脳と心~第4章 記憶とコンピュータ~

★スピンネカー(SpiNNaker)★

20171101私達が何処へ行こうと付いてまわる自己の本質、それは、脳内に張りめぐらされた神経回路の何処かに息づくものです。

一部の研究者は、この生体ネットワークをシリコンの電子回路上で再現しようとしています。

自我に目覚めるロボットを私たちが作り出す日は、そう遠くはないかもしれません。

マンチェスター大学(University of Manchester)のスティーブハーバー(Steve Furber)博士は、人間の自己をデジタルに構築する研究に取り組んでいます。目指すはリアルタイムで機能する脳のレプリカです。

成功すれば自己を生み出す謎を解く手がかりが得られるに違いありません。

私たちの存在の本質にかかわる脳の研究で、解明されていない重要な問題のひとつが、脳内で情報がどのように表現されているかという点です。

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Furber博士は、脳を動かす神経符号が存在し、それが視覚、聴覚、言語の習得と言った複数の機能を制御していると考えています。

この符号を見つけ出すのは、今や時間の問題だと睨んでいるFurber博士は、人間の脳の中で、他の種より遥かに進化した部分に注目、それが大脳の表面を覆う皺だらけの薄い層、新皮質です。

 

 

 

 

20171103新皮質は、脳の中でも興味深い部位です。

後方では基本的な視覚情報、前方では高レベルの情報処理を行っています。

生まれつき目が見えない人の場合、視覚野の大部分が音の情報処理に使われて、視覚の代わりに聴覚が非常に鋭くなることが多いのは、情報を処理する手順に何らかの共通性があるからでしょう。

長年、脳の機能を再現する研究は、標準的なコンピュータ技術を使って行われてきました。

Furber博士は、これが間違いの元だと考えています。

従来のコンピュータは、データを大きな塊で扱います。

20171104これは、シェフがディナーのフルコースを“ごちゃまぜ”にして一皿にして客に出すようなものです.

一方の脳の機能は、カクテルパーティに近いと言えます。

細切れのデータがあちこちに回されて共有されるため、知らぬ間に緻密で複雑なネットワークが構築されていくのです。

このような細かいデータをまとめる相関性の高いシステムをFurber博士は特注のシリコン回路を使って再現しようとしているのです。

 

 

20171105Furber博士はニューロンの働きを模倣することに特化して、全く新しいタイプのコンピュータチップを作り上げました。

それが、スピンネカー(SpiNNaker)です。

スピンネカーとは、スパイキング ニューラルネットワーク アーキテクチャ―(Spiking Neural Network Architecture)の略語です。

SpiNNakerは、私たち生物の脳の神経回路網(生物的ニューラルネット)を工学的に再現した(人工的)ニューラルネットの次世代モデルなのです。

従来型ニューラルネットの中で今、最も性能が高く多くのIT企業が導入しているのは、「ディープ・ニューラルネット」あるいは「ディープラーニング」などと呼ばれる多層ニューラルネットだが、SpiNNakerはさらにその先を行くものなのです。

 

20171106SpiNNakerは従来のニューラルネットと具体的にどこが違うのでしょうか・・・

それは私たちの脳を構成する神経細胞が発する活動電位(スパイク)までも人工的に再現して、これを時間的な波形(パルス)としてニューラルネット上で再現できることです。

脳の内部で、無数の神経細胞(ニューロン)やその接合部(シナプス)が発火(活動)するときに出す活動電位は、医学的には、いわゆる「脳波」として観測されますが、SpiNNakerとは、人間の脳波までも再現しようとする究極の人工知能AIだということです。

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/96373/1/KJ00004705299.pdf

http://www2.kobe-u.ac.jp/~hampton/Lecture/Model/Lecture20111214-2.pdf

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40472

この大型並列コンピュータは、脳モデルをリアルタイムで処理します。

つまり、人間の脳と同じスピードで情報が処理できるのです。

スピンネカーのチップは、それぞれ16,000個のニューロンの動きを再現するようプログラムされています。

これは、人間の脳に備わる機能のごく一部にすぎませんが、かつてない画期的な研究であることは間違いありません。

Furber博士とミュンヘン工科大学(Technical University of Munich)の研究チームは、脳型コンピュータチップとロボットをつなぐ実験を行っています。

20171107一見、リモコンで動くローバーのようですが、この装置は周囲を感知することで、自立走行しているのです。

ロボットは人工神経回路の制御で意志をもって行動します。

前方にある視覚センサーから、送られてくる情報をSpiNNakerの神経回路が、リアルタイムで処理し、そのアウトプットがノートパソコンを返してロボットに送り返され動きを制御する形式です。

ロボットを動かすSpiNNakerのチップは脳の動きを模倣しています。

子供と同じように、このコンピュータは環境に反応しながら体を使って周囲を理解していくため経験を積めば積むほど賢くなっていくのです。

4つのチップを搭載した現在のシステムで再現できるニューロンの動きは、およそ60,000個、今後数カ月で搭載量が十倍になれば、ミツバチの脳に匹敵する850,000個のニューロンモデルが実現します。

哺乳類の脳を目指すのはそれからです。

極めて複雑な人間の脳を構築するには、SpiNNakerのチップが何百万と必要でしょう。

しかし、Furber博士は、その実現を確信しています。

脳のモデルが、実際の脳の動きと一致しても不思議はありません。

20171108脳型コンピュータが想像力や夢などを再現するかどうかというのは、非常に難しい問題ですが、Furber博士は期待に値すると思っていると言います。

脳の情報処理は単純な仕組みであるとFurber博士が見ています。

人に通用するものは機械にも通用するはずです。

自己形成の旅は、体がニューロンのネットワークに導かれ、世界に歩み出していくことに始まります。

学び、適応し、記憶しながら、私たちの自意識は作り上げられていくのです。

私達の自己は、記憶や夢や想像力から少しずつ積み上げるように構築されます。

不変の自己意識はありえません。歩む人生は一人一人違っています。自己の発見とはその中で挑む壮大な旅なのです。

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