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~ビックデータを使って認知症を緩和する~

ビックデータを使って、認知症対策の新たな取り組みが始まりました。

グループホームで共同生活を営んでいる18人の認知症の方々…日常生活に支障をきたした高齢者が入居しています。

認知症の人が目の前で次々と示す、激しい物忘れや様々な異常行動は、家族にとっても介護者にとっても、極めて異様で、かつ理解しがたい現象のように見えるのです。これらの問題行動をBPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaすなわち認知症の行動・心理症状と呼びます。

BPSDは、しばしば本人と介護者の間の人間関係を疎遠にし、あるいは悪化させてしまい、双方が悩み苦しむ原因となってしまうことも多い、極めて悲しい症状です。

そこで、BPSDが次に襲ってくるのを、ビックデータを使って予知し介護負担を軽減しようとする試みが始まったのです。

グループホームに住んでいるAさん。

数か月前まで高度な物忘れによる苛立ちや頻回に起こる拒否、暴言暴力など、介護負担が大きい人でした。

認知症の診断を受けたのは、84歳の誕生日の数日前、意味不明な行動や言動が頻回に続き、家族関係も崩壊しそうになり家族に連れられての受診でした。

医師からは、アルツハイマー型認知症で既に中等度の状態だと告げられ、家族は、悲しみと恐怖に襲われました。

あんなに優しく頼りになる母が、母を守りたいのに何も出来ない無念さに心落ち着くことが出来なかったと言います。

最初の頃は、自分でも、何か頭がおかしくなったと口癖になっていましたが、「心配なら病院に行け・・・」と気にもとめませんでした。

なぜならば、多少の物忘れはあるものの、自分のことは自分で行えていました。

しかし、頻回に鍋を焦がすし、冷蔵庫の中には、財布や家の鍵が入っていたり、金魚鉢に薬が浮かんでいるなど、ひしひしと症状が目の前に現れるようになってきたのです。

ある日の頃から、しばしば家を出て行って帰って来れなくなり、近所や警察の人にまで世話になる始末、とても一緒に生活が出来る状態ではなくなりました。

ある日、鍋を焦がし“ボヤ”騒ぎを起こしたことをきっかけに、グループホームに入居させたのです。

初期には、たまにしか症状が現れなかったので、ただの加齢による物忘れ“ボケ”だと思っていました。

しかし、突然怒りだしたり、物を投げたり、奇声を上げたりと、凄いスピードで進行し気づいた時には、かなり悪化していたのです。

症状が現れる前に予知できれば、進行を緩和し今の生活を継続できるのではないでしょうか、しかし、今の医療では薬物療法に依存するため、難しいと言います。

記憶や認知の障害が現れてから、家庭で一緒に過ごせる方は全体の3割にも満たないのです。

そのほとんどの方が何らかの原因で、家族と別れ病院や老人施設などの専門の施設に入ってしまうのです。

認知症を診断するには、知的機能検査や画像検査など専門医師によるなど非常に限られています。

しかし、あまりにも多く、長寿化が進んでいる現状では、診断を下すための検査に必要な時間さえ難しいのです。

認知症の発症を予知することは出来ないか、コンピュータを使ってこの問題を解決できないかと去年からこの施設でビックデータと人工知能を使った取り組みが始まりました。

認知症の方が暮らすグループホームの居室や居間には、心拍や呼吸、睡眠状態や部屋の温度、湿度、気圧などのセンサーが取り付けられています。

Aさんの健康状態を示すデータが、24時間絶えることなく生みだされ続けています。

しかし、通常確認されるのは、介護士や看護師が見回る時のみ、それ以外の時間帯は、記録されることなく消えていきます。

これまで、医療や介護の世界では、あまりにも多くのデータが無駄にされていました。

センサーからは、毎秒毎分データが生み出されているのに、そのデータに誰もきちんと目を向けてこなかったのです。

グループホームにいる認知症の方の命や活動の全てのデータを24時間記録することにしました。

そして、集まった膨大なデータの中から、BPSDが始まる兆しを見つけようとしています。

まず、全データの中から、BPSDを起こした認知症の方のデータを取り出します。そして、BPSDを発症した時点より前の時間帯のデータを解析していきます。その上で、通常の生活を営んでいる時点のデータと比較し、異なる部分のパターンを抜き出し、変化が大きいパターンがあれば、それがBPSDの発症の前兆になると仮設したのです。すると、ある兆しが見つかりました。

呼吸数が急激に上がってくることが分かってきました。

更に心拍数のデータを見ると心臓の働きの低下が同時に起こっていることも分かります。そして、呼吸数と脈拍数が交叉することが数回起っていました。

このパターンがBPSDの前兆を示すシグナルではないかと思考して、こうしたパターンがBPSDの発症する120分程度前から断続的に繰り返されていることを発見したのです。

その偏差の変化がなぜ起こるのか、詳しい原因は、残念ながら今の段階では分かっていません。

その他に、温度や湿度、照度などから頻繁にBPSDを起こしている場所や時間を割り出していきました。

それらを分析することでBPSDの発症を予測しようとしたのです。

仮説通り、ビックデータは、人の目では読み取ることの出来なかったわずかな異変を捉えていたのです。

そのことを介護者に事前に伝えることで、BPSDの発症を予防しようというものです。

それだけでなく、ビックデータを使って認知症薬の適切な量や服用時間を示せるのではないかと考えました。

そこで、医師との連携により、呼吸数と心拍数のデータを徹底的に解析しました。

すると、やはり前兆となるパターンが繰り返されていることが分かったのです。

医師はBPSDの発症が予測される少し前のタイミングに合わせて、服薬を試むようにしました。

1日1回の服薬を1日1回、何時に服薬するのが最も有効なのかまでが分かりつつあります。

的確な薬物療法は、本人の負担と認知症進行を防げる手段でもあります。

そして、現在は認知症における社会問題の解決と危機的な段階に至らないよう更なる研究が行われています。

いまでは、Aさんはとても落ち着いて生活しています。

自立度も上がってきており、自分で出来ることも多くなってきています。

素晴らしい介護に感謝しています。

とても興奮しました・・・と家族も笑顔を取り戻したようです。

認知症高齢者にとっても負担の大きいBPSDを、データを基に事前に予知できるようになれば、今後は、従来より早くケアに入り、BPSDを発症する前に食い止めることが可能になるでしょう。

ビックデータでBPSDの発症を予知し、認知症進行を緩和する新たな取り組み、今年は本格的な導入を目指す事業が全国で始まります。

その準備が…着々と進んでいます。

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