(2月)今月の認知症予報★暮らしやすい地域の生物期間開始とBPSD!★

私達の研究の一つに、単身・重度であっても在宅を中心とする住み慣れた地域で、認知症の方が生活を継続する事が出来る可能性を調査するシームレスケア研究があります。
そんな研究の中から、天気とBPSDの関係について調査した結果を「今月の認知症予報」と題してご報告しています。
今回の認知症予報は、認知症の方から見た暮らしやすい気候を探してみました。
認知症の方が暮らしやすい気候から見た住みやすい地域を考えると、やはり温暖な気候に恵まれた場所が良いわけですが、人間が最も快適に感じる温度は季節によって多少変化します。冬場なら16度~18度、夏場ならは22度~24度、春秋は20度前後といわれています。

しかし、これは介護する場合の気温で、じっと動かない認知症の方の場合には、もう少し温度の高いほうが快適に感じるのです。つまり年間を通じて気温の差が小さいほうが、快適に暮らせることになります。
実は、認知症の方の場合は、春夏秋冬の季節は別として居室内温度は、夏場は冷房の28度、冬場は暖房の23度に設定し、居室内平均温度を25℃前後、湿度50%~60%に調整するのが、理想的な快適温度とされています。その理由は、暮らしやすい気候から見た地域の話で説明しますが、春になって気温が上がり日照時間も長くなると人間の心は浮き浮きして来ます。
この時期のことを啓蟄(ケイチツ)といいます。二十四節気のひとつで陰暦2月、西暦の3月5日ごろなのですが、1日の最低気温が5度を超えると霜が降りなくなり、冬ごもりしていた生物は目を覚まし、活動を始めるのです。これを「生物期間(植物期間)開始」といいます。
逆に1日の最低気温が5度以下になると生物は冬眠に入るわけで、これは「生物期間満了」といいます。
日本列島は南北に細長いので、北と南とでは温度差もかなり大きくなり2カ月程度ひらきが出てしまいます。
北海道の内陸部の場合には真冬に氷点下20度以下になりますが、同じ時期の沖縄は最低気温が15度前後といった具合です。

啓蟄は、生物期間開始の目安で、それまで冬ごもりしていた蟻、蛇、ヒキガエル、トカゲ、地虫などが穴から顔を出して、はい出てくるという日を意味しているわけです。
しかし、啓蟄も実際には北と南ではかなりの時期的差があるわけです。
実はこれ、他人事では無いのです。
認知症の方のBPSDで、特に突然怒り出す易怒性攻撃行為や一人で喋りまくる独語、繰り返し行動、性的言動などの逸脱行為と極端な抑うつ状態がこの生物期間開始と関係して顕著に表出してきます。
私たちの調査では、この頻度は冬場の4倍近く発症している事が分かっています。
例えば、鳥などは、日照時間が長くなってくると性ホルモンが刺激され、美しい羽根で身を飾り、性的な鳴き声を出すようになります。
浮き浮きするのは動物たちだけではないのです。私たち人間も同じなのですが、認知症の方では、超自我の支配が外れるのか、どうもこの時期、興奮性ニューロンの活動が促進され心は解放感に満ち溢れた心理状態となり生体リズムも、動物と同じように性的興奮を起こし躁状態が、醸し出されてくるのですが、直後その反動から極端な抑うつ状態に陥ってしまうのです。

レビー小体型認知症の方などでは、記憶力や理解力が極端に低下する時と物事をよく理解できる時が交互に訪れる認知の変動ともいわれる脳幹模様体の障害が顕著になります。
この時期の認知の変動は、「季節性感情病」ともいわれる状態に似ています。
人間もかつて冬眠する動物といわれていました。もちろん熊のように実際に眠り続けるわけではありません。暗闇、湿気、乾燥、暑さ、寒さを繰り返すなかで、人間は進化してきたのです。
暗闇や寒い季節は精神的にも心理的にも緊張します。それが人間にとっての冬眠と考えると、生物期間開始は、輝く日差しと高まる温度は、緊張した血管を緩め、間脳を刺激して、その刺激が脳下垂体に伝わり心も生理も一気に目覚めてホルモンは刺激され、易怒性攻撃行為や逸脱行為が律義に活動を始めるのです。
これは、同じ心理状態が春になって気温や天気の変動に合わせて、大脳と脳下垂体が刺激され認知の変動をも引起しているのではないでしょうか!

では、認知症の方が暮らしやすい地域としては、温暖な気候が良いわけですが、例えば、この時期、札幌の最低気温は氷点下7.7度、東京は2.1度、那覇は14.3度、最高気温は札幌では日中氷点下の真冬日が続きますが、東京は9.8度、那覇は19.1度もあります。
これだけを考えれば、冬に関しては当然のことですが、沖縄が最も快適に暮らせることになります。一方、夏はどうかといえば、8月の最低気温を見ると札幌は18.5度で熱帯夜はほとんどありませんが、東京は24.2度で夜間でも25℃以上の寝苦しい熱帯夜にあることもしばしばあります。那覇の最低気温は26.1度で熱帯夜が当たり前になっています。

つまり、夏は札幌、冬は那覇に住めばよいわけですが、実際にはそうはいきません。
そこで、気温や天候から研究所が独断で考えると、一番南の沖縄が最も適しているような気がしますが、気温を見ると宮古島と那覇は平均気温が16度前後、一方、九州や高知は7度~8度です。ところが雨の日数を見ると、宮古島と那覇は10日以上あり、3日に一回は雨が降っていることになります。これに対して高知や宮崎は7日程度と少なく理想的です。日照時間を見ても、一番長いのは高知で以下、宮崎、鹿児島の順になっています。実に宮古島や那覇は高知の半分しかありません。風も一番弱いのは高知で2m前後、これに対して宮古島は5mを超えています。

四つの気象条件から最も認知症の方に適した暮らしやすい気候から見た住みやすい土地は、雨が少なく、日照時間が長く、風が弱い四国の高知ということになります。
もちろん寒がりの方は、沖縄がよいに決まっていますし、雨がいやな方は長野県がよいでしょう。
どちらにしても認知症の方が好きな地域に暮らせるとしても、認知症の方が暮らしやすいのは、その地域の支援ネットワークにかかっているといえます。
その地域の理解と気遣いがあれば、穏やかな暮らしができるのですから・・・
参考に理科年表には各地の月別の気象要素が掲載されていますから、もし、認知症になったらどの地域で暮らしたいか、自分の好みの気象条件を探して見てはいかがでしょうか。

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