2019年 酉年
謹んで新春のお慶びを申し上げます。
新春特別企画として、酉年を通して私たちの命について考えてみました。
樹木自体が生命体であるだけでなく、木々に覆われた空間には様々な動物も暮しています。
私たちは、雨と太陽の恵みを受けながら、緑の神秘の世界で何万年も命をつないできました。
今、生物達の生き延びる能力が試されようとしています。
急激な気候変動により、動物たちは生死をかけた戦いを強いられているのです。
動物たちの棲み処である森林は、まさに恩恵の源です。
水を浄化し、炭素を蓄積し、酸素を供給する。地球にとって大切な役割を果たしています。
地球は温暖化の一途をたどり、極地の氷や氷河が解けています。今年は、降雨のパターンは変化し、干ばつが頻発するでしょう。
これにより森林に住む、人間を始め世界中の動物が温暖化を生き抜くための努力を余儀なくされることでしょう。
今、世界中の野生動物が試練と闘っています。
そこで、酉年でもあるので、小説ハリーポッターにも登場するフクロウを通して、温暖化を考えてみましょう。
フクロウは猛禽類と呼ばれ鋭い爪を持ち、他の動物を捕食する習性のある鳥類です。
北極圏のすぐ外側に、アマゾンの森林地帯とは比べものにならない地球最大の森林地帯が存在します
北方林と呼ばれるその森林地帯は、ロシアからヨーロッパ、北アメリカから樺太まで幅広く広がっています。
夏は短く、冬は長く厳しいこの地に、ある猛禽類が生息しています。
木の上を住みかとする樺太フクロウです。
大型のフクロウで、厚い羽毛に覆われているお陰でこの地に適応できました。
収音器のような形の顔で音を耳に集めます。
獲物が見えづらい冬場は、鋭い聴覚を駆使して雪の下を走るハタネズミを捕らえます。
冬季には体重の三分の一の量のハタネズミを食べます。
ハタネズミは樺太フクロウの主食です。
北部でハタネズミが減少すれば、フクロウは獲物を探して北方林の南端であるオホーツク、まで何百キロも移動するのです。北方林全体が棲み処なのです。
一方、気象学的にこの様子を捕らえてみましょう。
冬の北方林は、すべてが停止したかのように静寂に包まれており、風も殆んどありません。
時々枝の雪が、さらさらと落ちてきて本当に穏やかな気持ちでいられる環境です。
地球上でもとても貴重な場所なのです。
しかし、ここは極寒の地です。気温がマイナス50度までに下がるところでもあるのです。
そんな北方林にも、温暖化の脅威は忍び寄っていました。
気候の変動の影響は、北方林全体に及んでいます。
ここ数年は自然発火による消失で、森林面積は急速に縮小し続けているのです。
また、害虫による被害も拡大しています。
このまま放っておくと、広大な北方林はそう遠くない時期に全滅してしまうでしょう。
気温の上昇も深刻な問題です。
北方林の樹木は、極寒の気候に適応しています。しかし、温暖化で地球の気温は上昇している。樹木は気象の変化に対応しきれないのです。
地球の異変は予想以上に早く進んでいるのです。
ある試算によれば、平均気温が2~3度上がると北方林の6~7割、最悪の場合9割が消滅すると言われています。
この地に住む野生動物も、極寒の環境に適応しています。更に温暖化が進めば、様々な影響が動物たちに及ぶことになります。
もともとは、森林での火災や、害虫被害は珍しい事ではありません。
しかし、温暖化が原因となると自然のバランスが崩れます。
行動範囲が最大で800キロメートルにも及ぶ樺太フクロウにとって、北方林の縮小は生息地の縮小を意味します。
90年台の自然発火による消失面積は、60年台の倍以上に及びます。
アマゾン同様温暖化が進み、火災が増えているのです。
樺太フクロウは環境変化への適応を余儀なくされています。
樺太フクロウは北方林に完全に適応した動物なのです。
北方林の縮小により、食料を求め樺太フクロウの棲み処は現在、住宅地まで及んでいます。
たえず人間を警戒しなければなりません。苦難はそれだけに留まりません。
気温の上昇そのものが、樺太フクロウを絶滅の危機へと追い込んでいるのです。
地球は年々暑さを増しています。予想をはるかに超えた急激な気候変動に樺太フクロウは適応することが出来ず死んでいくのです。
その理由が気温上昇に伴う感染症です。
北方林は、北極圏の外側に広がる針葉樹林です。広大な森林を樺太フクロウは自在に飛び回り、雪の中に潜むハタネズミを捕らえ食料としているわけですが、気温の上昇による火災の増加で棲み処は減少するうえ、病気に感染する個体が増えています。
特に近年、本来は寒い土地では生きていけないシラミ蝿が体に寄生するようになってきているのです。
そのシラミ蝿は、フクロウなどの厚く断熱性の高い羽毛に潜り込んで生き延びているのです。シラミ蝿虫に問題はありませんが、シラミ蝿がフクロウにWNV(西ナイルウィルス)を媒介するということです。感染すれば樺太フクロウは死に至ります。
温暖化でWNV(西ナイルウィルス)など病原体が虫によって
北に運ばれ、新たな脅威になっています。
北方林の広大な緑は、他の森林同様、二酸化炭素を吸収して酸素を排出するという地球にとって、重要な役割を果たしています。
樹木と土壌は炭素が充分に蓄えられる為、理論的には温暖化の進行を緩和できるはずです。
しかし、これまでとは状況が異なってきています。
北方林は、大昔から大気中の二酸化炭素を吸収して、樹木や土壌に蓄積してきました。
つまり、地球を守る中心的役割を果たしてきたのですが、森林火災が増えると蓄えた二酸化炭素が放出されます。
この負のフィードバックという作用により、温暖化がされに進むという悪循環が繰り返される事でしょう!
以前から、北方林の縮小は温暖化のティッピングポイント(閾値)と呼ばれています。
いったん縮小が始ますと、流れはもう止まりません。
そして、既に、そのティッピングポイントを越してしまい、一気にその状態がいきわたっているのです。
北方林に暮らす野生動物の未来は、明るいものではありません。
今後50~100年の間に、気温は4~10度上昇すると言われています。
森林は更に失われ、二酸化炭素の放出量が増えれば、更に温暖化は急速に進むのです。
春になると雪解けで土に出来たぬかるみに、蚊が大量発生します。
シラミ蝿同様、蚊も西ナイルウィルスなどの病原体を媒介するからです。
温暖化が進めば蚊の発生が早まります。
樺太フクロウは何世紀にも渡り、北方林で種を存続してきました。
しかし、温暖化で森林が被害を受けています。世界中の野生動物と同様、棲み処が奪われ、食糧難や病原菌によって危機にひんしているのです。
樺太フクロウの生息環境を守るためには、いったい私たちに何が出来るのでしょうか?
気温の上昇で季節の移り変わりが乱れ、樺太フクロウだけでなく、世界中の鳥たちが食糧不足に陥っているのです。
北方林から7000キロ南に存在する南米の広大な熱帯雨林も北方林と同じ問題を抱えています。
ペルー、アマゾン川流域の熱帯雨林、アマゾンの原生林は動物の楽園でした。
気候変動による原生林の縮小が、動物たちに悪影響を与えたのです。
朝、まず目を覚ますのがアケボノインコです。
続いて世界で最も大きいインコであるルリコンゴウインコが翼をはばたかせ粘土質の土手に姿を見せます。消化を助けるために、粘土を食べるのです。コンゴウインコのつがいは、一生を共に過ごします。
コンゴウインコたちは常に木々の間を飛びながら食料を探しています。
野生での寿命は40~50年です。
好物は、ブラジルナッツです。ブラジルナッツは年に一度実をつけます。
熟して40メートルの高さから落下するのが毎年1月~3月です。
ところが、温暖化によって、植物に異変が生じています。
ブラジルナッツの実りの時期がずれ、コンゴウインコに影響が及んでいます。
気候の変動はとても気がかりです。
気温が急激に上昇したため、植物のライフサイクルが変わってきています。
アマゾンの森に暮らす動物たちは、植物がいつ実をつけるのかよく知っています。
ところが近年は温暖化で実の風が減ったり、全くつかなかったり、あるいは時期がずれることもあるのです。
鳥たちは不安定な収穫のリズムに適応していかなくてはなりません。
一つの異変が別の異変を生む、すべてが温暖化を発端とする連鎖反応なのです。
コンゴウインコは実りの時期を記憶しており、毎年遠くからでも飛んできます。
しかし、季節の変化が不安定になれば、食料を探す能力をさらに磨かなければなりません。
それだけではありません樹木の減少で、棲み処も奪われているのです。
干ばつと森林火災で、アマゾンの原生林は無残な姿に変わりつつあります。
緑の屋根が失われ、草原になる可能性があるのです。原生林はインコだけでなく、多種多様な動物を抱えています。
そして樺太フクロウが住む北方林と同様、地球でも有数の広大な炭素を貯蔵庫でもあります。しかし、この森も悪循環に陥っているのです。
温暖化が干ばつを生み、干ばつが火災を生む、そして、二酸化炭素が放出され、さらなる温暖化を生むのです。
私たちも含め動物たちの未来は、北方林やアマゾンの原生林の行く末にかかっているのです。森林は生命の宝庫です。
生態系の中で、すべての生物が役割を担っています。しかし、今、世界最大の原生林は縮小しつつあります。
温暖化と乾燥化の悪循環から抜け出せずにいるのです。
その影響は食物連鎖の頂点に立つ、われわれ捕食者、人間に及ぶのです。
あらゆる生物は、生態系の一部です。
大昔から生態系に於いて,それぞれの生物が担っている役割があります。どれか一つでも欠けると、全体が崩壊してしまうのです。森林が縮小すれば、食料が減り食物連鎖の一部が崩れ始めます。そうなると生態系の維持は難しいでしょう!
21世紀末までに、アマゾン川流域の気温は7度上昇すると言われ、生命の宝庫はいずれ消滅し大量の種類の動物は絶滅するでしょう。
地球の地質的変化は少なくとも数千年単位で起こりますが、温暖化は数十年単位で進行しているのです。
その速度を遅らせるか早めるかは、人間の対応次第なのです。
つまり、われわれが迅速に手を打てば、被害は最小限に抑えられるのです。
しかし、対策を議論するだけで実行までに数十年が経過すれば、最悪の事態を目にすることになるでしょう!
動物を救うには、まず森を救うことです。
縮小を食い止められれば、森は本来の回復力で、元の姿に戻る可能性もあります。
樹木が増えれば降水量も増え、より多くの炭素が蓄積できて温暖化が緩和されます。
森林を守ることは、動物の棲み処を守ることだけでなく、温暖化を止める最後の手段になるのです。長い進化の中で命を存続してきた我々の前に、温暖化と言うかつてない巨大な敵が立ちはだかっています。我々は生死をかけた戦いを強いられているのです。