(4月)今月の認知症予報★新緑が認知症状を軽減しBPSDを緩和する!★

私達の研究の一つに、単身・重度であっても在宅を中心とする住み慣れた地域で、認知症の方が生活を継続する事が出来る可能性を調査するシームレスケア研究があります。
そんな研究の中から、天気とBPSDの関係について調査した結果を「今月の認知症予報」と題してご報告しています。
桜が終わると、新緑の美しい季節になります。
先日、田園風景を残す横浜寺家の雑木林を散策していますとスギやヒノキ、松の色のくすんだ葉の中に、あまり目立ちませんが新芽がちらほらと新緑を思わせてくれました。
何か申し訳なさそうな、とげとげしい針葉樹らしい新緑だと安堵しました。
それに比べ、ブナやミズナラ、楓などの落葉広葉樹は、枝に緑が一斉に芽吹き美しい新緑となって心なごませてくれました。
ヤナギやイチョウは最初から緑色で芽吹くもの、白っぽいもの、赤や茶色の新芽まで様々な色相で、たくさんの絵の具を使った水彩画のような感じでした。
実際に木々の葉は新緑から若葉になる頃が最も成長が盛んで、その多くの葉は、フットンチッドと呼ばれる芳香を持った物質を出しているのです。
認知症の方々も、この時期の森林浴でフットンチッドを浴びることは、症状の軽減だけでなくBPSDの緩和にも有効なのです。
森林浴によって健康を維持するとともに、認知症の方に大切な癒しや安らぎを与えてくれる効果があるからです。
フィットンチッドとは、微生物の活動を抑制する作用を持つ樹木などが発散する化学物質で、殺菌力を持つ揮発性物質を言います。実際は、テルベノイドという天然化合物で抗菌性や抗腫瘍性があり薬草治療に広く用いられているのです。
そんなフットンチッドを楽しめる時期が、木々の葉が成長を始め、光合成を盛んに行う、「風薫る五月」と呼ばれる新緑の美しいこの季節なのです。
確かに穏やかに晴れた日の風はさわやかな香りを含んでいるような感じがします。
しかし、不思議なもので認知症の方のBPSDの月別発生頻度数を見ると、この時期が最も発症しやすい頃でもあるのですが、森林浴など自然界の作用でBPSDが緩和される季節でもあるのです。
BPSDの頻度が高い理由には、人間の言葉や気持ちとはうらはらに、5月の陽気は気象学的にはそれほどさわやかではないことが挙げられます。
確かに移動性高気圧は、さわやかな5月の風を運んでくるのですが、長続きはしません。必ず、次の気圧の谷がやってきて雨を降らせるのです。
また、時には「メイ・ストーム」(5月の嵐)と呼ばれる低気圧が発生し、大荒れの天気になり、海や山では遭難事故などが起ることがあるほどです。
過去30年間の5月の関東地方の天気を調べてみると、晴れた日は13日、曇りの日は8日、雨の日は10日でした。
フットンチッドの新緑ができる日は13日ですからBPSDを緩和するチャンスは有効に使わなければならないわけです。
実は、この時期は日本列島そのものが移動性高気圧の後方に当たるために、湿った南風が吹く「風薫る五月」のはずなのに、さわやかな風は数日しか吹いてくれないということなのです。
そのうえ、5月の晴れた日は日射量も多く、すぐ気温は25度以上の「夏日」になる。それでいて、意外に夜はかなり冷え込む。また、初夏のような陽気が続いたかと思うと、突然、寒い日がやってくる。「寒の戻り」といわれる日です。
つまり季節の変わり目なので「五月病」といわれる一種の自律神経失調症をひき起こし、認知症の人を苦しめるのです。
それだけではありません。日本は4月に年度が替わることもあって、顔見知りの介護士さんの移動や新人職員が入るなど、ある意味で馴染の関係が崩れる一番緊張する月でもあるのです。
この4月を精神的にうまく乗りこえられないと、いわゆる抑うつ傾向になり、自閉症的な閉じこもり、食欲の低下、アクティビティの参加などをしたくなくなるのです。
こうした心理的なプレッシャーがストレスの引き金になり、5月になると一気に身体的にも精神的にも疲れが出て来るようになり、そのうえ、季節の変わり目でもあります。
このような時こそ、森の中を散歩して思い切り深呼吸をすれば、ストレス解消にもなり、抑うつなどのBPSDも一気に解決してくれるのです。
森林浴はわざわざ山の中まで出掛ける必要は有りません。公園や植物園など樹木の多い所なら十分に楽しめます。ちょっとした散歩気分で十分なのです。花見が終わったら、森林浴が認知症の方の症状をその神秘な力で自然に緩和してくれるのです。
また、身体的に認知症の方はこの頃、頭痛がする、手足がしびれる、関節が痛い、古傷が痛む、神経痛がでる。喘息の発作がひどくなるなど、人それぞれに、体のどこかに変調が表れてきます。
また、「木の芽どき」といわれるように、精神的に不安定になる季節で、認知症の「五月病」といわれる性的逸脱行為や自閉型抑うつ、妄想、特に睡眠障害が多い季節でもあるのです。
「春眠暁を覚えず」という言葉がありますが、とにかく、春になるといくら眠っても眠り足りない気持ちになる。これは人間の体が冬型から夏型に変わる境目で、自然環境の変化に慣らしているためだという説があるぐらい、認知症の方だけでなく、私たちにも共通の「けだるさ」です。
それに加え、春になると、しだいに日の出が早くなってきます。
日の出の時刻は小寒(1月6日)の頃が6時50分ぐらいと最も遅く、その後、6時12分(3月1日)5時28分(4月1日)4時50分(5月1日)頃と急速に早くなっていきます(横浜の場合)。
アルツハイマー型認知症の方など夜明けが早くなると小鳥のさえずりが早くなるように、それに合わせて目覚めるようになります。「夕暮れ症候群」にならって「日之出症候群」と呼ぶ人もいます。
そして、そのためか熟睡できずに日中はウトウトしている状態で傾眠してしまいます。
また、眠りも浅く寝不足状態で心労がたまり記憶や認知の障害が進んでしまうのです。
その反面では、暖かくなると生体リズムが目覚め、体の各機関は活発に動きだすのですが、認知症の方などは特に新陳代謝が盛んになると、ビタミンB1が不足してしまうのです。
なぜならば、野菜や副食をきちんととらず、朝、昼、夕と米を主食にしている方は炭水化物で満腹にしてしまう傾向があるのです。
そうなれば、どうしてもビタミンB1が不足しますし、不足すると眠くなってしまうという悪循環が加わってしまうからです。
その上、認知症の方のように体に刺激が無くなると、さらに眠くなるというわけです。
実は、体が最も敏感に受ける刺激は温度なのです。冬は寒くて緊張している事が多いのですが、春は寒からず暑か
らずで、一番刺激の少ない温度とも言えるのです。
ですから、ついつい眠りこんでしまうというわけです。
確かに寒いとなかなか寝つけないし、暑くても寝苦しくなります。
認知症の方にとっては、症状を軽減しBPSDを緩和するチャンスの季節でもあるのですが、反面、春先の小鳥のさえずりを聞きながらウトウトと傾眠してしまう季節でもあるのです。
また、寒さから解放された体は皮下脂肪を薄くし、血管を広げ、体温を放出します。春になると眠くなるのは、人の体の自然のリズムなのかもしれませんね。では、「春眠」が心地よく感じる温度はどのくらいなのでしょうか、朝方の最低気温が6~7度辺りから15度前後までといわれています。
横浜でいうと4月中旬から5月あたりが、この温度に当てはまります。
九州、四国地方は3月半ばから春眠の季節に入り、東北地方は4月下旬から、北海道は5月のゴールデンウィーク辺りが該当するでしょう。
この季節をうまく利用して、認知症状の軽減とBPSDの緩和に努めてみてはどうですか。

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