Science Park ★アミロイドβの増殖はADLの進行と比例する★

Science(サイエンス)は、日本語に訳すと科学と訳されますが、私たちの認知症高齢者研究所では自然科学を意味しています。

また、認知症ケアの本質を探る場合においては自然科学的知識と位置付け、根拠に基づくKyomation Care(キョウメーションケア)の体系の根幹にもなっています。

今回は、日常生活動作の維持が最高の認知症予防というお話です。

アルツハイマー型認知症の早期発見や早期治療、予防、進行防止などが叫ばれるなか、

まず、私たち介護者が第一に考えることは、認知症高齢者の行動を注意深く観察して、「いったい、何に関心を持っているのだろう」「なにを訴えようとしているのだろうか」を見極めることが重要です。しかし、認知症の人の中には失語や意欲の低下から言語を話さない方もいます。

このように認知症の方の「心に寄り添う」ことは難しいのですが、一つの対人援助技術によって心の向きを知ることが出来ると言ったら、どう思われますか。

Kyomation Careの対人援助技術の一つにJoint Attention「共同注視」というメゾッドがあります。

介護者は、障害者や認知症の方の横に座り、同じ姿勢、同じ方向を眺めて、その方の気持ちに寄り添いながら気分や態度などを察してコミュニケーションをとる方法です。

共同注視によって、認知症の方と同じ対象に注意・関心を向けることで、相手の考えを類推して意思を了解するのです。これは一種の模倣行為ですが、前頭葉ブローカ言語野のミラーニューロン(mirror neuron)を通して理解していきます。ブローカ言語野は言語の発生と発達の仕組に示唆を与え口の動きや表情の変化を真似することで、言葉の意味や心の動きを理解すると言われています。

この働きを利用した共同注視は、認知症の方と介護者間のコミュニケーションに関わるものと解釈することもできるのです。

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その他、認知症の方とコミュニケーションを取る場合に、言語以外の能力が良く使われます。例えば身振り、声の調子、顔の表情などです。実は、これらから相手の情動を読み取ることもできるのです。
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この意思伝達を読み取る能力を司る部位には、表情や声の抑揚から相手の表情を読み取る時に機能している前頭葉下部。

相手の動作や表情の動きと、顔の形の変化や視線の分析に使われている中側頭回や上側頭回。

そして大脳辺縁系にある扁桃核などによって、自分にとって快か不快か、危険なものかを判断しているのです。

 

そこで、認知症の方には恐怖心を与えないように正面をあえて外して近づかなければなりません。実は、人は無意識にうちに他人との間に適当な距離を取って、快適な空間を保っているのですが、その距離を侵害されると不快感を覚えるのです。

そんな場合のアプローチの方法に、パーソナルスペースを利用した方法があります。

ここで、パーソナルスペースについてお話しします。

パーソナルスペースには4つのスペースが存在しているのです。
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この空間で快・不快を確認すると相手との親密度が図れ、拒否などを事前につかむことも出来るのです。

この様にしてスペースを保ちながら、日常
生活動作を中心に残された精神機能や身体機能などの残存機能を見つけ出していくのです。

では、なぜこのような観察が認知症ケアには必要なのでしょう。

実は、最新のアルツハイマー病研究で判明されたことですが、アミロイドβタンパクの沈着よりも遥かに早く病理的な変化が始まっていることが分かったからです。

マウントサイナイ医科大学の塩井純一によれば、少なくともアミロイドβタンパクの沈着は病気の原因とは関係なく、副次的な現象なのではないかと言います。

アルツハイマー病発症の20年程前にアミロイドβタンパクが脳内に沈着すると言う報告は、つい先日の研究成果でした。

しかし、実際は3040年前に既にアミロイドβタンパクの沈着が始まっていて、アミロイドの前駆体であるアミロイドβタンパクに於いて、おそらく「アミロイドβタンパク42」のオリゴマーが原因物質として作動し始めていると言う考えが有力だというのです。

それだけでなく、ガンマ・セレクターゼによるAPP(アミロイド前駆体タンパク質)の分解で生じる、もう一つの生成物AICDが重要である可能性もあるとも言います。

しかし、どちらなのかの証明は短命の動物を使った実験では難しい可能性もあり、ここ数十年では決着がつかないでしょう。

従ってアルツハイマー病の治療法の発見・開発はますます先の話になりそうなので、その間、重要になるのが認知症ケアという事になる訳です。

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さて、認知症ケアで最も必要とされるのが、残存機能を評価することなのですが、現状では、HDS-RMMSEなどの知的機能評価や行動観察評価などのスクリーニングテストで行うことが多いのですが、もともとは、スクリーニングテストは認知症診断のための補助手段であり、残存機能の把握には役立つのですが、実施には専門性や時間を有するため、介護現場で使用するのが難しい現状もあります。

また、残機機能が把握できたとしても、スクリーニングテストを直接、活用して関心や訴えを見極め、治療的効果を得ることは難しいとも言えるでしょう。

認知症高齢者に対する理解と適切な対応を考えていく上では、むしろ日常生活動作の観察の方が、認知症ケアに於いては効果が期待できるようです。

まず、日常生活動作を3つのカテゴリーで確認していきます。

生活と社会活動を維持する能力であるAPDL日常生活関連動作、生活動作を自立して維持する能力であるIADL手段的日常生活動作、そして、自分の身の回りを行う能力であるBADL基本的日常生活動作を8項目のセルフケア能力で詳しくチェックして残存能力を把握し、支援の目安にしていきます。
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スクリーニングテストに加えて残存機能を引き出すために、日常生活動作の尺度で維持、経過と残存能力の確認、評価を試みてみておくとよいでしょう。

そして、米国の心理学者であるアブラハム・マズローの欲求5段階説を利用して心の動きを確認していきます。

欲求段階説の理論では「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生き物である」とし、生命維持のために欠かせない食欲や睡眠などの欲求から始まり、安心・安全を求める欲求、家族や社会に受け入れられたいと欲する所属・愛情の欲求、集団から認められたい承認・自尊の欲求、そして、自分の持つ能力や可能性を具体化する自己実現の欲求へと成長していくのです。マズローは、また欲求は低階層の欲求が満たされると、より高次の階層の欲求を欲するとも仮定しています。

Kyomation Careでは、日常生活動作(残存能力)と欲求(5段階説)と意欲(意志)には深い関係があり、これらは、加齢と伴に衰退もしくは低下していくとしています。

そして、これを「逆順」と呼んで認知症進行の尺度として捉えているのです。

ですので、欲求は高次階層から低階層へ移行しながら満たされなくなり、日常生活動作にもAPDLからBADLへと障害が現れてくるのです。

そして、同時に意欲(意志)は自己の意図を実現しようとする心の働きとして、高次(wish:欲望)から低次(drive:欲動)へと欲求に合わせ低下していきます。

ですから、日常生活動作(ADL)で出来ることを多く残すことこそが、認知症進行の予防であり治療なのではないでしょうか。

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次に、認知症治療に於いては、薬物療法と非薬物療法(リハビリテーション)としての介入法があります。

薬物療法は、進行性の変性疾患であるアルツハイマー型認知症の病態そのものの進行を抑制するのではなく、残存する脳神経細胞の機能を出来る限り保持、活性化させ、症状の改善ではなく、進行、悪化を遅らせることが目的とされているのです。

これが、現在の医学的「認知症治療」と言われるものなのです。

非薬物療法に於いても同様に、軽度および中等度のアルツハイマー型認知症に焦点を当てると、より有効性の高い介入法として見出せるものと考えられています。< span style="font-size: 12pt">

また、ごく軽症の段階にある方は、近時記憶障害以外の認知機能や日常生活動作能力は比較的に保たれており、多くの方に障害の自覚があるという特徴を持つため、これに即した非薬物の介入法の確立が必要になるのです。

そして、非薬物療法は認知症の方の経過に添って評価していくことで、情緒の安定、環境調整、意欲の向上、訓練的な意味合いを持たせるように介入をしていくことになります。

大切なことは、介入の効果が日常生活へ直接反映されるように工夫されなくてはならないことです。

なぜならば、一般に記憶障害のある患者は、非薬物療法の介入が終了し、その場からいったん離れると、療法を行ったこと自体を忘れてしまう。また、介入で身につけた手段を他の場面へ応用することも困難だからです。

そのため、非薬物療法の課題は日常生活に密着したものを設定し、能力や好み、時代的背景や家庭の事情、自伝的記憶などを繰り返しリハーサルされることと、終了後も継続しやすいものでなくてはならないでしょう。

最近では非薬物療法のエビデンスを取るためにNIRSにて脳機能計測を行い、神経活動の解剖学的に脳の局在ヘモグロビン濃度(Hb)を捉えて神経活動性を確認して、その有効性を検証していますが、認知症高齢者同士がともに楽しみ、喜び、助け合い、刺激し合い、精神機能や身体機能を維持し、活動性を保つのに有効となりえるかどうかなどの検証には、表情評価の観察で充分であり、むしろ、家族や介護者が適時に気分転換や休養が取れるように心身の疲労やストレスの解消が出来るような時間が作れるようにする介護者向け非薬物療法こそが重要であり、介護者が安定して継続的に認知症ケアが出来ることこそが最高の非薬物療法なのかもしれませんね。

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