皆さんにとっての日常は、目覚めのコーヒーで始まり、満員電車に揺られて、やっとの思いで会社についたら仕事の前にもう一杯、会社では電話を受けメールでやり取り、そして、コーヒーブレイクを挟んで、またまたメールや電話に対応、帰宅後はテレビを見てネットに接続、メールを何度もチャックして、ベッドに倒れこむ!こんな生活していませんか…
皆さんにも、これなしでは生きていけないことって必ずありますよね!
でも本当に必要なことなのでしょうか、依存というと、麻薬やアルコールなど深刻なケースを思い浮かべるかもしれませんが、今回取り上げるのは日常生活の中でやめられないDependence依存についてです。
認知症の方にとっては、不安と依存は隠れた主訴Hidden agendaと言われ“つきまとい行動”Shadowingに代表される行動・心理症状BPSDの一つです。
では、“依存”とはいったい何なのでしょう!
お気に入りのTV番組や囲碁、将棋、トランプゲームなど、はたまた好きでもないのに口ずさんでしまう歌とかありませんか?
何かが“やめられなくなってしまう”のは、報酬を求める器官、すなわち、あなたの脳なのです。
私達の脳は本能的に快感や快楽を求めるのです。これは脳内麻薬と言われるモルヒネによく似た神経伝達伝達物質のエンドルフィンやエンケファリン、大麻の成分によく似たアナンダミンや快楽物質のドーパミンなどが脳内報酬系に放出されるからなのです。
つまり、あなたは認めたくないかもしれませんが、誰もが何かに依存しているのです。
今回はそのメカニズムを解明していきましょう!
消防車のサイレンが聞こえると、ついつい火事場に行ってみたくなる。そんな心境に襲われたことはないですか、なぜ火事場に行ってみたくなるのでしょうか!
その理由は、普段、サイレンの音で火事場のイメージが物語の筋書きのように脳の中で描かれるからなのです。
それを処理している前頭葉が、自分のイメージ通りのストーリーを作り出し、現実世界がイメージで作られた世界と符合(一致)しているかどうか“再認”を求める記憶のメカニズムでもあるからなのです。
脳は、そのことが気になって仕方がなくなり、消防車のサイレンが近づいてくると、この先どうなるのだろうと、私たちが映画やTVに釘付けなったり、小説や噂話に夢中になったりするのと同様に次の展開を知りたくなるのです。
つまり、脳は常にTo be continuedなのです!
しかし、あなたを引き付けているこれらの現象は、映像や小説ではなく答えを求めようとする“依存”だと言ったら信じられますか?
実は、認知症の方に見られる幻覚や妄想も、このような“依存”へのイメージが根底にあるのではないかと考えられているのです。
しかし、自分は“依存”とは無縁だと思っている方は多いはずです。
では、依存とは無縁だと思っている方に質問です。
24時間以内に3杯以上のお茶、コーヒー、炭酸飲料、お酒を飲みましたか、ゲームやメールなど2時間以上ネットに接続しませんでしたか、ネットでつい買い物をしませんでしたか?
実に9割の回答者が、質問のいずれかにyesと答えているのです。
すなわち、あなたの脳も何かに“依存”していることになります。
でも、安心してください、これは脳内のあるものがそうさせているので、意識して“依存”しているものとは意味合いが違います。
それは、いったい何なのか!解明していきましょう!
ここで、関連性のテストをしてみましょう!
冷蔵庫に対するのがキッチンとしたら、革靴に対するのは何でしょう!
机に対するのが家具だとしたら、三角形に対するのは何でしょう!
ニンジンに対するのが野菜だとしたら、緑に対するのは何でしょう!
難しですか、では最後の問題です。
チョコレートに対するのが甘いだとしたら、では、梅干しに対するのは何でしょう!
全部できましたか、では回答です。
革靴は玄関、三角形は図形、緑は色、梅干しは酸っぱいですね!
今の気分はどうですか、全問正解でしたか、しかし、何か盛り上がらないのでは!
なぜならば、全問正解したからと言って、何の報酬もないからです。
物足りなさを感じたのは、当然です。
しかし、ある刺激を受けると盛り上がると言ったら、どうでしょう!
その刺激とは、正解するごとに拍手を浴びせられ祝福を受け賞品を受け取ったとしたら、こんな単純なテストも楽しくなるかもしれませんね!
デイサービスで、単純な作業をやらされても何も評価されなければ張り合いも無くなりつまらないでしょう!しかし、祝福されると…
脳は、祝福の拍手や声援は報酬である賞品と即座に関連付けるのです。
そして、脳内報酬系の神経伝達物質であるドーパミンを放出し、刺激と報酬の結びつきを強化させて喜びの感情が生まれるのです。
しかし、喜びの感情はやがて衰退してしまい同じようなことでは喜びを感じなくなってしまうのです。
人はある種の喜びを味わうと、それだけでは満足しなくなってしまうのです。
更なる“欲望”が更なる“依存”が生まれ更なる強い報酬を求めようと行動するようになるのです。
この仕組みをうまく使って、繰り返し刺激を与えるとパーキンソンやDLB(レビー小体型認知症)の方のケアには効果的です。
また、この回路は快感をもたらす他の刺激にも反応します。おいしい食べ物や表情などにも…
天気がよい日や曇りの日などの気持ちの変化にも…
先ほどのテストでは、あなたの脳が報酬を期待するように仕向けて祝福していたのですが、逆に、それが得られなくなった瞬間には、物足りなさを感じて不満になるのです。
依存と不満は、どうやら深い関係があるようですね。
だとすると、依存は悪い影響を及ぼすことになるわけですが、たとえば不満を解消するため、必要以上に食べたり、コーヒー、アルコール、ニコチンを求めたり,シャドーイングと言って人に付きまとってしまうことになってしまいます。
そこで、依存のプラスの面を知っておくとよいかも知れません!
私たちの脳は、新しい事を学んだり体験したりした時も快楽物質を放出します。
依存が悪い影響をもたらすのは、制御が出来なくなった時だけです。
では、私たちの脳が、依存におちいりやすいのであるならば、その兆候はいつごろから現れたのでしょうか!
例えば、2~3歳児に、すごく欲しいものがある時の反応を見ると「取ったり」「泣いたり」「せがんだり」します。
子供たちの前にお菓子を置いて15分間我慢してもらうとどうなるか調査したところ!
ほとんどの子供は誘惑に打ち勝てず、すぐに食べてしまいました。
認知症高齢者も同様です。
何かの欲求にかられると同じ行動を繰り返したり介護者に理解できない行動をしばしばとります。
これは、“依存”からくる欲求なので満たされない限り行動は続きます。それに対して、叱ったり、訂正したり、説得や強制的な指導をしても無意味なのです。叱られた原因は忘れてしまい、叱られた時の屈辱感だけが残ってしまい。のちのち、うつ状態や攻撃的にさせてしまうからです。
では、依存からくる誘惑と闘う方法で最も簡単で効果のある方法は、介護者が時間の経過を指で数えるように読み上げたり、歌を歌って気をそらすなど、気をまぎらわす方法が意外と有効なのです。
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しかし、人が誘惑に勝てないのは何故でしょう!
それは、脳が欲望に対して抵抗する力には限界があるからです。
自分の意志の力だけで誘惑と闘おうとしても、無駄です。
意志と深くかかわる前頭葉が発達し始めたのは、わずか20万年前のことです。
ですので、依存によって快感を得る原始的な脳の領域にはかなわないのです。
もしも誘惑に打ち勝とうと思うならば、歌を歌ったり、その場から違う場所に移ったりするのが効果的です。これは、FTLD(前頭側頭型認知症)への対応にもつながります。
人は、いくら誘惑を避けようと頑張っても、難しいのですが、何かにはまりやすい人間の脳の性質を利用することで、よい効果が現れてきます。その内容を実験してみましょう!
まず、紙に10秒程度で抜けられる簡単な迷路を書きます。そして、その迷路を解いてもらいます。同時にその時にメロディをかけております。
もちろん迷路が解けたら褒めることを忘れずに、でも、本当の目的は迷路を解く能力を試すことではありません。
では何がしたいのかというと…
まず、迷路を外して声掛けます。「集中してください!目を閉じてもOKです。何かメロディを思い浮かべてください!」・・・と
すると、迷路をといていた時にかかっていたメロディが脳内で反復するのです。そして、メロディを再度聞かせて訪ねると、このメロディが頭の中でなっていたと
いうのです。その理由を教えましょう!
皆さんも一日中、頭の中で同じ曲が流れていたなんて経験はありませんか、これはイヤーワームと呼ばれる現象です。
頭を使って簡単な作業をしている時に、メロディが頭の中で奏でられているとしたら、そのメロディはイヤーワームとしてインプットされている証拠です。
繰り返しが多くアップテンポでリズムに乗りやすいメロディがイヤーワームを起こしやすいと言います!
これらが組み合わさることで、頭に“こびりつく”イヤーワームが完成します。
脳はシンプルで繰り返しが多く簡単に口ずさむメロディを好むのです。
依存のメカニズムは理解出来ましたか、でもやはり自分とは関係のない話だと思っていませんか!
たとえ火事で燃えていても他人の運命に興味はないし、我慢なんかしたくない。
ヒット中の歌なんか歌ったこともない!
そんなあなたにも依存しているものがあるのでは、ひょっとして今でも依存しているのでは、たとえば、携帯電話を使いたい欲求に駆られていませんか!
大事な会議中でも着信音がするとついつい見たくなってしまいませんか、携帯電話の呼び出し音につい反応してしまうのには訳があります。
ある調査によると、そそられる音のトップ5は、肉が焼ける音、国歌、レジの音、そして携帯電話の着信音、1位は赤ちゃんの笑い声だそうです。
もちろん着信音は呼び出すためのものですが、着信がなくても一日に何回か携帯電話を見ませんか、スマートフォンを常時見続ける要因はなんでようか!
私たちはまるでパブロフの犬の様に呼びだし音が鳴ると反応します。
脳がドーパミンの放出を欲するのと同様…
携帯電話をチェックして、最新の情報を仕入れるたびに脳は報酬を獲ます。
友人からのメッセージでも…天気予報でも…
しかし、ある調査によるとドーパミンレベルが最も高くなるのは、賭けに勝ったり、朗報を聴いたりした瞬間ではないと言います。
実はその直前に最高値に達するため、電話を何度もチェックしてしまうのですね!届いているメッセージや「いいね」の数が多いことを期待することで、快楽中枢が刺激される訳なのです。
つまり、私たちが欲するのは幸せそのものではなくて、幸せを追い求める行為なのではないでしょうか!