打つことが目的ですから、正しい分析です。
BPSDをコンピュータで予測できるのか、初めは、疑っていましたが、今はその効果に驚いています。認知症ケアを行っている介護者には、とても効果的です。
今のところは、77%程度で完璧ではありませんが、ほぼ完璧ならいいのではないでしょうか、ちなみに壁紙や施設の設え、照明でもBPSDの発症回数に差が出ていたのです。
このデータは、施設を選ぶときに役立つかもしれませんね!
今は、歴史の転換期です。
どれだけ情報を持っているか、自分では分かっていません。
非常に貴重な情報ですから・・・
たとえば、あなたは何に興味があって、休日をどう過ごし、どこへ出かけているか、スマフォやパソコンの入力データから読み取ることが出来るのです。
そのデータをもとに予測できることは、計り知れないのです。
非常に価値のある情報ばかりですが、あやまった使い方をされるリスクもあります。
これらの集まったデータから、未来を予測することが出来るのです。
例えば、どこで、誰が、いつ、どんなBPSDを起こすのか・・・
何十年も前ならあり得ない話ですが、それが、現実になりつつあるのです。
その方法が、IoTからの情報やAIなどの統計学的分析をもとにパターンを見つけ出すのです。
つまり、データからBPSDを予測するということです。
そんな実証実験が、今年、高知で行われます。
私は「空間」の定義に興味を持っていました。ブラックホールなのか、身の回りの空間なのか?
一方で、空間の安全性にも興味がありました。
気づかないうちに日々の生活に影響を及ぼしますから・・・
病院や施設は在宅とは全く違います。
日々、変化し続けているのが施設です。病院や施設では、それぞれが、様々な問題を起こします。興奮、徘徊、妄想、抑うつや居眠りなどです。
今回、高知の実証事業では、日々異なる人が集まってくるデイサービスで、BPSDの発現防止に、予測プログラムのリスク・テレイン・モデリングを導入します。
リスク・テレイン・モデリングは米国のラトガース大学で開発されたプログラムで空間リスク分析を用いています。
犯罪などを予測するプログラムとして有名ですが、このプログラムをBPSDの発症予測に応用したのです。
これにより、環境の様々な特徴がどう影響し合うか、BPSDを誘発する特徴は何かを診断します。
リスク・テレイン・モデリングでは、場所に着目します。
BPSDは、ランダムには起きず特定の場所や人間の前で頻繁に起きます。
場所に重点を置かないとBPSDを誘発する性質は変わりません。
場所が変わらなければ、過去に起きた行為に常に引き寄せられると言う考え方です。
一番大事なのは、BPSDがどこで起きているかを施設や在宅の間取り図と合わせてみると、BPSDが発現する場所とパターンが見えてきます。
システムによって導き出された答えは、台所や脱衣室、そして浴室と洗面所が、問題が起こりやすい場所だと分かりました。
しかし、このAIの回答では、どこの施設でも当てはまるのでは・・・思いますよね。
BPSDの調査をグループホームや有料老人施設、在宅で行いました。
同じタイプの妄想が、同じ脱衣室で群発しているケースがありましたが、BPSDの背景にあるリスク因子は、それぞれの場所で全く違いました。
例えば、洗面所は、グループホームでは重要なリスク因子ではありませんでした。
一方、有料老人施設では、大きなリスク因子だったのです。
私達は、何がBPSDの要因になるのか、直観的に決めつけがちですが、実は相関関係が全くない場所もあるのです。
施設によって違うなんて、興味深いですね。
ただ、予測の真価が問われるのはBPSDの発生のリスクを取り除いたあとですから、結果ら判断することになります。
もともと、BPSDは発生しなかったと思う人もいるかもしれませんね。
でも大丈夫です。
実はこのプログラム、天候やバイタル変化の分析データからBPSDの発生の移動先も予測しているのです。先手を打つことが出来るようになることから、効率的で、介護者の負担を軽減してくれるのです。
リスク・テレイン・モデリングは、研究者が無料でダウンロードできるようにもなっています。
私達は、大量の介護データを扱っています。例えば、時空間K関数で求めた場合
K(s,t)=単位空間・単位時間当たりの点の数(密度)分のE(任意の点から時間t・距離s内にある点の数)で求めていくわけです。
同じ様に、気象予報モデルには、観測データや衛星データなど様々なデータが必要なのです。得るのがノイズばかりでは役に立ちません。
データを有効に活用するには、慎重な判断が必要です。
目的をはっきりさせ、どんな利益があるのか見極めることが大切になります。
勿論、データを安全に保管できるかも課題ですね。
次回は、高知の実証実験の結果を踏まえてお話します。