Up・date★夕暮泣き(colic)と夕暮症候群(sundown syndrome)★

★夕暮泣き(colic)と夕暮症候群(sundown syndrome)
脳が心を作り心が脳を育む、脳と心は時として信じられない力を見せ認知症ケアの中で

奇跡を起こすことがある。認知症ケアや治療の最新情報と奇跡を起こすケアや治療法などをUpdate、今回は赤ちゃんに起こる「夕暮泣き」と認知症に起こる「夕暮症候群」、その謎に迫ってみる。
認知症の人の中に、夕方になるとそわそわと落ち着かなくなり、「家に帰る」「家に帰りたい」と言う帰宅願望が起こる。

アルツハイマー型認知症の中期に比較的頻繁に見られる症状である。今、自分が何処にいるのか分からない、何をしようとしていたのか分からない、目の前にいる人が誰なのか分からないなど、自分の状況が理解できないストレスに耐えられなくなり、その不安感から安堵を求めるあまりに落ち着かず不機嫌になる。そして、幻覚や妄想を起こし「家に帰る」というのが「夕暮症候群」という症状である。

認知症の人は、最近の出来事から忘れる逆向性生活史健忘によって記憶が何十年も昔に戻ってしまい、昔の家に住んでいると妄想して、家に帰れば両親、兄弟姉妹、親せきなど馴染の関係者が側にいて自分を理解し守ってくれると思い込んでいるのである。つまり、家に帰れば不安が取り除けると思っているのだ。

誰しもが母親から「日が沈む前に帰ってらっしゃい」と言いつけられた覚えはあるであろう。この帰宅願望の感覚は幼児期や幼年期に植付けられた自伝的記憶で、動物が自分の巣や生まれた場所に戻ろうとする「
帰巣本能」に似た本能的な欲求とも考えられている。

一方、夕暮症候群に似た症状が赤ちゃんにも見られる。

夕方になると不機嫌になり“ぐずり”出す。これを「夕暮泣き」と呼ぶ。生後24か月の赤ちゃんにしばしばみられる症状で、ちょうど昼夜の生活リズムができ始める頃で、その節目に起こる随伴症状とも思われている。

別の言い方では「黄昏泣き」とも呼ぶ。まだ寝返りなどで自由に体を動かすことができないストレスや寝ているだけの同じ姿勢に飽きてしまって、そのストレスから起こるとも言われている。夜泣きとの関係はわかっていないが、どちらも少しの物音で目を覚ますところなど敏感な反応を示すことが共通している。

実は、私たちの研究の一つにアルツハイマー型認知症の睡眠研究があるのだが、面白いデータがある。アルツハイマー型認知症の中期の睡眠パターンが赤ちゃんの睡眠パターンに酷似しているのだ。
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©2014認知症高齢者研究所

それだけではない、レム睡眠障害の研究でも同じことがいえる。赤ちゃんのレム睡眠とアルツハイマー型認知症中期の睡眠障害者とレビー小体型認知症の新皮質型の初期でレム睡眠障害を発症する人の全睡眠量におけるレム睡眠量は
65%~75%程度と報告されている。

このレム睡眠量が、赤ちゃんの全体睡眠量におけるレム睡眠量とほぼ同率なのである。
通常は浅い睡眠段階から始まって寝息を掻く段階などノンレム睡眠は、4段階で徐々に深くなっていくので全体睡眠量の70%はノンレム睡眠となるのだ。

そして、レム睡眠へと移行するのだが、夕暮症候群や妄想を引き起こす認知症の人などは、昼間の傾眠時間が長くなり、睡眠と覚醒のリズムを小刻みに繰り返すようになる。

すると浅い睡眠段階からレム睡眠へ移行する傾向になるようだ。このような様子も赤ちゃんの睡眠と覚醒リズムに似ているのだ。
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                     脳のすべてがわかる本(ナツメ社)より

人間は、昼間は活動し夜は休息するという体内時計による一日の概日リズムがあるが、アルツハイマー型認知症の中期の人の概日リズムを見ると早朝覚醒の傾向が多いことが分かっている。
そして、早朝覚醒により時間的観念が障害され、概日リズムが崩れると自律神経症状を呈していることも分かっている。
日中はこのような早朝覚醒から自律神経症状も含め気分的に落ち込み憂鬱な状態を呈してボーっと椅子に座っていたり、ベッドに横になっていることが多いが悲観的でなないようだ。
むしろ自由に体を動かすことができないストレスや寝ているだけの同じ姿勢に飽きてしまって、昼過ぎから回復し活動的になり冬場は午後3時~5時、夏場は午後5~7時頃になると、認知、思考、判断、注意力などの前頭葉にある前頭連合野の作業記憶が著しく低下して「黄昏時効果」を起こして、夕暮症候群が発症し帰宅願望が出現するといわれている。

この様子も、赤ちゃんの夕暮泣きに似ているのだ。

もともと黄昏時効果とは、人の思考能力や注意力が最も低下する時間帯のことで、黄昏時(夕方)になると思考や論理が働かなくなり相手のペースに飲み込まれたり、妄想などからくる強い思いによって自己暗示にかかり抑制がかけられず行動にでてしまうということだ。

これは、日没を控え外界の明暗に関する気象変化も大きく関係しているとも考えられている。
一日の仕事や生活の疲れがピークに達しやすい夕方は、意欲が低下し能率が落ちやすいということなのである。介護のケアレス・ミスやヒヤリハット、交通事故もこの時間帯が最も起こり易いといわれている根拠にもなっている

このように夕暮症候群を発症させる理由には睡眠障害による生活リズムの乱れにあることが分かるが、それだけでなく睡眠を十分にとらないでいると、脳の機能が低下するだけでなく、ちょっとしたストレスにも弱くなり、集中力がなくなって日常生活に支障を来して認知症の進行と共に自律神経やホルモンのバランスを乱し、心身に不調を生じさせてしまうのだ。「家に帰りたい」と夕暮症候群の症状を訴えるアルツハイマー型認知症の人などは、5ウォーリー
(worry)と呼ばれる「何故こうなったのだろう?」「何をしたらいいのだろう?」「何でこんな風になったのか?」「これからどうなるのか?」「どうしたらいいのか?」と不安と焦燥のストレスを常に感じているのだ。

加えて、自由に体を動かすことができないストレスや寝ているだけの同じ姿勢に飽きてしまって起こるとも言われている。

これらのストレスを感じていると、いつもより眠気を感じるのに、いざ眠ると眠りが浅く熟眠感が得られないのだ。
これは、ストレスを受けたときに分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTHホルモン)というホルモンのせいで、このホルモンには外敵から身を守るために睡眠を抑制して体を緊張させる働きがある。5ウォーリーの不安にさいなまれた緊張感が常に取り除けずにあるというわけだ。
そのためACTHホルモンが分泌されると深い眠りを得ることができず、夢様の浅い眠りとレム睡眠や妄想を頻回に繰り返すようになるようだ。

なぜならば、
ACTHホルモンの分解は睡眠中に行われるという皮肉な実態がある。
つまり、概日リズムの乱れや強いストレスが続いているとACTHホルモンの分解に要する時間は伸びてしまい、その時間を得るために眠たい欲求を高めてしまうという悪循環を生むことになるからだ。
そのため、アルツハイマー型認知症の中期の人では、5ウォーリーなどのストレスがかかり眠気があっても熟眠できず、すっきりしない状態が夕暮症候群を発症させているともいえるのだ。
この状況を克服するのには、ストレスをうまく解消し、ACTHホルモンの過剰な分泌を防ぎ深い睡眠と生活リズムの再構築が必要なのである。
その対応方法が、赤ちゃんの夕暮泣きに隠されているというのである。
夕方になると赤ちゃんが泣く「夕暮泣き」や「黄昏泣き」は、別名「コリック(Colic)」といわれているが、認知症の人の「夕暮症候群」の発症と非常に共通点があることはお話しした。
そこで、研究所では、夕暮泣きの解消法を使って夕暮症候群が改善できないかと仮説思考して認知症ケアを現在行っている。
そのいくつかを報告する。
5ウォーリーを意識すると、疲れていることや、不安からイライラしていること、安堵を求めていること、恐怖感から側に誰かいてほしいことなどが推察できる。

    忙しい時間帯に「家に帰りたい」と夕暮症候群が発症しても介護者は焦らないこと。むしろ積極的に話を聞き否定せず「もう遅いですよ」「明日にしましょう」などと説得しないこと。「一緒にこれをやりませんか」「これをしてみませんか」「こうしてみたらどうですか」などと本人の好きなことを勧め納得していただく。

    概日リズム(サーカディアンリズム)を整える。起床時には窓を開けるなど日の光と共に外気浴を行い就寝時には事前に寝具を温めて入眠させるなど生活リズムと睡眠パターンを整える。

    肩から抱え込むように抱きかかえるスリング(sling)で包むように抱きかかえる。加えて、背中を撫でたり鼓動に合わせ軽くたたく。

    好きな音楽をかける。オルゴールは有効で目線に入るようなところで奏でるとよい。

    他の仕事を中断して、その方だけにケースワークを数分間行う。声掛けは、その方の自伝的記憶を活用した自慢話を聞き出すように話す。

    洋服の裾を握らせ逆に付きまとわせる(シャドーイング)。そして、軽作業を手伝っていただく。

    目線を同じ高さか、更に低くする(喉仏あたり)。床に座り込んで話すのも有効である。

    ルイボス茶を飲用する。ルイボス茶を飲用すると夕暮泣きや夕暮症候群を和らげる報告がある。ルイボス茶は南アフリカ産の各種ミネラルを豊富に含む極めてバランスの取れたミネラル飲料で、身体に必要なマグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウムさらに微量栄養素として非常に大切な亜鉛をも含んでいる。就寝前に150㏄程度飲用すると効果的である。

 

 

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