「割れ窓現象」を発生させない訪問介護計画の作成が重要
今回は、定期巡回・随時対応サービスにおける訪問介護計画と多職種連携をテーマに解説します。
同サービスの訪問介護計画で欠かせない視点が、ブロークン・ウィンドウズという「割れ窓現象」です。これは、アメリカの犯罪学者ジョージ・ケリングによって提唱されたもので、「1枚の割れたガラスを放置すると、いずれ街全体が荒れて犯罪が増加してしまう」という理論です。
この「割れ窓現象」が、定期巡回・随時対応サービスの訪問介護計画に大きくかかわっているといわれても違和感を覚えるかもしれません。しかし、日々生活する居室や寝室、トイレの清掃や、ベッド回りの整理整頓など小さな乱れに早く対応すれば、将来発生し得る日常生活上の問題や課題を未然に防ぐ効果があると言い換えれば納得できるのではないでしょうか。そして、その作業は日々定期的に複数回行われてこそ効果が上がります。つまり、細やかなケアがあれば大きな問題や課題は解消されるということです。
「割れ窓現象」はそのようなときに発生するのでしょうか?破壊された物がある場所や整理が行き届かない場所など、物理的な荒廃が心理的な荒廃を生み育ててしまいます。つまり、荒廃した環境の視認により、介護放棄や虐待の発生、認知症に及んではBPSDの発症を生んでしまうということです。病院でいくら最先端の治療を受けても、荒廃した居宅に戻れば家族や介護者との関係悪化による再発は免れません。
身体介護や生活援助、看護だけにとどまらない予防保全的なサービスの提供ができる定期巡回・随時対応サービスは、このような問題を軽減するためにも有効です。
さらに、定期的に複数回入れる利便性を活かすことで、徹底的な環境整備をはじめ、利用者の生活リズムを構築する訪問介護計画の立案も可能です。
たとえば、「寝巻から普段着に着替えないと1日中寝てしまう」「汚れた茶碗でご飯を食べていると食事を取らなくなる」など、割れ窓現象の倫理観で生活が乱れる要因を分析することで、病状の進行防止に向けた取り組みの支援ができます。従来の身体状態や生活自立度の生活情報に加え、暮らしぶりや家族等とのかかわり方のほか、住まいの環境を検証など、看護師がサービス提供前に行うアセスメントが、こうしたきめ細かな支援を実現させているのです。
サービス提供開始後は、計画作成(PLAN)→計画実行(Do)→行動・介入に対する反応(Response)→結果評価(Check)→情報収集(Date)→情報分析(Foucus)→計画見直し(Action)のケアを行う「PDCAサイクル」を日常的に循環させながら、見直すべく問題や課題の解消を図りつつ、30日ほどかけて介護と医療の情報連携によるモニタリングを行います。その結果を集約して本格的な自立支援のための訪問介護計画を作成、ケアを実施して利用者の反応を確認しながら、必然に応じてさらなる見直しを重ね、自立支援に必要で適切なサービスを適宜・適時に提供していきます。
これら一連のケアを円滑に提供するためにも、ICTを活用したe-Health Care(電子健康管理)の活用した多職種間で情報共有が不可欠です。なぜなら、各専門職の一人がケアに乱れが生じると全体的に乱れることになり、その結果、利用者の身体的・心理的側面にその影響が現れるからです。
多職種間の関係は「ライバル」ではなく「パートナー」
次に、定期巡回・随時対応サービスにおける多職種連携について考察します。定期巡回・随時対応サービスでは、利用者のニーズに応じて必要なチームを形成し、医療職と介護職が連携してその時々に必要なサービスを提供することが求められます。当然、利用者のニーズの変化に応じてチーム構成や役割も変化します。
そのステージ毎に介護や医療を集中的かつ必要なだけ提供するにはもちろん、多職種による集団的なアプローチが必要となります。このため、多職種の関係は”ライバル”ではなく互いに尊敬できる”パートナー”であることが重要なポイントだと言えます。
一般的に利用者にケアを提供する際には、さまざまな専門職がかかわっていますが、大きく分ければ介護職と医療職です。各専門職がそれぞれの専門的見地で利用者をとらえ、状態や問題を評価してサポートしています。
介護職は主に利用者が人間らしく暮らせるようADLを中心に心情的・経済的・常識的に介助し、保護的にサポートを行い、よりよく豊かな生活が営めるようにケアをしています。一方の医療職は、障害されたある状態像に対し治療的に人間的な生活を回復・維持・向上するリハビリテーションを中心に援助に当たっています。
このスタンスでは、介護職は介護の視点だけでとらえたケアを、医療職は医療の視点だけでとらえたケアを行っているにすぎません。
確かに各専門職と利用者間では双方向でのかかわりはあるものの、介護職と医療職の間でかかわることがほとんどないのが現状です。
しかし、定期巡回・随時対応サービスでは、障害や病気によって日常生活上にさまざまな問題や課題が生じて自立した生活が困難な利用者の方に、介護職と医療職が連携して寄り添い、問題や課題の解消を図れるような情報共有を行い、利用者の病態の進行防止に向ける可能性も持ち合わせています。定期巡回・随時対応サービスは、利用者の日常生活を24時間にわたってモニタリングできるので、利用者の残存能力の見極めや、いつどの場面でサービスが必要かなど短時間の定期訪問と随時対応といった手段を適宜・適切に組み合わせてサービスを提供、残存機能を保っていく支援方法の工夫と援助が可能になります。
このように、モニタリングの結果に合わせて翌日からサービスを変更できる定期巡回・随時対応サービスの有用性は、施設では難しいと言われている個別ケアや均一ケアまでも実現可能にしたと言えます。
次回は、自宅で認知症の周辺症状の改善と進行防止に向けたサービス提供について解説します。