(6月)今月の認知症予報 ★熱中症に罹る危険な徘徊とは!★

紫陽花

私達の研究の一つに、単身・重度であっても在宅を中心とする住み慣れた地域で、認知症の方が生活を継続する事が出来る可能性を調査するシームレスケア研究があります。

そんな研究の中から、気象とBPSD(行動・心理症状)の関係について調査した結果を「今月の認知症予報」と題して報告しています。 今回は徘徊と熱中症についての報告です。
夕暮になると、ソワソワしだす認知症の人は「家に帰ります」と繰り返し我家を出ていこうとします。
徘徊とは、目的も無く、あるいはしきりと物事を調べて回るように住居の内外を歩き回り、洗濯や物干し、草取りなど、まるで何か意味のある作業をしているかのような動作を繰り返し行う仮性作業のような状態をいいます。
その原因には、認知の障害によるものや欲求、幻覚、妄想によるものなど様々ですが、そのほとんどが、頭頂葉の障害により計画的に物事を実行できなくなる実行機能障害や季節、時間、場所、人物が分からなくなる見当識障害などの中核症状から空間的認知障害を起し徘徊を誘発していると考えられています。

もうひとつが、記憶障害によってさらに徘徊は悪化していくということです。 外出したことを忘れるなどの記憶障害は、側頭葉の障害による中核症状なのです。
徘徊は少し前の出来事をすっかり忘れてしまうことから“何の目的で歩き始めたか”を忘れてしまい徘徊していることが多いということです。
また、徘徊に関係する地誌的記憶には、道順と街並の記憶障害があります。
道順が全然わからなくなってしまうのが道順障害で、駅から家に帰るのにはどうしたらいいのかわからなくなりますが、ランドマークのように要所の写真や自宅の周辺の写真などを見せると、これは自分の家の周りだと理解し街並みの判断ができるのです。
これは右頭頂葉の内側後部による地誌的記憶障害と考えられています。
一方、逆に道順は正しくいえるのに、街並が分からなくなる街並障害は右側頭葉の内側部の地誌的記憶障害といわれています。
また、街並障害が起こる場所から考えても殆どの街並障害を起こす人は、人の顔を見せても誰だか分からない相貌失認と呼ばれる障害も発現しているのです。
実は、この場所には、もう一つ不思議な現象も隠されているといわれています。
東京女子医科大学名誉教授の岩田誠先生によれば、音程と道順とは脳内の左右が違うだけでお互いによく似た場所で認知されており、左側頭葉の内側後部に損傷があると音の高低が分からなくなると言っています。
20170601徘徊する認知症の方には、音の高低が分からず街の雑音が意味不明の音として焦燥感を生み出している可能性もあるし、知人だと思いむやみに近づいても声掛けしても、顔や言語も伝わらないということも念頭に入れて徘徊の対応を行わなくてはならないということです。

徘徊のお話はこのぐらいにして、以前お話しした「霧雨」や「篠つく雨」などの雨音が認知症の人にとっては“抑うつ”の引き金になり、精神不安定になる原因と関係があるかもしれません。
さて、毎年のように夏になると、新聞やテレビに熱中症で倒れ死亡した人のニュースがでますが、梅雨冷えから一転、猛暑となると、あちらこちらで日射病、熱射病を訴える人が続出します。
夏特有の病気である熱中症は強い日差しによる日射病と、高温による熱射病を合わせたもので特にお年寄りに多く、徘徊などを頻回に起こす認知症の人にとっては重大事です。
外にいれば日射病になり、部屋にいれば熱射病、夜になっても熱帯夜で不眠症になる。
つまり、徘徊などの行動症状がこの時期、心理症状の妄想、幻覚、抑うつ、不眠、不安を伴って強く出現するのは、熱中症によるものといえるのです。

 

20170602まずは日射病についてです。
太陽の光が最も強いのは正午前後で、正確に言えば日本標準時の原点となっている兵庫県の明石より東側では正午前に、西では正午過ぎに最も強くなります。
朝夕は太陽の光が斜めから差し込むためにそれほどではありませんが、午前10時くらいから午後3時くらいまでの間は強い日差しが照り付けます。
このような時間帯では、暑さや滴る汗の不快感から数分で焦燥感が出現し、そのイライラ感の意味が分からず外へ出ていこうとする行為が増えるのです。
そして、長時間太陽の日差しを浴びると日射病になってしまうのです。 介護者は、認知症の人が正午前後に焦燥感から徘徊しないよう気を付けることが必要になります。

晴れた夏の日には、昼前後の時間帯は長時間連続で外にいないように注意が必要です。
また、気温が32℃を超えるころから高温による熱射病の人が出てきます。
熱射病になるかどうかは、その時の気温や湿度、風速によって違いますが、特に気温が高く、風が弱い日には注意が必要です。

介護者や施設では、毎日の気温や湿度、できれば風速まで図って記録しておくとよいでしょう また、気温が高いときには、なるべく身体の体温を下げるように風通しのよい服装を心がけてください。
徘徊するような人には、ゆったりとして袖口が広く、首の部分がボタンなどで開放できるような服装が良いでしょう。
このような服装だけでも上半身から出ていく熱の量が2倍にもなるからです。
万が一、知らない間に徘徊してしまったとしても、このような服装であれば、捜索時間を多少稼ぐことができるからです。

20170603高齢者や認知症の人は、熱中症を防ぐために夏の気温の高い日には帽子をかぶり、風通しのよい服装を選ぶことです。
そして、長時間外で活動することは控えること、特に昼前後の気温の高い時間帯での活動はなるべく避けたほうがいいでしょう。
熱中症に罹る人の多くは午前10時ごろから急激に増加し、夕方までその状態は続いています。
ですから、熱中症に罹った人のピークは昼ではなく午後3時ごろになっているのです。
最も気温の高い時間帯ではなく、少し気温の下がってきた時間に多く罹っていることを知っておきましょう。
これは、昼前後は気温が高いため自然に注意していることや昼食などで十分な休息が取れているのに対し、夕方前は日中のデイサービスや家事などの活動により疲労がピークに達していることが原因だと考えられています。
実は、都会では夕方になっても気温が30℃以上というのが当たり前になっています。
気温が高いこの時期は、疲労がたまっている午後から夕方の時間帯は、高齢者や認知症の方は室内であれば45分に15分程度の休息を室外であれば20分毎に15分程度の休息を取るといったように、よりこまめに休息を取るなどの注意を行ってください。
そして、早目に休息を取り、喉の“カラカラ”になる前に水分を十分、補給してください。

夏の暑い時期では、高齢者であっても1日で3ℓ~5ℓもの汗をかくのです。
汗の量が体重の4%を超えると、口や喉が“カラカラ”の状態になり、6%を超えると唾液も止まり、言葉をしゃべることができなくなってしまいます。
口数が普段より少なくなってきたときは、すでに脱水状態なのです。
そして20%を超えると死亡につながる恐れが強くなることも覚えておきましょう。
体重50キロの人間では2ℓの汗で口の中が“カラカラ”になり、3ℓの汗で言葉が出なくなってしまうと覚えておくと計算しやすいかもしれませんね。
徘徊などで大量の汗をかいたら、とにかく早めに水分の補給をしてください。

その際、注意することは1ℓの汗の中にはおよそ2gの塩分が含まれていますから、普通の水ではなく、必ずスポーツドリンクや梅干などを口にするようにしてください。
また、徘徊などで熱中症になってしまった場合ですが、熱中症は、足や腕の痙攣、めまいを伴う軽度のものから、体温上昇や意識障害などの重度なものまであります。
軽度の症状の場合には涼しいところで衣服をゆるめて安静にさせ、薄い食塩水(2g/1ℓ)やスポーツドリンクなどを飲ませると回復します。

しかし、身体の力が抜ける脱力感と同時に吐いたり、めまいを起こしている中度の場合や重度の場合には、身体を冷やす応急処置をとるとともに、ただちに最寄りの医療機関に運ぶか救急対応します。
また、デイサービスの送迎で、他の人を出迎えに短時間で済むからと認知症の高齢者を車の中において行ってしまいがちです。
確かにクーラーの効いた車内は快適なのですが、いったんクーラーを切ると、あっという間に車内の温度が上がってしまい熱中症により具合が悪くなり意識不明や死亡する事故も起きているのです。

こんな報告があります。
20170604車外の温度が32.1℃の時の車内はクーラーがかかっていたので29.5℃でした。
その後、安全確保の意味からエンジンを切って他の高齢者を迎えに行きました。
その段階から車外の温度は上がり始め数分で33℃、その後も急上昇が続きました。
それに合わすように車内の気温は8分後には33℃を超え、12分後には35℃、18分後には37℃、そして30分たたないうちに40℃を超えてしまいました。
車内で待たされていた認知症の人は、風がないため10分後には熱中症の危険にさらされ、20分後には極めて危険な状態になってしまったのです。
加えて、この昼前後の気温の高い時間帯での活動を行うデイサービスは、気温などをしっかり把握したうえでサービスを行わなくてはならないということです。
また、デイサービスの終了時間こそが、最も熱中症に罹りやすい時間帯だということも覚えておきましょう。 話は戻りますが、徘徊の場合も同様です。
お昼前後から夕方にかけての徘徊は危険を伴うのです。
歩き始めて5分後には体温が上昇し、8分後には意識障害から吐き気まで起こってしまうのです。

そして10分後には意識がなくなりその場で倒れてしまい命にかかわる問題を引き起こしてしまうということです。
ですから、この時期の徘徊はたとえ介護者が付き添っての徘徊であっても危険を伴うということなのです。

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