認知症高齢者研究所 所長 羽田野政治のコラム連載の第3回目です。
今回は、「幻覚への対応」です。
以下 記事内容
~心の動きを観察 頼れる環境づくり~
認知症の行動・心理症状BPSDは困惑している態度や表情として現れることが多く、記憶・認知機能の低下による生理機能の歪みから、日常生活に支障をきたし、防衛本能などの精神活動の障害が対人関係に困難をきたしているのです。
今回は、対人関係に特に困難をきたすBPSD幻覚の対応についてのお話をします。
幻覚とは「対象なき知覚への確信」と呼ばれ、実際にはない音を聞いたり、ものを見たり、感じたりすることです。
幻視よりも幻聴の方が比較的多く、内容は断片的で、日常的な内容が多いようです。
幻聴は「人の声が耳元で聞こえる」など実際は聞こえないはずの声が聞こえる幻覚で、その内容は、本人に対する悪口、行動、考えに口出し、阻害するなど自責的なものが多いようです。ですから幻聴に伴って徘徊する場合もあるのです。
幻視は、実際に存在しないものが存在するように見える幻覚で、その内容は様々です。子供や亡くなった方など人物の幻覚が多く報告されています。
また、蛇、鼠、蟻、蠅、蚊などの小動物や虫も多いようで、レビー小体型認知症などでは、子供や小動物の「ありありとした」幻視を見ることが多いと言われています。
また、幻覚などは妄想を引き起こしやすく、「知らない人が見える」と幻の同居人といわれる妄想に続発することもあります。
例えば、子供や小動物の幻覚が出現した時は、まず、基本観察(5月25日号に記載)から態度と表情、見当識を確認します。態度では接近や回避、表情は快か不快(恐怖)かを判断します。そして見えている場所や時間の見当識を確認します。同一場所なのか、不特定場所なのか、幻覚が出現する時間はいつなのかを光や照明の状態も合わせて観察します。
子供の幻覚に関して、別段怖がっている態度が見えなければ、幻覚に興味や好意を持っていると考えてよいのです。
~「帰りました」等の言葉が効果を発揮~
対処方法としては、本人の言葉を受容し従います。介護者は相槌を打ち、落ち着いて「お茶を用意しますか」「何かお菓子を持ってきましょうか」と尋ねます。その間に光や明かりの調整をします。カーテンを開閉したり照明を点灯したりします。
本人を幻覚の見えている所に付き添いをしながら連れて行き、挨拶と接触を持たせると、殆どの場合が消滅します。
逆に幻覚に関して、不快感や逃避する態度や表情が見える場合は、幻視に対して恐怖心を持っていると考えて良いのです。本人の言葉を受容して介護者は相槌だけを打ち、近くの扉や窓を開けます。
介護者は、本人と幻覚の間に割り込み本人に幻覚が見えないようブラインドになります。そして、介護者はゆっくりと立ち上がり窓の方へ歩いていき窓から身を乗り出し「帰られましたよ」と伝えると殆どの場合が消滅します。
ただし、そのまま居室を出ると再度、幻視が現れることが多いので注意が必要です。しばらくは付き添い、お茶や水分(100~150cc)を摂取し身体を温めながら10~20分程度の団欒をします。
どちらにしても馴染みの人間関係をつくり、様子観察13項目で心の動きを知り、本人に合わせて行くことで安心、安定、安住の生きる頼りのよりどころを作ることが大切です。静かに落ち着けるように対応するだけで幻覚は軽減するのです。
次回は、興奮の対応方法を学びましょう。