私達の研究の一つに、単身・重度であっても在宅を中心とする住み慣れた地域で、認知症の方が生活を継続する事が出来る可能性を調査するシームレスケア研究があります。
そんな研究の中から、気象とBPSD(行動・心理症状)の関係について調査した結果を「今月の認知症予報」と題して報告しています。
8月から9月にかけて、暑さもピークを迎えます、こんな時期に注意しなければならないのが食中毒です。
食中毒というと、梅雨時から真夏のものというイメージがありますが、実は食中毒の発生が最も多いのは8月中旬から9月にかけてなのです。
厚生労働省がまとめた平成25年の食中毒の原因を見てみると、3.0%は原因が不明ですが、食中毒の原因のほとんどが細菌やウイルスによるものなのです。
最も多いのがノロウイルスで35.2%と原因の三割強を占めています。以下カンピロバクターが24.4%、サルモネラ菌が3.7%と続きます。
カンピロバクターとは、牛、豚、鶏、犬、猫などの排泄物により汚染された食品や水を介して感染する細菌です。
特に鶏肉などの肉類は汚染されている可能性が高く、カンピロバクター食中毒の原因食品になっています。
比較的少量の菌数で感染するので認知症高齢者では、ペットやヒトとの接触によって直接感染することもあります。
感染すると2~7日で発熱、腹痛、下痢、血便を伴う腸炎症がみられ、2~5日で回復することが多いのですが、認知症高齢者などでは症状が長引く場合があります。
また、この菌は低温に強くて4℃でも長期間生存するので冷蔵庫の過信は禁物です。
その他に、認知症高齢者に多いのがO-157として知られる腸管出血性大腸菌で2.6%、そして、腸炎ビブリオ1.0%です。
病原大腸菌には4種類あって、発病のメカニズムも症状も違います。
O-157と呼ばれる腸管出血性大腸菌は、水様の下痢が頻回に起こり、脱水症状を呈します。
最近は地球温暖化の影響も含め真夏の暑さが9月まで続くようになっているために、O-157の危険性は年々高まっているのです。
0-157に罹ると3日目頃からへその周りが強く痛み、血便が数日続きます。
発熱は38℃以下で嘔吐はあまりありませんが認知症高齢者では顔や下肢のむくみ、顔面蒼白、意識の混濁が続発し、生命にかかわることもあります。
また、腸炎ビブリオは海水や海中のプランクトンなどに分布しており、海水の温度が高いほど繁殖が盛んになります。
実は海水の温度は気温よりも遅れて8月の末から9月にかけてが最も高くなるのです。
このために魚介類を原因として9月の食中毒が多くなるわけです。
特に認知症高齢者は8月の末から9月にかけては、夏の疲れで胃腸も弱っていることや、記憶の障害などで、ついうっかりして食品を冷蔵庫に入れ忘れるなどのことが重なって、食中毒の発生が多くなるのです。
腸炎ビブリオは真水や熱に弱いので、よく水洗いを行い、十分に加熱をすることで防げるのです。
そして、冷蔵庫に保管するなどのことを守れば防ぐことができます。
大事なことは、食中毒の予防は、まず十分な手洗いから始まるということです。 手のひらだけでなく、指のつけね、爪の間、そして忘れがちなのが指輪の周辺です。
指輪の下は細菌の住みかになりやすいのです。
また、ブドウ球菌は、全体の3.1%を占める高い感染性を持っています。
ブドウ球菌は手や指の傷口、できものなどから食品を汚染してしまうのです。
介護者の手に怪我をしている場合には、特に注意が必要です。手の傷口は、ばい菌の巣といっても過言ではないからです。
手に傷がある場合には調理の際に必ずディスポなどの手袋をする必要があります。
また、まな板や包丁、布巾なども常に清潔にするように心がけたいものです。
食器を洗うスポンジなどは使った後によく水洗いして乾燥させておいてください。
サルモネラ菌の場合には、ネズミのほかにペットからも汚染されることがありますので注意が必要です。
食中毒の原因となる細菌は気温が高いほど繁殖が盛んになります。36度前後で最も活発になるのです。
また、湿度が高いほど菌の増加する速度が速くなるのです。
そして意外に多いのが、アニサキスと呼ばれる寄生虫による食中毒です。
全体では9.5%とサルモネラ菌やブドウ球菌よりも多いのです。
アニサキスの幼虫は、サバ、アジ、イカ、イワシ、サンマなどに寄生します。
魚介類の内臓に寄生しているアニサキスの幼虫は、鮮度が落ちると、内臓から筋肉に移動するのです。
その症状は食後2~8時間後に激しい腹痛、悪心、嘔吐を生じれば胃アニサキス症です。10時間後以降に激しい腹痛、腹膜炎症状を生じた場合は、腸のアニサキス症といわれています。
認知症高齢者がかかりやすいのが胃アニサキス症です。
食後の2~8時間後に激しい腹痛を訴えたら、食べたものを確認して医療機関を受診しましょう。
自然毒では、最近観葉植物を扱う機会が増えたこともあり、植物性自然毒による食中毒は5.4%で、フグや貝などの毒で食中毒になる動物性自然毒2.1%を上回っているのです。
植物性自然毒とは、一般的にはキノコや山菜による食中毒を言いますが、ジャガイモの芽や光に当たって緑色になった部分に天然毒素であるソラニンやチャコニンが多く含まれているのです。
ソラニンやチャコニンを摂取すると吐き気や下痢、嘔吐、腹痛、頭痛、めまいなどの症状が出るのです。
特に施設などでは家庭菜園などで作られた未熟で小さなジャガイモを蒸かして食べていると楽しいお話を耳にします。
施設の利用者や介護士の皆さんで園芸療法と題して行っているイベントも一つ間違えると大変な問題になってしまうのです。
実は、未熟で小さなジャガイモには、全体にソラニンやチャコニンを多く含んでいることもあるので、ジャガイモを食べた後にこのような症状が出たら食中毒の可能性が大きいということです。
ジャガイモは茹でてもソラニンやチャコニンは分解しないので量は減りません。
それだけでなく170℃以上で揚げても、すべてが分解することはないのです。 ジャガイモの皮や芽、緑色の部分を取り除くことが予防になるのです。