私達の研究の一つに、単身・重度であっても在宅を中心とする住み慣れた地域で、認知症の方が生活を継続する事が出来る可能性を調査するシームレスケア研究があります。
そんな研究の中から、気象とBPSD(行動・心理症状)の関係について調査した結果を「今月の認知症予報」と題して報告しています。
今回は、冷房の使い過ぎで起こる認知症の方への冷房病の恐怖についてのお話です。
冷房病は冷房が強すぎて外気との気温差が大きいために起こる病気です。
冷房の寒さが惹き起こす体のメカニズムと共に報告します。冷房が効いた部屋で長時間過ごして居たり、暑い部屋と冷房の効いた部屋の出入りが多いと起きやすくなります。
つまり、頻回にトイレを出たり入ったりする認知症の方がデイルームとトイレ内の温度差についていけず比較的簡単に冷房病になってしまうということです。
冷房病になるかどうかは、個人の体質も大きな原因になっています。
同じデイルームで過ごしていて、一方は冷房病になるのに、ほかの人は汗をかいている場合もあります。
これは、暑さ寒さを感じる度合いは、人間の皮下脂肪の厚さや基礎代謝量の差などによる個人差が大きいからでもあるのです。
一般には暑がりの人のほうが同じ温度でも汗をたくさんかくために、早く体温が下がりますが、認知症の方は、自律神経症状に伴い寒がりな方が多く、汗の量が少ないために身体の中心部の温度が下がりやすくなり、冷えた血液が循環するために、手や足が冷たくなってしまうのです。
認知症の人の冷房病による身体症状としては、疲労倦怠感、全身のだるさ、手足の冷え、頭痛、腹痛、胃腸障害、感冒、皮膚の荒れ、頻尿などがみられますが、特に多いのが神経痛や関節痛など冷えからくる痛みの訴えです。
行動・心理症状BPSDでは、行動症状として、無気力、繰り返し行動、つきまとい、焦燥から興奮が比較的多くみられています。
心理症状としては、誤認から妄想、幻覚、不安などの出現が起こりやすくなります。
家や施設内では、玄関、トイレ、居間(デイルーム)、居室、脱衣室、浴室、台所などの温度差には充分な配慮が必要です。
よく冷えた施設から、散歩や買い物がてらに暑い外に出て、買い物に行ったスーパーの中の冷房、帰途途中の暑さ、そして、帰ってきた施設の冷房。
これでは高齢者は、体内調整がついていけず、体内代謝に過度の負担が掛りストレスとなり、体が衰弱し、抵抗力が弱まってしまう“冷ショック”を起こしてしまうのです。
冷房の温度設定は、外の気温との差を5度前後にとどめるようにしたいものです。
実は、冬と夏では快適温度の感じ方が違うので、冬の暖房の快適温度は24度から25度、夏の冷房の快適温度は27度から28度といわれています。
これも体内代謝の違いなのですが、特に高齢者や認知症の場合には、デイサービスやケアの都合から長時間冷房の効いた室内で過ごすことが多いために、冷房病にかかることが多いようです。
このため、施設などでは、冷房の基準を何度に設定するのかが問題なのです。
暑がりもいれば寒がりもいます。つまり利用者本位にするのか、あるいはそこで働く介護者や従業者本位にするのかによっても快適温度は様々に違ってくるのです。
冷房病の対策は冷え性の対策と同じで、腹部から下半身の冷えを防ぐことが肝心です。
高齢者や認知症の人では、上着よりも腰から下の衣服を多めにつけるようにします。
しかし、身体を締め付けるようなガードルや下着は血行を悪くするので逆効果になってしまうことも念頭に入れておいてください。
私達の経験では、最も効果的な方法は腹部を温めることで、腹巻を使うのが良いでしょう。実は、夏でも「カイロ」が意外に冷房病を防いでくれるのです。
また、椅子に座ったままの状態は、冷暖房にはよくありません。時々身体を動かしたり、椅子を離れてしばらく歩くのもよいでしょう。
水分の補給にはお茶など温かい飲み物のほうが適しています。
嗜好品を好む高齢者は多いのですが、タバコは血管を細くして手足を冷やす原因になりますから、冷房が強い期間だけでも禁煙したほうがよさそうです。
最高気温が30度以上になる日を真夏日、最低気温が25度以下に下がらない夜を熱帯夜といいます。
都市部では真夏日、熱帯夜ともに増加する傾向になっています。地球温暖化で予想される日本の気温の上昇は21世紀後半に3度から4度となっています。
近年では、夏の気温は35度以上が当たり前になり、40度を超えることも珍しくありません。
そんな夏を快適に過ごすためにいくつかの工夫が必要です。日本には、暑い夏をうまく過ごす方法がいくつかあります。
例えば、伝統的であり、今でも連綿と続く土用の丑の日に“ウナギ”を食べるという習慣です。
日本では暑い夏を乗り切るために栄養価の高い“ウナギ”を食べる習慣が万葉集にも記載されています。
土用の丑の日に“ウナギ”を食べるという諸説はいろいろありますが、平賀源内が発案したという説が最もよく知られています。
また、丑の日に“ウ”の字が附くものを食べると夏負けしないという風習もあります。
例えば、瓜、梅干し、うどん、牛肉(ウシ)、馬肉(ウマ)などを食べる習慣もあったそうです。
実際に“ウナギ”には、ビタミンA・B群が豊富に含まれているため夏バテや食欲減退防止の効果はあるようです。
ですから、こんな諸説の話をしながら認知症の方と一緒に“ウナギ”を食する機会を設けるのも暑い夏を涼しく過ごせ冷房病にならない工夫かもしれませんね!
また、もともと日本の家屋は風通しがよく、夏を涼しくするように作られています。
さらに庭に打ち水をする、すだれや風鈴で涼しさを演出するなどで、より涼しくなるように工夫をしてみてはどうでしょう。
現在では、窓を締め切ってクーラーを使うのが当たり前になっていますが、人間が快適に感じるのは皮膚の周囲の温度が32度くらいで適当な風があればよいといわれています。
クーラーで寒いくらいに冷やすよりも扇風機やウチワを使って、室内の空気を動かしてやれば、少ない電力で快適な状態が作れます。
また、カーテンなどを青や緑系統の色に変えることによって涼しい感じを演出するのも、ひとつの方法ではないでしょうか、夜ぐっすりと眠るためにも、強い冷房は逆効果になってしまいます。
人間の身体は皮膚で感じる温度が高いと、汗をかくことによって身体全体の体温を下げるように働きます。
逆に皮膚が感じる温度が低くなると、体温が下がるどころか逆に身体の中心の体温は上昇してしまう場合があるのです。
人間が熟眠するためには寝てから体温が徐々に下がっていく必要があります。せっかくクーラーを利かせて寝たのに目覚めが悪いのは、冷房によって皮膚の表面温度が急激に下がるために身体全体の体温がなかなか下がらないためです。
認知症の方では、寝る前にクーラーを使用する場合には設定温度を28度前後に、低くても26度以上にしておいたほうが安眠できるのです。
ここで、高齢者や認知症の方にクーラーを効果的に使うためにいくつかのことを心がけてください。
特に施設や在宅で看護されている方は、まずクーラーのフィルターの掃除を二週間に一度は行うこと、フィルターが汚れるとクーラーの効率が悪くなりますし、フィルターの部分にカビが繁殖して、風と共にカビの胞子をばらまく恐れがあるからです。
空咳をする高齢者や認知症の方が、この時期多いのは、これが原因ともいわれています。
また、ベランダにはすだれを張って太陽からの直射日光を遮りましょう。すだれが張れない場合にはカーテンやブラインドを降ろすことによって室内の温度は2度から3度下がります。
クーラーからの冷気は部屋の下にたまるので、その冷気を水平に吹き出すようにしたり、扇風機を同時に使えば早く室内全体が冷えますし、電力も少なくて済みます。
クーラーの使い過ぎは外への廃熱によって都市の温度をさらに上げ、電力の使い過ぎは地球温暖化を加速させてしまいます。
ちょっとした工夫が地球の環境を守るだけでなく、高齢者や認知症の方の健康も守ることにもつながります。