Science Park12月号★iPS細胞研究でDHAがアルツハイマー病に効果があることが判明!★

Science(サイエンス)は、日本語に訳すと科学と訳されますが、私たちの認知症高齢者研究所では自然科学を意味しています。

また、認知症ケアの本質を探る場合においては自然科学的知識と位置付け、根拠に基づくKyomation Care(キョウメーションケア)の体系の根幹にもなっています。

そして、Science Park(サイエンスパーク)では、認知症高齢者研究所が独自に集めた認知症ケアに必要な情報や研究、開発などから、認知症ケアに必要なアイデア・ソース(対人援助技術やケア方法の発想)として活用して頂けることを願って情報公開しています。

 2014年、日本の認知症の患者数は550万人で高齢者の15%になりました。

認知症予備軍である軽度認知症MCIの高齢者数も400万人を超えました。

ですから、早急な認知症対策が求められているわけです。

たとえば、九州大学が認知症になる確率を福岡県久山町で調査した結果から推測すれば、60歳以上の人が生涯に認知症になる確率はなんと55%になるそうです。つまり2人に1人は認知症になるということなのです。

恐ろしいことですね!しかし、罹ったら治らないと言われてきたアルツハイマー病ですが、医学の進歩は目覚ましく、理化学研究所の西道博士の研究で、アルツハイマー病の原因物質と言われるアミロイドβタンパクを分解して減らすネプリライシンという酵素が発見されたのです。これによって少なくとも近い将来アミロイドβタンパクが分解され、アルツハイマー病に罹らない時代が来るかもしれませんね!

また、20127月にカナダ・バンクーバーの国際アルツハイマー病会議で、アルツハイマー病は発症の約25年前から、アミロイドβが溜まり始め、脳脊髄液に変化、発症15年前に脳内アミロイドβの他にタウ蛋白質の増加が顕著になり、10年前から海馬が委縮、5年ほど前から脳の糖代謝の低下やエピソード記憶の障害が確認されたと発表があったことは、記憶に新しいところです。

そうするとアミロイドβタンパク仮説は、原因物質として仮説から一歩前に進んだことになり、ネプリライシンによって治療が始まる可能性も高くなったと言えるのではないでしょうか。

 そんな中、日本では2014年になって大阪大学の森原剛史准教授らの研究チームが、アルツハイマー病の原因になるアミロイドβタンパクが脳に溜まる量を左右する遺伝子を見つけたという発表がありました。

研究チームは、人間にあるKLC1Eという遺伝子に注目し、人間の神経細胞を使った実験で、この遺伝子を8割減らすと、アルツハイマー病の原因のアミロイドβの量が45割減ったことを突き止めたのでした。

また逆に、この遺伝子が作る物質の量を増やすとアミロイドβの量も増えることも突き止めました。

加えて、研究チームは、アルツハイマー病患者の脳にあるKLC1Eが作る物質の量が、生理的な老化でアルツハイマー病でない人より3割多いことも確認したとしています。

もしかしたら、これはアルツハイマー病の診断や薬の開発につながる可能性があるかもしれませんね。

根本的な病態に対する治療薬の開発はいまだ道半ばですが、今年は、2011年に製造承認されたアルツハイマー型認知症の治療薬の3剤「メマルチン塩酸塩(メマリー)」「コリンエステラーゼ阻害薬ガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(イクセロン・リバスタッチ)」が相次いで販売されました。

この領域では約10年ぶりのことですし、コリンエステラーゼ阻害薬ドナベチル(アリセプト)」を含め、日本では世界標準の4製剤が使用できるようになったわけですね。

アルツハイマー型認知症の記憶障害、見当識障害、失語、失行、実行機能障害に対しての効果を持つ薬剤が、その症状に合わせて処方できるようになったことは治療の枠組みが大きく変わる素晴らしいことだと思います。

たとえば、軽度および中等度に適応するリバスチグミン、中等度および高度に適応するメマルチンはコリンエステラーゼ阻害薬とも併用できるなど、治療の選択肢が増えアルツハイマー型認知症の症状に適した治療法が用いられるようになることが期待できるということですね。

それだけでなく、このような認知症状を抑える薬から、認知症進行を抑える可能性のある薬も見つかったのは驚きでした。

脳梗塞の再発防止薬である「シロスタゾール」や糖尿病の治療薬である「インスリン」が認知症進行を抑制することが分かったことは朗報でしたし、こんな身近なところに認知症薬があったことに驚いた年でもありました。

確かにアルツハイマー病のリスクファクター(危険因子)に糖尿病がありましたが、その治療薬が認知症の発症や進行を抑制するとは気づきませんでした。

また、京都大学と長崎大学の研究チームでは、iPS細胞を使いアルツハイマー型認知症の発症のメカニズムを再現し、アルツハイマー型認知症の原因物質に異なるタイプが存在することを発見したのはつい最近の話ですが、その中で興味深いのが、ドコサヘキサエン酸DHAがアルツハイマー型認知症の進行を緩和し、神経細胞死も抑えるということです。

アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞が死滅することで認知機能が低下し日常生活動作に支障を来してくる病気です。脳内に蓄積するアミロイドβタンパクが原因物質とされているわけですが、京都大学の井上准教授らの研究チームは、遺伝子変異でアルツハイマー病に罹った、若年性(家族性)で原因遺伝子であるアミロイド前駆体タンパク質APPに遺伝子変異を持つ患者さんと、家族歴のない高齢発症(孤発性)のアルツハイマー型認知症の患者さんら4名の皮膚から細胞を採取してiPS細胞を作製して神経細胞にして観察したところ、APP-E693⊿と呼ばれる変異があると、アミロイドβというタンパク質がオリゴマー(分子が結合した重合体)と呼ばれる凝集体となって老人班を形成するわけですが、脳の神経細胞にダメージを与える小胞体ストレスや酸化ストレスを引き起こして、神経細胞死を生じやすくさせることを発見しました。

それとはまったく逆の効果でドコサヘキサエン酸DHAによって、これらの細胞内ストレスが軽減され、神経細胞死も抑制されていることが分かったのです。

それだけでなく、高齢発症の孤発性のアルツハイマー型認知症の中にもAPP-E693⊿変異と同様の細胞内アミロイドβのオリゴマー及び細胞ストレスがみられることも分かりました。また、このような孤発性のアルツハイマー型認知症の方に関してもドコサヘキサエン酸DHAによって、アルツハイマー型認知症の進行を緩和し、神経細胞死も抑制出来ていることも分かりました。

これは、アルツハイマー病で死亡したヒトの海馬付近のリン脂質中のDHA含有量が7.9%であったのに対し、アルツハイマー病以外で死亡したヒトの海馬付近のリン脂質中のDHA含有量は16.9%もあったことで裏付けます。

つまり、DHAはアルツハイマー病を抑える方向に作用している可能性があるということです。

DHAには、動脈硬化や血栓の形成を予防し、血圧を下げる働きもあるのですが、アルツハイマー病の方がDHAを補給することで、死んでしまった神経細胞の働きを周りに残っている神経細胞が補って働くように促進させる物質がドコサヘキサエン酸DHAなのです。

もともと認知症ケアの食事においても、魚に含まれるEPADHAなどの脂肪酸を摂取したり、ビタミンE、ビタミンC、βカロテンなどを含む野菜や果物や赤ワインなどに含まれるポリフェノールを摂取することで孤発性のアルツハイマー型認知症の記憶障害、見当識障害、失語、失行などの進行を抑えることは分かっていました。

たとえば、11回以上魚を食べている人に比べ、ほとんど魚を食べていない人は、アルツハイマー病の発症の危険が約5倍になるというデータもありますし、米国の加齢研究所の報告では、生成された炭水化物(白砂糖など)を定期的に摂取しているとアルツハイマー病を発症させる可能性が高いと報告しています。

一方で、パプアニューギニアのキタバ島の例をあげ、イモ、ココナッツ、魚を食べると空腹時のインスリン濃度は低く、認知症は見られないとする報告もあるくらいです。

運動は有酸素運動で高血圧やコレステロールのレベルが下がり、脳血流量も増すため認知症発症の危険性が減少するとし、ある研究では、普通の歩行速度を超える運動強度で週3回以上運動している人は、全く運動していない人と比べると50%もアルツハイマー病に罹らないと報告していました。

生活習慣では、テレビ、ラジオの視聴、トランプ、将棋などのゲームをする。文章を読む、楽器の演奏や音楽に合わせた体操、ダンスなどを行う人は、アルツハイマー病になる危険性が減少するという研究報告が相次ぎました。

2014年、今年になってこれまでの常識を覆すほどの認知症対策が世界で次々と成果を上げてきているようで、認知症の方にとってはポジティブなお話が毎日聞けた年でもありました。

なんだか、認知症ケアを研究している私たちにとっても来年は、より具体的な治療法や療法が報告されてくるような期待が膨らむ年でありますように祈願しております。

ちなみに、ここだけのお話ですが、DHAは前立腺癌のリスクを25倍も高めるという報告もありますので、男性の方は、ほどほどに摂取するよう…お気を付けくださいませ!

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