認知症と付き合う隠れ技 キョウメーションケア
認知症高齢者研究所 所長 羽田野 政治の連載コラム 今回は第15回目「ピック病への対応2」です。
再発率が高く 段階的に悪化
75歳以上の高齢者で根底にアルツハイマー病がすでに存在している方や高血圧の方などに多い脳血管性認知症。脳卒中と言われる血液を送る動脈が挟まったり詰まったりして一時的に栄養や酸素などの供給が滞り、その周辺の脳組織が破壊されることがきっかけで、記憶・認知機能の障害が起きる認知症です。
脳血管性認知症の病態は大出血や数多くの小出血が脳内の様々な部位で起きることによって症状が多様に変化するので、一律の介護では難しい認知症として知られています。今回は前後半にわたって脳血管性認知症の病態と対応について学んでいきましょう。
脳血管性認知症の一般的な特徴として、新しいことを覚え難くなる記憶障害が中核障害として現れる方が多いようです。また、数分から数時間前の出来事を思い出す近時記憶が強く障害される一方で、昔の記憶など遠隔記憶は比較的に保たれているのです。
時間や場所などの見当識の障害は強いのですが、判断力や理解力などは比較的に保たれていて病識もあり、人格も保たれているので介護者に違和感や奇異感を与えることは他の認知症に比べると少ないのです。
進行は、脳血管障害が起きることが原因なので、通常は発症を繰り返すことで症状が悪化します。どのくらい症状が悪くなるのかは発症の程度によりますが脳血管障害は再発率が高く、また自覚症状がない小規模の発作も起きるため、徐々に悪化していきます。つまり突然、昨日とまったく違った症状が現れるので日々の様子や血圧などのバイタルの観察が重要となります。
このように様々な症状が現れる脳血管性認知症ですが、医療技術や画像検査技術の進展により、脳のどこに障害が起きたかが把握できるようにもなりました。そして現在では詳細な病態の解明が進んできており、病気のタイプ分類、すなわち病気の分類ができるようになり、治せる認知症の1つへと進んでいます。
その新たな発見とは脳血管障害の再発防止のための治療や障害を受けた機能を回復するためのリハビリテーション治療に活かされているのです。そして同時に「その人に合ったケア」を提供するためにも大いに参考となったのです。そこで脳血管性認知症のケアを行うのに役立つ3つの脳動脈をめぐる脳血管障害の発症タイプの違いをお話しします。
脳には膨大な血管が張り巡らされていますが、その中でも主幹となるのが、前大脳動脈、中大脳動脈、後大脳動脈の3つの動脈です。
これらの3つの大脳動脈をめぐって認知症に至る頻度の高い発症タイプには、脳の皮質を含む広範梗塞型と中大脳動脈領域の梗塞型の2つがあります。まず、広範梗塞型は前大脳動脈・中大脳動脈・後大脳動脈や動脈の分岐点、内頸動脈での閉塞など、動脈血管の太い部分及び皮質を含む広い範囲で梗塞が起きているタイプの脳血管性認知症です。
脳血管障害が起きた部位や領域、血管の太さによって認知症状や程度は異なり、太い血管が梗塞すれば記銘障害を中核とした様々な認知症状や麻痺などのダメージは大きく発症し、小さい血管であれば、認知症状は発症せず手がしびれるなどの障害に留まるのです。
そして、中大脳動脈領域の梗塞型は中大脳動脈領域で脳血管障害が起きて認知症が発症するタイプで、この領域の梗塞では片麻痺を伴う事例が多く、病変が左なら失語や失認、失行が認められます。
また、親指や人差し指など手指の名前を言えなくなり、認知することもできない手指失認や体の左右どちら側が触れられているかが判断できない左右失認、計算や処置を誤る失計算症、失語や失読を伴い、書き取りが障害される失書の4つの特徴を持つゲルストマン症候群と呼ばれる身体失認が特徴として現れてきます。病変が右ならば半側空間失認や半側空間無視なども合併して発症してくるのです。
後半は、このような部位の違いに着目した認知症発症タイプの分類と脳血管性認知症のケア対応について学びます。