ジェニファー・アーカー、ナオミ・バグドナス著
神崎朗子訳、東洋経済新報社、2022年
「笑い」は認知症対策に良いことが知られているのですが、アルツハイマー病研究者としてこの話題「ユーモア」に興味を覚えました。しかし脳科学的、更に文化人類学・比較文化論的な理解が私の関心事だった為に、期待外れになってしまいました。
私は日本文化に根付く「落語」「狂言」「川柳」などにも興味をもっているのです。
本書でも「ユーモアの脳科学」という一章を設けており、「ドーパミン」や「オキシトシン」等の神経伝達物質的な基盤を持ち出してきてはいるのですが、それを超えての神経細胞間ネットワークのダイナミズム等の最新研究にまでは立ち入っておらず、物足りませんでした。
結局本書はユーモアをどう人間関係に生かすか、特にビジネスの現場で実用的に使いこなす術を教えているのです。
それはそれで意味のあることだとは思うのですが、天下のハーバード大学ビジネススクールがこんな即物的なレベルの講義をしているのかと驚かされます(近所のコミュニテイー・カレッジの開設講座には向いていると思います)。
いえいえ人類文明の最先進国アメリカがここまで定向進化してきているということなのでしょう。
「花より団子」じゃありませんが、グローバル資本主義のもたらす「温暖化危機」「地球環境の破壊」より「ビジネス」第一の軽佻浮薄文化を思い知らされます。私としてはユーモア発揮の為の小手先技術より、中身の人間性を磨くのが本筋ではないかと言いたいのです。
「遊びをせんとや生まれけむ」子供の笑い・喜びをみると、彼らの生きる喜びみたいなものが、言語の学習・獲得の中で、更には自意識の思考形成のなかでユーモアとして表現・表出されてくるのではないかと、素朴すぎるかもしれませんが、考察しています。
追記
「笑い」が感情の先天的な表出なのに対し、「ユーモア」はコミュニケーションを円滑にする為に、笑いを取り入れようとする後天的な言語作法といえるかもしれません。 だとすると、この課題本が「How to」本になるのは当然で、「ユーモア」と「笑い」との関係を脳科学的に、更には比較文化論的に解説・解明することをこの本に期待したのはお門違いなのかもしれません。ただ資本主義の成功(一時的でしょう)に浮かれてこのプラグマティズム(実用主義)に踊る、軽薄と思えるアメリカ社会の風潮に一言いいたかったのです。前回課題本だった「人新世の資本論」に目を見開かされた影響が大きいかもしれません。この読書会の成果かもと自負してもいます。