認知症ケア学会誌掲載

ドイツに住む家族介護者の心的苦痛への支援

~KCiSによる継続的アセスメントと遠距離介護・医療の実際~

 

鈴木靖之 Yasuyuki Suzuki

梶原千津子 Chizuko Kajiwara

羽田野政治 Masaharu Hatano

 

認知症高齢者研究所

ドイツに住む家族介護者の心的苦痛への支援

~KCiSによる継続的アセスメントと遠隔介護・医療の実際~

抄録

介護職と医療職によって日々蓄積されるケア記録によって継続的アセスメントが可能となった。そんな中でも、過去のケア実績に照らし合わせ分析することによって最も有効な支援方法を提案するシステムとしてKCiSがある。本研究はKCiSを24時間定期巡回型訪問サービスに活用し、利用者の日々の健康状態を海外在住の家族と情報共有し、日本に住む両親の介護・医療・予防・健康管理を遠隔地から参加した効果ついて検証した。

キーワード

・継続的アセスメント

・KCiS:Kyomation Care Interface System

・24時間定期巡回型訪問サービス:定期巡回・随時対応型訪問介護看護

・遠隔介護

 

Ⅰ.はじめに

認知症高齢者ケアを在宅で行う上での介護と医療の多職種による連携には、救命や治療など緊急の課題を伴うことに関しては、急性期から維持期の各ステージ間の専門職連携が必要になる。

また、緊急性が無く人命にかかわることが少ない課題を達成するには、維持期(在宅)のステージ内連携が必要になる。

その解決には、人材・組織・制度の問題とともに、高齢者の機能低下や認知症状などの特徴に合わせ安心して次のサービスステージに移行できる地域包括ケアシステムの確立と家族や地域住民の参画といった社会システムの構築が必要であることがあげられる。

しかし、介護職と医療職連携の現実は、介護の分野では利用者のニーズに応じて、人間らしく暮らせるように日常生活を中心に身体症状に合わせて支援することに重点が置かれ、これに比して医療は、人間的な生活を回復、維持、向上するよう身体疾患の経過をアシストし援助する治療に重点が置かれている。

そうしたスタンスでは、介護職は介護の視点だけを捉えたケアを、医療職は医療の視点だけを捉えたケアを行っているに過ぎないのではないだろうか。しかも、介護と医療は別制度であり、介護計画は市町村圏域で、医療計画は2次医療圏域と異なっている。

しかし、高齢社会を考えれば、介護と医療の連携は不可欠であり、Integrated Healthcare(包括的健康管理)は先進国共通の課題でもあるが、どの国も確立した方法論を持っておらず、そのモデルが日本の地域包括ケアではないかとまで言われている。

また、介護職と医療職によって日々蓄積されるケア記録などは散在しているが、これらを共通利用できれば、継続的アセスメントとマネジメントは整合的に行われると期待できる。

それを実現化しているのが、地域包括ケアシステムの仕組を支える基礎的なサービスである定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスである。

このサービスは、介護サービスと医療サービスが連携を図りつつ短時間の定期訪問や随時の対応といった手段を適宜、適切に組み合わせて1日複数回必要なタイミングと必要な量と内容のケアを一体的に提供できる。

これにより維持期(在宅)のステージにおいても障害を持つ高齢者や認知症高齢者などに対して、適切な食事内容の確保や服薬の確認、排泄時の清潔保持、心身の状況の変化の定期的な確認などを可能にした。

また、双方向通信が可能なICT(情報通信技術)を活用して、家族を含む介護職や医療職に通信機器を持たせ、インターネットで通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔測定などを行い、介護ニーズの変化に応じて介護職や医療職が連携を図りつつ、ケアを包括的にかつ継続的に提供するIntegrated Healthcareの仕組が支えられるようになったと言える。

利用者に対するサービスにおいても、提供ステージを変化させ安心して次のサービスステージに移行できるようになって来ている。

ケア対応も当然に多職種による集団チームアプローチで行うので、単身、重度の要介護者や認知症高齢者であっても、住み慣れた地域で個別性が尊重された生活を継続することが出来るような社会環境の整備が、整い始めているように感じる。

そして、もう一つ重要なことが、仕事と介護の両立を余儀なくされている家族に対して、介護離職や介護転職への支援も可能にしていることだ。

本研究は上記問題を踏まえ、地域包括ケアシステムにおける解決の方向性を検討するため、介護・看護サービスを包括的かつ継続的に提供するチームケアである定期巡回型訪問サービスを実際に活用して、ドイツに住む家族介護者の心的苦痛への支援を、遠隔介護・医療にて行った1事例を報告する。

Ⅱ.方法

  1. 地域包括ケアシステムとICT

これまでの「地域包括ケアシステム」においては、介護・医療・予防・住まい・生活支援の5つの構成要素はサービス提供者側からの視点で考えられてきており、利用者側からの構成要素にはなっていないのが現状である。

なぜならば、日常生活の場で5つの構成要素を一体的に提供するためには、いくら介護や医療が整っていても、まず生活と住まいが前提として整備されていることが条件になるからだ。

つまり、利用者側から見れば、Integrated Healthcareが受けられる地域と住まいが最低限の条件になっている。

本研究では、まず単身・重度介護者を始め認知症高齢者や家族が、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最期まで続けるには、身体面及び精神面で本人の出来ること出来ないことなどのセルフケア能力をベースにした「自分力」を取り戻すことの重要性について検証している。

それは、介護職や医療職は適切なアセスメントに基づいて、連携を図りつつ支援していき、情報共有を進めつつ利用者ニーズに即したマネジメントの取組が求められているからである。

また、現在の日本の高齢化率と認知症有病者数および対人援助者数から鑑みて、してあげるケアから一緒にするケア(自立支援)へ変貌せざるを得ないだろうとも考えたからである。

そこで、ITCによる情報共有と多職種連携の重要性が再認識されている。

本研究では、ICTを活用し介護職や医療職によって日々蓄積される毎日のアセスメントデータ(健康および環境データ)をケア記録(日常生活の様子)と連動することで、継続的アセスメントとマネジメントの可能性を実際の現場を通して観察した。

さらに過去のデータに照らし合わせ分析することによって、最も有効であった介護、医療サービスのケア方法が提案できるかを検証した。

  1. ICT機器の選定

在宅生活の継続には、介護サービスと医療(看護)サービスの安定的な提供に加え家族の協力が重要になる。

遠隔地(海外)に住む家族と、日本に住む両親の介護・医療・予防・健康状態の情報共有を行い、ICT機器に認知症対応型健康管理支援システムKCiS(Kyomation Care Interface System)を選定した。その理由として、このシステム形態は、インターネット経由のソフトウェアであるクラウド型であり、対応機種は、タブレット端末、携帯端末、PCと幅広いこと。

また、対応OSは、WindowsXP,Windows7-8、MacOSX、AndroidOSで動作が可能で、対応ブラウザは、Internet Explorer6-8、Safari、Mozilla Firefox、Google Chromeのブラウザで動作できることからユーザビリティーもよい。この機器を使い安全なID・認証連携・情報流通を実現することでPHR(Personal Health Record自己健康管理)およびEHR(Electronics Health Record電子健康管理)の効果や問題点などについて実施検証した。

  1. 研究対象者

A氏、夫、90歳、要介護2、アルツハイマー型認知症、高齢者自立度A1、認知症自立度Ⅱa、

B氏、妻、85歳、要介護1、膵臓癌(末期)、緑内障、高齢者の自立度B1

対人援助職メンバー、長女(フランクフルト在住35年)、医師(在宅医)、看護師(定期巡回・随時対応型訪問)、介護士(定期巡回・随時対応型訪問)、薬剤師(薬剤管理)、ケアマネジャーの多職種が参加した。メンバー各自でタブレット端末、携帯端末、PCを持参し、介護、医療、予防、健康管理の情報共有を双方向通信が可能なクラウド型のKCiSで行い、そのケアの様子を家族と共に確認し、利用者の視点に立って問題を解決するよう家族も含め多職種業務連携の中で果たすべき役割を担いながら、目的、目標を共有し支援を行った。

  1. 倫理的配慮

本研究に関する個人情報は事前に本人及び本人の家族、サービス事業所管理者に研究報告の目的、方法、趣旨を伝え得られた情報は研究論文の専門誌(学会誌)への掲載以外には使用しないこと開示すべき内容には利益相反関係は無いこと個人情報保護に努めることを説明し書面にて了承を得ている。

  1. 多職種(家族含)間での情報共有

KCiS(図1)におけるPHRでは、介護情報として身体介護、生活支援看護、医療行為などの状況に合わせて、ケア記録・身体介護内容・生活援助内容・医療内容の掌握・栄養管理・薬物情報・身体症状・身体疾患の状態が記録されるため健康情報が多職間で共通利用ができ日常生活の改善から健康維持、医療処置まで整合的に行うことが出来る。(図2)

EHRは、個人情報を含み生活歴などの過去のアセスメン記録、写真、個人情報が管理されているほか、バイタル状態・睡眠状態の情報・環境情報は、湿度・温度・気圧を管理する。また、医療情報は、薬剤・生化学検査・血液検査などの情報が共有できるほか、医療記録や介護記録を生涯に渡って保存することが出来る。また、専門医と在宅医の連携などの際にも情報共有の基盤として役立つ。(図3)

管理情報には勤務表や勤務状態を管理するスケジュール機能、ケアプランを始めサービス担当者会議をフォローするケアプラン機能、さらにフェースシート、モニタリングシート、介護・看護計画書などのサービス計画機能により、介護・看護サービスを一体的に提供できるだけでなく、多職種間との連携がスムーズになり、包括的かつ継続的なケアに対応している。

各情報は管理者によって管理され、個人ID、認証連携、情報流通を含む公開情報は厳しく制限されている。

さらに、双方向性インターネット電話(Skype)では、インターネット通信を利用して本人と家族の安心感を引き出すため、遠く離れた場所にいる娘さんの顔が見える状態にし、同様に日本側の両親の顔が娘さんに見える状態にして、心的苦痛への支援に役立てた。

Ⅲ. 結果

  1. 支援結果

家族が遠隔地にいるため1日複数回サービスが提供できる定期巡回随時対応型訪問介護看護サービスを実際に利用して情報共有を行い家族に代わりサービスを提供した。

まず、PHRの持つ効果を検討した。

KCiSは、介護経験の浅い家族や新人でも直観的に操作できるよう設計されているので、ケア記録では、ガイダンス頁とポップアップ画面によって、事前にどんな流れで入力していくのかが把握しやすくなっている。また、入力画面の多くで選択式入力・自動反映を採用しているため、家族は簡単に記録することが出来た。(図4)

日常生活の様子や健康状態が可視化されたことにより、介護記録や健康情報が手軽に遠隔地にいる家族が確認できた。その結果、両親の介護への意識が高まったことが、ケア記録の家族欄「ドイツから両親の状態が毎日把握できて安心した」という書き込みから伺えた。

さらに、気付いたことや介護などに対する要求を書き込むようになるなど、介護職や医療職など対人援助職との日常的なつながりであるNarrative-basedの馴染の関係作りが示唆できた。

EHRでは、介護・医療が連携して身体疾患や身体症状について情報を共有しながら一体的にサービスを提供する可能性が示唆できた。

特に日常生活の中でケアを行うたびに継続的に記録出来たので、生理的反応や本能行動を確認できた。体温、血圧、脈拍、呼吸がグラフ表示され可視化されたことで、平均的なバイタル数値も知ることができ、身体疾患の変化を逸早く捉え予防することができた。

細かい変化を多職種で連携し、介護ニーズに合わせたサービスの提供が図れるように、両親(A氏、B氏)の個別性に配慮した最適なサービスを提供するための情報が蓄積された。

それにより、予防を可能にしたとともに過去のデータから最善のケアの方法を示すことも示唆できた。

Skypeでは、ビデオ通話で顔を見ながら、KCiSの健康情報を基に、今日あった出来事などを話すだけで睡眠がとれるようになり安心感がまして不安が取り除けたと報告を受けた。

これは介護負担が軽減されたことによる、心的外傷性ストレス障害の軽減が出来たと示唆できる。それだけでなく、ADL(日常生活動作)表を確認することで、出来なくなったセルフケア能力に対して、家族から励ます会話が多くなり、本人も介護職と共にリハビリテーションを拒否なく積極的に行えるようになり、その成果を毎日娘に報告するなど意欲も上がっていった。

B氏の1月19日と2月23日のADL表の比較評価では、個人衛生が限定的な援助から見守りへ改善され、移動、トイレの移乗は自立、準備のみが自立へ改善された。しかし、外出が減ったため階段や買い物に関しては自立・準備のみから見守りへと悪化していた。睡眠状態や行動観察評価MENFISを用いた結果においては、大きな変動は認めらえなかった。

また、A氏に関しては、KCiSを利用して遠隔地に住む家族と介護や医療が連携し、継続的アセスメントに基づき、A氏の生活歴や病前性格、認知症発症後の性格変化、趣味や嗜好などの情報を収集し、声掛けに利用しながら24時間定期巡回随時対応型訪問介護看護サービスを中心に行ったところ、明らかにA氏の睡眠状態の中途覚醒傾向に変化が認められ熟眠傾向が示唆された。しかしADLに大きな改善は認められなかった。(図5)

以上から、在宅医療や介護などが、地域連携により遠隔地(海外)で暮らす家族との情報流通の可能性が示唆できた。遠隔地で住んでいる家族が情報共有システムを活用することで、介護に参加ができることは、今後の地域包括ケアシステムにおいて有用と言える。

KCiSによって、介護・医療の連携が出来、継続的アセスメントが取れることにより、利用者の心身の状況に応じたサービス提供のタイミングや量と内容が提供出来たことにより、在宅生活を支える上での有効性が示唆できた。

Ⅴ.考察

介護者は心的苦痛を生じるリスクが高いと言われているが、日本にいる両親のストレスと海外にいる家族間ストレスレベルが軽減できたことが定期的に行った質疑応答の回答とEHRのバイタル結果から考察できた。その大きなストレスの要因であった、親の介護のために、やむを得ず仕事を辞め日本に帰国しなければならないと考えていたことが、KCiSを活用したことにより遠隔地から介護に参加できたことで、仕事と介護を両立できる環境を設定出来たことが示唆された。

また、今回はドイツという遠隔地で時差があったため、家族のレスポンス(反応)に時間がかかった点は歪めなかったが、確実に情報共有が遠隔で行われ家族の介護負担の軽減には寄与できたのではないかと考察できた。

また、ICTの活用には、経済的には、出来るだけ社会資源やサービスから適用可能な保険を用いた「公助」で、すべきであるとは思うが「自助」「互助」「共助」と言った支え方を盛り込んでいくことも必要になると考察できた。

 

参考文献

1)羽田野政治 根拠に基づく新しい認知症ケア「キョウメーションケア」でBPSDが

緩和する 中央法規出版 2013

2)室伏君士 痴呆の介護はどのようにするか p.120-133老年期痴呆診断マニュアル

(第2版)日本医師会 1999

3)富野康日己 高垣節子編 介護福祉のための医学一般 医歯薬出版 1997

4)The First Edition of KBS (Developed by Kyomation Care research group)

Masaharu Hatano et al:「大脳皮質の分類と機能の関連整理から見たBPSD

軽減への取り組みKyomation balance sheetの作成:Journal of Japanese Society for

Dementia care,2006,5(2),219

5)Masaharu Hatano,Kyoichi Kato, Makoto Iwata. Kenji Kosaka et al:Trial to reduce the

BPSD by the functional localization of the cerebral cortex.Clssification and the

Corresponding function. Kyomation Balance Sheet(Revisedversion)

老年精神医学雑誌,20:126,2009.

6)荘村明彦 IPWを学ぶ‐利用者中心の保健医療福祉連携‐P12-39

中央法規出版 2012

7)篠田道子 多職連携を高めるチームマネジメントの知識とスキル P15-36 医学書院 2011

8)粟田主一 地域包括ケアシステムのための認知症アセスメント 東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と介護予防研究チーム 2014

9)筒井孝子 看護必要度の成り立ちとその活用・医療制度改革における意味と役割

照林社 2008

10)鈴木裕 欧米より長生きする高齢患者・世界初の経験、日本人は考えよう 月刊ケアマネジメント22 P24-25  中央法規出版2011

11)樋口京子、篠田道子、杉本浩章、近藤克則 高齢者の終末期ケア、ケアの質を高める4条件とケアマネジメント・ツール 中央法規 2010

12)数井裕光 BPSD出現予測マップの作成 老年精神医学雑誌26 1195-1206 2015

13)唐沢剛 医療保険制度改革と今後の展望 福祉社会総合研究所フォーラル 2015

14)大塚俊夫、本間明 高齢者のための知的機能検査の手引き ワールドプランニング

2005

15)岩田誠 臨床医が語る認知症の脳科学 P14-18 日本評論社 2009

16)揖斐俊夫 個人情報保護マネジメントシステム実施のためのガイドライン第2版

日本規格協会 2014

17)宮崎総一郎、日田村卓朗 睡眠と脳のアンチエイジング 老年精神医学雑誌26

(図1) 認知症対応型健康管理支援システムKCiS概要図

(図2) PHR:Personal Health Record based on KCiS

(図4)ケア記録

(図5)A氏の睡眠・覚醒パターングラフ

615-623 2015

Support for Mental Distress of the Family Carers who live in Germany

–Actual Situations of Continuous Assessment by KCiS, and Remote Nursing Care & Medical Care–

Abstract

By coordinating with the care records that are accumulated daily by carers and medical personnel, continuous assessment became possible. In this situation, as a system that analyzes the cares in reference with the past care achievements to suggest the most effective ways of supporting, there is KCiS. This study uses KCiS for 24-hour regular home care service, and shared the users’ health conditions with the family members who lived overseas to enabled them to engage themselves in nursing cares, medical cares, preventions, and health management from the remote place, and examines and reports its effect.

Keywords

・Continuous Assessment

・KCiS: Kyomation Care Interface System

・24-hour regular home visit care service: regular visit,

on-demand home visit nursing care

・Remote care

 

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