私達の研究の一つに、単身・重度であっても在宅を中心とする住み慣れた地域で、認知症の人が生活を継続する事が出来る可能性を調査するシームレスケア研究があります。
そんな研究の中から、気象とBPSD(行動・心理症状)の関係について調査した結果を「今月の認知症予報」と題して報告しています。
日本は四季の変化の美しい国です。歴の春は立春からで二月初めから五月初めになりますが、気象では、3月から5月を春、6月から8月を夏、9月から11月を秋、12月から2月を冬と決めているのです。
実際には、6月から7月にかけて雨の季節、梅雨がありますから、日本の季節は四季というより五つの季節、五季に分類する方が正確だと気象協会の村山貢司氏は言っています。
日本に春を告げる強い南風を春一番と言いますが、この春一番は立春以降に初めて吹く風のことで、もともとは九州の五島列島の漁師さんが使っていた造語だそうです。
春一番が吹いた翌日は、また冬型の天気に戻ってしまい北風が強く寒くなり、
気温の変化も大きく、ぽかぽか陽気になったかと思うと、翌日は真冬の寒さに戻るようなことになるので認知症高齢者の方々の認知の変動や行動・心理症状も出やすくなるので注意してください。
このように天気の変化が速く気温の変動の大きい年は、いつもにも増して体調を崩しやすくなります。
それだけでなく3月から4月の初めは、介護・看護職員の移動や方針の変更など年度末特有の環境の大きな変化が重なって様々なストレスをもたらし、認知症の進行が顕著になるのです。
春一番が終わる3月の末になると各地で桜が咲き、なんとなく気分も軽くなりますが、この季節には「花曇り」「花冷え」という言葉があります。桜見物に出かける施設も多いと思いますが、出かける時は例年になく温度差がありますので暖かい服装で出かけないと肺炎や風邪を引くことになりますから注意が必要です。
「梅は咲いたか桜はまだかいな」の言葉の通り、春は梅の花から始まります。
この梅の花と相前後して始まるのが、スギ花粉の飛散です。関東から西の地方では毎年2月上旬から中旬にスギ花粉の飛散が始まり、スギ花粉症の人はくしゃみや鼻水、目のかゆみなどに悩まされる季節となります。
また、花粉がいつ頃から飛び始めるかは1月の気温に大きな影響を受けています。現在は日本の各地でスギ花粉の予報が出されていますので、認知症の方の介護を行っている方は有効に利用してください。
予報からスギ花粉の飛来を確認してから6日~8日ほど過ぎると花粉数が増え、この頃から多くの花粉症患者が出てきます。そして数日後には症状も次第に重くなって、目のかゆみや鼻水だけでなく、認知症の方は特に敏感になり風邪症状に似た咳込みや微熱も出てきます。
スギ花粉が多く飛ぶ日の気象条件は、晴れて気温が高い日で空気が乾燥している日が強い日です。
雨上がりの翌日の午後は、これらの気象条件が揃うので翌日は外出や洗濯ものを干すのは控えましょう。
そして、豆知識として、花粉は夕方を過ぎて陽が沈むころが、実は一番飛散することを覚えておいてください。これは、上空に舞い上がっていた花粉が日没とともに温度が冷やされて地上に落ちてくるからです。
この時間帯の買い物や夕暮散歩などは避けた方がよいでしょう。
そして、一ヶ月ほど遅れてヒノキ花粉が増加してきます。つまり4月末になっても花粉症の症状が続いている場合は、ヒノキ花粉が原因になっているということです。
ところで、認知症の方は春先になってスギ花粉が飛び始めると、くしゃみや鼻水、目のかゆみなどの症状が出始め、それに続発して焦燥感や掻痒感から気分障害を起し、暴言・暴力をはじめとする逸脱行為や徘徊、周徘(施設などで同じ場所を歩き回ること)などの行動・心理症状が急激に多く表出してきますが、これが花粉症の時期と重なるので関係しているかという因果関係はまだはっきりと分かっていません。
ただ、認知症の方はセルフケア的に自身で花粉を防ぐマスクや眼鏡で花粉を防ぐ行為そのものが出来ないからとも言えます。
そうであれば、医療面から治療を行うメディカルケアで、ということになるのですが、症状を抑える抗ヒスタミン剤を使うと認知症の方は、その病態から薬物に過敏に反応し眠気や喉の渇きなどの副作用によって、かえって認知症を助長してしまうのです。
最近では、副作用の少ない抗アレルギー剤を服用することで、症状や発症を遅らせる方法があるようですが、今のところ、認知症同様に根本的な治療法がないので、一番の予防は、花粉症は体の中に花粉が入り込んで起きる病気ですから、花粉が飛び始める前から予防し、花粉が飛散して来たら花粉を浴びないように、居室では加湿器や清浄機を使って花粉を取り除き、外出した洋服は部屋に持ち込まない顔や手はこまめに洗うなどの予防に尽きるかもしれませんね。