Science Park 2023 June★DNAに刻まれた人間らしさ★
～35億年の進化の結晶「脳」と「心」～
私たちは、考えたうえで行動していると思いがちですが、実際には私たちの行動の
ほとんどは無意識に本能に従っているのです。
では、その本能はどこから来たのでしょう？
その答えは地球が人間に授けたある能力に潜んでいるかもしれません。
それは、直感 そして、不快感という名の不思議な現象に…
数百万年に渡り人間の体を再構築してきた地球ですが、その作業は、まだ、まだ、終わっていないのです。
謎めいた地球の歴史への手掛かりは、私たちの体、そして、思考にも隠されています。
人間が何をどう考えるかは、実は進化の歴史によって決まっていると言われています。
信じられないかもしれませんが、この説は世界中の科学者が認めているのです。
進化というと、まずは、腕の進化や足の進化を思い浮かべ体の進化をイメージします。しかし、人間の行動の変化も立派な進化の一つなのです。
Shaped our instincts…何故、人に本能が備わったのでしょうか？
コロラド大学の心理学者フレデリック・クーリッジ(Fuederick Coolidge)博士によると
人が判断する仕組みを作ったのは、地球だと言います。
その証明の仕方は実にユニークです。人がどう判断を下すかは、ギャンブルで説明するとわかりやすいというのです。
運しだいのルーレットで、人はどのように賭ける数字を決めるのか？を観察しました。
賭けに講じている人は、合理的でないのは分かっているのです。しかも、根拠も特にありません。なんとなくそんな気がすると口々に言います。
例えば、ある人が同じ番号に、ひたすら賭け続けたとします。当たる確率は38分の１と非常に低いのが分かっているのに…人は自分の直感を信じて賭け続けるのです。
その根拠は？と尋ねると、すべて運だといいます。そして、直感に従ったと言います。
「玉から目を離さず集中して自分の賭けた番号に来るように」…念とか気合いを入ていると表現します。まるでスターウォーズのフォース(force)ですね！
物理的な手立てがないことは分かっていますが、それでも精神的方法が有効だと思ってしまうのです。
では、その直感はどこから来たのでしょう？
私たちの脳は不合理な本能に支配されていることは明らかですが、いわゆる直感というのは、比較的古い脳の奥の構造、大脳辺縁系で呼び覚まされる感情的な反応のことです。
この反応を例えるとしたら、何百年も前にインストロールされたコンピュータのハードウエアーみたいなものです。
こうした直感は、なぜ人間に備わっているのでしょうか？その答えは私たちの祖先が進化を遂げた予測不可能な環境にあったのです。
百万年前、脳の成長に伴い人は慎重かつ合理的に考える能力を身に付けました。
しかし、突発的な危険はなくなりません！地球自体が危険で生きていくには、厳しい環境でした。安全と管理の行き届いた現在とは違って、祖先たちは今の私たちよりはるかに弱い存在で、火山の噴火や地震、雷、強烈な異常気象などの災害で死んでしまっても、おかしくない環境にいたのです。
PDST心的外傷性ストレスである、こうした脅威に常に対処しなければならない状況だったのです。
突然の災害という脅威にさらされ続けた時代に、現代のように考える時間が常にあるとは限りません。
そうした中で、従う武器は原始的な本能だった訳です。
虫が光に吸い寄せられるように…鼠が猫の匂いを嗅ぎ分けるように…
動物としての本能が，私たち人間にも根付いているのです。そして、本能のお陰で危険な時代を生き延びられたのかもしれません。
そんな人間の本能の中でも、極めて強力なものが不快感です。
Gave us disgust何故、人は不快と感じるのでしょうか？
人の最も強力な本能は不快感だとデューク大学の心理学者ギャヴァン・フィッツモンズ(Gavan Fitzsimons)博士は言います。
人間の感情の中で、世界共通の根源的感情は、恐れ、怒り、不快感だというのです。
人は特定のことに拒絶反応を示します。それは、理屈抜きの感情です。
不快と感じた時の反応は、人間の場合は顔に共通した表情が現れます。
また、不快感の表情には一定のパターンが存在します。目を萎ませ、鼻にしわが寄って上唇が上がります。体を遠ざけ、手で口を覆います。
こうしたとっさの反応は、感染源となりうるものから、自分の目と口を物理的に遠避ける本能なのです。つまり、無意識のうちに自らの身を守っているという訳です。
不快感は、はるか昔から存在する根源的感情なのです。
人類の歴史を通して、私たちの祖先が生きていくうえで大きな障害となっていた、一つが病気です。
人類の歴史の中で、突然変異や記憶に新しいCOVID19のような進化する病原菌は、火山の噴火や地震、肉食動物よりはるかに大きな脅威でした。
病気が死に直結する時代、時に不快と感じた時に、逃げることで、病原菌と闘ってきた訳です。
この何気ない反応は、かつては病原菌から身を守る素手だったと言っても過言ではありません。
19世紀半ばにルイ・パスツール(Louis Pasteur)が病原菌を発見する前に私たちは「心」が進化する過程で、無意識のうちに感染を避けるようになっていたのです。
この本能はあまりに強く、時に制御不能に陥るのです。つまり、人が本能に支配されてしまう場合があるということです。
たとえば、一日に何百回と手を洗う人がいますが、これは「強迫性障害」といって、本人たちも意味がないと分かっていても、やめられないのです。
◆ ◆ ◆
地球は、私たちが生き残れるように…直感に従い不快だと感じる能力を授けたのです。
人間の体や行動を形作ってきたのは、大小様々な人類への脅威です。
しかし、７万年前に地球で起きたある出来事は、私たちが本当の意味で人間へと生まれ変わるための究極の試練を与えたのでした。
それは、考えただけでも“ゾ～ッと”することで、何を隠そう人類滅亡の一歩手前まで行った出来事なのです。
激動の地球の歴史は、はるか昔、４５億年前に始まりました。そして、その歴史は今を生きる私達にも、不思議な方法で影響を与え続けています。
たとえば、性に関する不可解な統計があります。
世界中の出生記録を調べたところ、地震発生直後の数日間で出生率が跳ね上がっていることが明らかになりました。
自然災害と出産には大きな関わりがあるようです。
そして、もう一つ明らかになったことが、災害から丁度９カ月後に出生率が再び跳ね上がったという事実です。災害は出産を促すだけでなく、無意識のうちに人間に性の営みを働きかけているのです。
この統計に、進化論的説明をつけるとするならば、災害直後に人は子孫を残したいという本能が働くという事なのではないでしょうか？
万が一災害によって、一族の誰かを亡くしたとしても、その代わりを務めることが出来るように…そう災害は人類の生存を常に脅かす存在だったのです。
敵は肉食動物だけではありません。地球そのものが危険でした。稲妻、洪水、山火事、
人は自然災害に命を奪われてきました。
地球は数多くの災害によって、姿も変えてきました。
隕石の落下…火山の大噴火…私たちの想像を超える大規模なものです。
だが、一方で災害は、無意識の創造主として徐々に私たちの体を形作り、行動を駆り立てて来たのです。
私たち人間の特徴を辿っていくと、すべて巨大地震や津波、大規模噴火といった出来事に辿り着くことには驚かされます。
人間は、自然の力の前では無力ですが、これまで数え切れないほどの災害に見舞われてきた私たちを、最も「人間」足らしめた災害が、たった一つあります。その痕跡は私達のDNAに刻まれている忘れられない記憶なのです。
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Rewrote our DNA何故、人の遺伝子は書き換えられたのでしょうか？
実は最近の研究で世界中の人の遺伝子を調査した結果、驚くべき事実が判明したのです。
この世に生きている人々は皆、７万年前のおそらく数千人規模の、非常に小さな集団の子孫であることが分かりました。
７万年前というのは、ちょうどインドネシアのスマトラ島のトバ火山が突然噴火した時代と一致しているのです。
７万４千年前、のちに世界を混乱に陥らせた史上最悪の災害で、トバ火山の地下から、２５００立方キロにおよぶマグマが噴出しのです。超巨大火山の噴火でした。
大噴火というと１９８０年のセントヘレンズ火山を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、トバ火山の噴火は、その何千倍の規模でした。
噴火の影響でその年の冬は、相当厳しものだったはずです。噴火によって地殻変動が起き、空は暗くなり、氷期のような寒さが６年間続いて、人類は絶滅の危機に陥りました。この大噴火により、人間の数はわずか数千人までに減少してしまったのです。人類滅亡の一歩手前でした。
ということは、私たちは皆、トバ火山の大噴火の幸運な生き残りの子孫なのです。
もし、それが事実ならば、わずか７万年前に人類は絶滅のほんの一歩手前まで行ったということになります。
事実、この噴火の痕跡は、現代に生きる私たちの体にしっかりと刻まれているのです。その証拠を握るのが、DNA…人の遺伝子です。
アフリカ系、北欧系、アジア系と多様に見える人間ですが、DNAの配列は９９．９％以上一致しているのです。
これは、動物としては異例なことで、蠅ですら人間より１０倍も遺伝的多様性を持っているのです。
そして、この人間の驚異的な類似性は、トバ火山の集団消滅によって必然的にもたらされたと考えられているのです。
私たちはありとあらゆる災害を経験していると思いがちですが、より大きな自然で見ると、それらは地球が生み出してきたもののほんの一部に過ぎないことが分かります。
私たちの目の色、骨の形、そして、「心」のメカニズム…
わずかな手掛かりが、私たちを作り上げた意外な地球の姿を浮き彫りにしてくれます。
そして、そうした人間の体や心に隠された手がかりを拾い集めた今、地球の歴史の全貌が明らかになるのです。
太古の生物から、現在の私たちに至るまで、あらゆる生命の営みの歴史を遡って、これまで地球で起きてきた様々な出来事を振り返ることが、私たちのDNAを調べることで出来るのです。これは、まぎれもない人間の物語なのです。
２０６本の骨、６４０個の筋肉、膨大な数の細胞、人間の体は私たちを取り巻く地球の創造物です。私たちの体の内部には、地球の歴史を解明するマップが埋め込まれているのです。人間の体は、地球の歴史そのものであり、地球の歴史が私たちの体に刻まれているのです。人間のあらゆるところに地球の歴史の痕跡が残っています。
私達のDNAを調べれば、地球上の最も初期の生命体までさかのぼることもできます。
嘘みたいな話ですが、私たちの体には単細胞生物、恐竜、哺乳類、類人猿、そして現在の私たち人間へと続く、地球上のあらゆる生命体の設計図とその道のりがすべて刻まれているのです。
New year first Science Parkの予告
- DNAに刻まれた人間らしさ(後編)★
～35億年の進化の結晶「脳」と「心」～
How the Earth made Man人体から学ぶ地球の歴史
１３７億年前、何も見えない小さな世界がインフレーションという大爆発を起こし、その瞬間に目には見えない大きな世界が完成しました。
そして、今からおよそ４６億年前、燃え盛る大量の溶岩の塊としてこの世に生まれた地球は、生命が宿るような環境ではありませんでした。
５億年後、地球の温度は下がり地殻が固まり、やがて表面に水の塊、海が現れ生命の素材となるタンパク質や核酸、アミノ酸、糖などの有機物が大気中の二酸化炭素や窒素、水などの無機物に雷の放電や太陽の紫外線などのエネルギーが加えられ、３９億年前に最初の原始生命が生まれたのです。
そして、数百万年に渡るアフリカ大陸の変化が、私たちを類人猿から人へと進化させます。二足歩行で歩き、走る能力、投げる能力、狩の能力を手に入れます。
この時の肉食動物への恐れ不快感の本能が、私たちの「心」に刻みこまれたのです。
次回は、１８５９年チャールズ・ダーウィン(Charles Robert Darwin)によって発表された「種の起源」の進化論を紐解きながら、人間に与えられた試練、「脳」と「心」の病、認知症に迫ります。