あなたは、記憶に自信がありますか、見たものは大抵お思い出せますか、
今回は脳と記憶について学んでいきます。
実際には、私たちの脳と記憶は、常に私たち自身をあざむいているのですが、それには理由があるのです。
記憶memoryは、ただの記録(キロク)recordではないのです。
私たちは、記憶に絶対の信頼を置いていますが、記憶というのは時としてとてつもなく不正確になりえるのです。
たとえば、私達の脳は実際には起きてもいないことを思い出して、あたかも本当に置きているように感じるのです。
ここでは、そんな不可思議な脳の謎を追及してみましょう。
人は注意を払って記憶しないものは、思い出せないのです。
実際、人が意識している箇所は、視覚で言えば非常に小さな円で、動き回るスポットライトのようなのです。
複雑で洗練されているように思える脳ですが、日々の生活で拾い上げているのは、ほんのわずかな情報のみなのです。
選択された小さくて細かい情報だけが、記憶を決定づけているのです。
つまり、記憶というのは、身の回りに起きていることの要点を抜き出したものでしかないのです。出来事を全部覚えているわけではないのです。
人の記憶は、気付かないうちに次から次にと新しい情報で上書きしてしまいます。しかも、脳は、そんな記憶をもてあそんでいるのです。
人間の脳は、地上最高の装置と呼ばれています。
宇宙の謎を解き、人類の歴史を書き換えてきた装置です。
しかし、私たちの脳は完ぺきではありません。
そして、おそらく、最大の難点は記憶でしょう!
注意を払っている時でさえ、細部が抜け落ちることが多々あります。
How much information という報告があります。その試算によると、人間の脳は1日に34ギガバイトに相当する情報を受け取って1日に消費する言葉は平均10万語だそうです。しかも、記憶に残る分だけでこの容量ですから凄いです。
ですから、人の脳が、いかに複雑とは言え、日々余りにも大量の情報に接するため、細部の記憶があいまいになってしまうのは当然と言えるでしょう。
脳は推定で1秒間に4000億ビット分の情報を獲得しているのですが、私たちが意識して記憶に留めておけるのは、そのうちの2000ビット分しかいないのです。
つまり、私たちは、日々の生活で1秒間に経験する物事の2億分の1しか記憶していないことになります。容量に比べると、とても少ないですよね!
しかも、その情報がどのぐらい大事で、いつ必要になるかといった判断もつかないのです。
◆ ◆ ◆
人の記憶とは、情報を格納する記憶ホルダーがいっぱいにつまった。ファイルキャビネットの様なものだといった人がいます。
しかし、記憶というのは、これまで考えられていたよりも遥かに複雑で捕らえどころのないもののようです。
それは、単純に一つのシステムでなく脳全体にまたがる複雑なプロセスだからです。記憶は我々の想像以上に精巧なものなのです。
単に過去の物事を思い出すだけのものではありません。むしろ記憶は細かい情報の維持を苦手としているのです。その理由は、脳が時折、かってに記憶を作り出してしまうからです。
そこには、人や場所、出来事の詳細が盛り込まれているため、あたかも実体験の様に勘違いしてしまうのです。
つまり、私達の脳は偽りの記憶を生み出すことが出来るのです。人はだれでも、過去の出来事を思い出しますが、そんな回想の中に人によっては、前世の記憶を覚えているという人も少なくないのです。
前世の出来事を思い出せると信じる根拠は何なのでしょうか…
それは、おそらく脳による最後の整理方法が記憶の実態と左右するからではないのかと考えられているのです。
人間は、事件、災害、恐怖、死などのPTSDで強く焼き付いた出来事の記憶を変質させることがあります。
「自発的想起」とか、「残留記憶」とか呼ばれる記憶です。
歴史的な出来事を、歴史書で精査し、その細部までに至ったときや、小説に「はまる」と自分もその場にいたと思ったりするのです。
アルツハイマー病では初期に幻覚は低いのですが、このような妄想の頻度が高いのです。
微に入り細にわたり、学んでいくうちにこれらが、人生の一部になってしまったのでしょう。このように人の脳と記憶は、実に単純に、しかも、たやすく操れるのです。特定の出来事の詳細な情報を与えられれば、脳はそれを自らの体験と捉え始めてしまうのです。
それは、まさに「自発的想起」と言えるでしょう。
実体験かどうかは関係ないようです。脳内の記憶は、新しい情報で汚染され、記憶は操られてしまうのです。
本人の意志とは関係なく、記憶の細部を混乱させられてしまうわけですから、実際に記憶が混乱し、事実を間違って受け止めてしまうのです。
言い換えれば、これは人間の脳の特性なのです。
◆ ◆ ◆
私たちはなぜ、事実でもない記憶にたいそうな自信を持てるのでしょうか?
研究では、人の短期記憶は、1回の出来事で4~7つのデテールしか脳内に保持できないのです。
これがアメリカの心理学者のジョージ・ミラー(George Miller)博士の言う「マジック7」なのです。
その数を超えると、人は記憶違いを起こすと言われています。
短期記憶が保持できない情報量に達したとき、人は混乱し始めます。
この仕組みが、日々の生活の中で、勘違いを生み、それを信じているのです。
このように虚偽記憶(False Memory)は珍しいことではありません。
特に感情が高ぶる出来事の時は、こうした虚偽記憶が生じやすいのです。
記憶に自信があっても、その記憶が正しいとは限らないのです。
記憶は書き換え可能だからです。
私たちの脳には、数多くの記憶が詰まっていますが、それらが正しいかを証明できるのでしょうか!
出来ない時の方が多いのです。
自分(思い)を信じなさいRemembering is believingと言われますが、人は、聞きなれた話題の場合や誰にでも当てはまる曖昧なことを自分に当てはめて、そのものを過大評価してしまう癖があるようです。
その心理現象は「バーナム効果」とか「真実性錯覚効果」と言われています。
人は一つの主張を聞けば、聞くほど客観的な真実に関係なく、その主張を信じてしまう傾向があるのです。
メッセージを反復すれば、人の頭に記憶をねじ込み、虚偽の真実を強化してしまうのです。
継続的なプロパガンダが効果的であるのも広告会社が同じコマーシャルを繰り返すのも記憶の中にメッセージを植え込むバーナム効果であり真実性錯覚効果なのです。
人の記憶が細部を無視するケースは、他にもあります。
実は脳は、意識して得たい情報の判読が終わると、いともたやすく、細部を見過ごしてしまうのです。
そして、予期していないものは見ないようにしてしまうのです。
脳は全体像を把握する過程で、細部をないがしろにしますが、そこで、人の記憶の重要な役割が浮き彫りになってきます。
ただの間違いに思えることでも、実はそれが脳の仕組みを表しているのです。
35億年に渡って生物が進化しているといってもこの程度なのです。
しかし、他の動物に比べると人の脳は効率を優先しているようです。
なぜならば、脳の消費エネルギーは、およそ15ワット程度ですから、大事なことのみに集中しなくてはエネルギー不足になって何も記憶できなくなってしまうのです。
◆ ◆ ◆
もう一つの記憶にストレスから身を護るための役割があります。
忘却と言われる記憶です。
私たちの日常にストレスはつきもの、赤ちゃんの泣き声に、上司の小言、交通渋滞に、期末試験、一方でストレスは危険から身を守る役目も果たしています。
人間は不安に駆られると、脳の中で次々とホルモンが分泌され、体の状態に変化が起こります。
つまりストレスを感じるのです。
ストレスを感じると、心臓がバクバク、舌はもつれて動かない、頭は真っ白…完全にフリーズしてしまいます。このような、一連の体の反応を引き起こすのは、脳の中にある偏桃体です。
ストレスを感じると、偏桃体が警告を発し、アドレナリンとコルチゾールが過剰に分泌されます。
これらのホルモンが出ると呼吸が早くなり、心拍数が増え、瞳孔が拡大します。
全て危険から身を守るための反応です。
では、日々感じるストレスの正体とはいったい何でしょう!
カリフォルニア工科大学の神経科学者、チェス・ステットソンChess stetson博士によれば、ストレスは刺激を受けた時に起こる一連の反応を指すと言います。
それが原因で、様々な生理現象が引き起こされるのです。
心拍数が上がるのも、悪いこととは言い切れません、その状況を早く切り抜けるために役立つこともあるのです。
つまりストレスに対する反応は、人によって違うわけです。
ストレスによる緊張に負ける人もいれば、緊張を味方につける人もいるのです。
些細なことで、直ぐパニックになる人もいれば、緊迫した状況でも冷静に行動できる人もいます。
貴方はどちらですか、うまくストレスに対処できる方ですか、それともできないタイプですか…
人は無意識に、攻撃か逃避反応を示します。
人間の脳は危険だと感じると、とっさにこの反応を起こす仕組みを持っています。つまり身の安全を最優先するように、出来ているわけです。
身を守るためとはいえ、現代人はこの反応を引き起こす要因に囲まれて生きているようなもの・・その結果、気分や健康、更には記憶に影響を及ぼすことになるのです。
その理由は、次から次にと飛んでくる指示にストレスを受けた脳が、ストレスホルモンを分泌し、短期記憶を低下させたからなのです。
このストレスホルモンの分泌が続くと、記憶を司る海馬の細胞が損傷してしまうのです。つまり、身を守ろうとして逆に自分を傷つけてしまうわけです。
だからこそストレスを貯めないことが大事です。ストレスの原因となるのは、視覚情報だけではありません。目から入る情報だけでなく、音もストレスの原因となります。脳は大きな雑音に素早く反応するように進化したからです。
現代では、脳がストレスを受けそうなノイズが街にあふれています。
ストレスを強く感じているときは、20%しか能率が上がりませんが、ところが応援されたり、期待されたり、褒められると、80%も能率が上がるという報告があります。
ストレスに直面したときは、ポジティブな応援の言葉が、良い結果を生むのです。ストレスに遭遇したら、否定的なことを考えず、前向きに対処しましょう!
ストレスを完全に排除するのは不可能ですが,でも、ストレスに確実に対処できる方法があります。
それは、笑いです。笑いはストレス解消の最善の方法です。