狂言の舞台で、道行という独語を言いながら舞台をさまよい一巡する叙景があります。
もともと道行とは旅をしながら歩く様子を指しますが、徘徊はその仕草に一見似た所があるようです。
徘徊とは目的も無く、しきりと住居の内外を繰り返し歩く情動的な行動ですが、認知症の方によっては何らかの原因、理由が有ることも分かっています。
徘徊を伴う方には、人格や運動機能に障害が出るとも言われていますが、早期には障害されにくいと言われています。
つまり、認知症の方が徘徊を起こすのは、神経学的には問題がなく運動機能が残っているからなのです。
また、認知症の方が外出をすると道に迷ったりする道順障害や、自宅を認識できなくなり家路にたどり着けない街並障害などの行動症状は、場所や空間の失見当識が早い時期から起こっていることが原因なのですが、アルツハイマー型認知症の方などには最も長期間認められるため周囲からなかなか理解されないようです。
不適切な目的で昼夜を問わず外出して、しばしば行方不明になってしまい事故に遭うなどの事態を考えると長時間付き添わなくてはならず介護者の負担は大きくなるBPSDなのです。
しかし、徘徊とは介護者側から見た場合の現象なのです。徘徊の根底には記憶障害、状況を認識出来ない状態や時間や場所などの見当識障害に加え、行動を抑制する能力の低下や行動の強迫などが引金になって起こり、たいがいは失認が関与して徘徊が始まると考えられているのです。
また、心理面では不安や不快感、不満や怒りなどの感情を言語化できず徘徊が起こるとも言われています。キョウメーションケアでは、このような徘徊の背景にある要因を様子観察13項目の行動、記憶障害、見当識、判断力、感情の項目で道順障害なのか街並障害なのかを見つけ出していきます。
私たちは道順と街並の両方の記憶を使って方向や距離を理解しているのですが、道順障害と街並障害の徘徊では、別の行動症状がみられるのです。
道順障害は、道順が分からず自分が何処にいるのか理解していないのですが、街並は分かっているのです。
街並障害は、その逆で道順は分かるのですが、街並が理解できず自分の家を通り過ぎてしまうのです。
これらは地理的記憶の障害ですが、それらに加え失認や時間が分からない失見当識や、状況を正しく認識できずに困惑していたり、不安にかられているのかなどを確認していくことも大切です。
次に、高齢者の病気の特徴である関節痛、神経痛、筋肉痛をはじめ肺炎や発熱などを確認し、原因を見つけ緩和していきます。
薬の副作用による身体状況などを言語化できずに徘徊している可能性も視野に入れておきます。
欲求によるものでは、家族や知人に会いたい、あるいは食べ物を探すためやトイレの場所が分からないなどを確認します。
そして、環境に対する不安、不満、違和感なども観察し、その人の行動の道行を見定めていきます。
たとえば、記憶の障害で状況を認識出来ない状態による徘徊の対応では、本人の部屋やトイレに名札や目印をつけると有効です。
欲求によるものには、集団生活やグループワーク、お茶などに誘い、コミュニケーションを図り散歩などに行くとよいと言われています。衝動的な徘徊には、徘徊スペースを確保し、危険がなければ注意して見守ります。時々声を掛けて休ませます。お茶に誘い水分を補給し体力の消耗を防ぐようにします。住居を出て行こうとする徘徊の方には、夕暮れ症候群に注意します。
午後3時以降の睡眠や居眠り(傾眠)を避けるため、レクリエーションに参加を促し気分転換を図ります。レクリエーションには遊戯療法が有効です。
遊戯療法には、風船バレー、玉入れ、輪投げ、カルタ、トランプ、じゃんけん、しりとりなどがあります。また、夕方の忙しい時には、介護者は傍に寄り添いエプロンや裾を摘ませて生活療法を実施し、役割を持たせます。
生活療法には、掃除手伝い、食事手伝い、配膳の手伝い、草むしり、タオルや洗濯物たたみなどがあります。介護者と一緒に行い、達成したら一緒に喜び、褒め合います。最後にお茶やお菓子で団欒をとるだけで徘徊は緩和されるのです。