認知症と心の科学4

◆自分自身が壊れていく認知症、アルツハイマー型認知症の治療最前線◆
人間の脳は、最後の未開拓領域かも知れません。まだまだ分からないことばかりですが、脳を装置として捉えれば宇宙で最も精密な装置かもしれません。そして、その精密装置の故障が認知症なのかもしれません。故障であれば直(治)せる可能性は大きいはずですね。
認知症と心の科学では、研究所が選んだ世界の認知症研究を分かりやすくお伝えしていきます。
運動は健康で強いニューロンを維持するための様々な分子の生成を助けます。
いわば分子の肥料です。
走ることで脳内にこれらの分子が増えるのです。
研究の結果、回復力や応用力に富む新しい脳の姿が浮かび上がってきました。そうなると長い人生経験が強みを発揮しそうです。
若い人はたくさんの情報を見つけることが得意です。
情報の収集と処理にたけているのです。年配の人は過去の経験を生かしそれと照らし合わせて状況をじっくり考えます。
それが知恵なのです。
1980年ごろまでは、脳の老化の基本的メカニズムも分かっていませんでした。
年をとって頭が呆けるのは自然な事だ、どうしようもないと思っていました。
でも本当はそうではないのです。
名前が出てこないのが一番困る、そして物を何処に置いたのか忘れてしまうことが次に困ると多くの老人は言います。
脳の老化が遅い人もいれば、早く老化が進んでしまう人もいます。大きな要因は持って生まれたもの、遺伝ですが、別の要因もあります。
それはどれだけ活動しているかということです。年をとってからもずっと活動的で体をよく動かしている人の場合、脳の機能の衰えはかなり遅いか、まったく衰えないというデータはたくさんあります。
病気の中には体の自由を奪うものも精神の自由を奪うものもあります。
記憶や思考を司る脳の領域が損なわれる病気、アルツハイマー型認知症は、両方を奪うものかもしれません。
アルツハイマー型認知症は、殆んど人類にしかかからない疾患です。
記憶や思考や推論にかかわる、この脳の領域は進化の過程で最後に人類が獲得したもので最も損なわれやすいのです。
悲劇ですね、その人を「人たらしめている」特性を最終的には奪ってしまうわけですから。
アルツハイマー型認知症は、人と細かい調整をしたり自分がやったことを思い出したりするのが困難になります。
アルツハイマー型認知症の人にとって、この症状が普通の老化現象なのか、あるいは認知症の兆候なのか、よく分からず迷っている人が多いのです。
そして、本人も家族も知りたがっているのです。
しかしアルツハイマー型認知症かどうかは、死後に脳組織を調べてみないと正確には分からないのです。
アルツハイマー型認知症かどうか確定診断できる方法があれば素晴らしいと思います。
しかし、脳の画像をとっても血液検査、あるいは髄液の検査など、どんな検査をしてもアルツハイマー型認知症かどうかを確実に診断することは残念ながら現在は出来ません。
医師たちは検査や問診の結果を総合して、判断するしかないのです。
本人がどう変わったか、家族からも話を聞きます。家族には、記憶力などについて気付いた事を聞きます。
家族の話では「最初の兆候は、ちょっと先の用事を覚えられなくなった事、何度も繰り返し伝えないと忘れてしまって・・・昔と違い家族に何でも頼るようになりました」と言います。
家族からの説明がないと、見た目では記憶力や思考力を無くしつつあることを他人に分かってもらうのは難しいので、隣人と時々トラブルになると言います。
家族はもちろん本人も衰えを心配しています。
本人からは、いろんなことを忘れてしまって記憶力に関して困っているとの発言があります。
「何かを言われても30分経つと思い出せません。大切なことですら・・・しかし、ほとんどはどうってことのない事なのです。」と言います。
そこで、こんな質問をしました。
野球が好きで巨人のファンだって…そうです…試合を見ていますか…もちろん…最後に見た試合は…巨人対横浜5対1いや6だったかな、うる覚えだがそんな感じで勝ったんです…実にこの試合は2年も前の事です。
巨人の監督は誰です…誰でしたっけ…そのうちに思い出しますよ!と答えました。そして、覚えられないのは地獄だと、つぶやきました。
今年は何年ですか…2012年…何月ですか…間を開けてから4月だと答えます。
今度は100から7ずつ引いた数を言ってください…93…86…79…77…77いや72…65…58…時間はかかりましたが出来ていました。
殆んどの人はアルツハイマー型認知症と聞くと、何もできず介護施設に入るしかない人をイメージすると思います。
しかし、正常だった年配の大人が一夜にして介護施設に入る状態には成りません。
変化は非常にゆっくりです。数年前であれば野球の選手や監督の名前はすぐに出てきたでしょうが、でも今は違います。名前が思うように出てきません。
このような記憶障害は普通の老化現象とは違うと考えられています。
これは老化現象でなく病気によって引き起こされる記憶力の低下なのです。
今の時代、年をとっていく中で記憶力が損なわれていく病気といえば、もっとも考えられるのは、やはりアルツハイマー型認知症でしょう。
この病気には治療が必要です。今は症状を安定させる薬がありますが、しかし根本的に治す薬はありません。
今はまだ出来ていないのです。それでも5年前に比べれば状況は格段と進歩しています。
この進歩のスピードが続くことを祈りましょう。
世界中の研究所で、神経科学者たちが100年来の謎に迫ろうとしています。
アルツハイマー型認知症の原因は何かです。
アルツハイマー型認知症は無数のニューロンを殺し、脳を破壊します。
その脳には、神経原線維変化と呼ばれる「もつれ」と卵の白身のような粘着性の老人班が見られます。
どうしてそれが出来るのかは長年謎でした。
アルツハイマー型認知症の原因に迫るのには非常に長い時間が掛りました。
脳科学者たちは、以前から顕微鏡でアルツハイマー型認知症に特有の「斑点」と「もつれ」を見ていましたが、それがこの病気の謎を解く鍵だとは思わなかったのです。
しかし、1980年代科学者たちはこの「斑点」と「もつれ」こそが、アルツハイマー型認知症の真犯人ではないかと疑い始めました。
ニューロンの生存を支えているのは、線路のように長い分子の「くさび」、この「くさび」を通って栄養が運ばれます。
この「くさび」を安定させているのが「タウ蛋白」です。線路の枕木のような存在です。
アルツハイマー型認知症になると何故かこのタウ蛋白がもつれ始め分子の「くさび」が切れてバラバラになってしまうのです。
「くさび」がもつれると、栄養の運搬が上手くいかなくなります。
誰かが線路をネジってしまう。これでは列車は走りたくても走れません、とカルフォルニア大学のアーバイン校のカール コットマン(Carl Cotman)教授は言います。
また、アインシュタイン医科大学のピーター デイビス(Peter Davies)教授によると、必要な場所に物資が届かなければ、細胞は崩壊しやがて死んでしまいます。アルツハイマー型認知症の細胞を見るとよく分かるのですが、タウ蛋白の繊維がもつれて文字通り窒息状態になっていると言えます。
この「もつれ」は長い時間をかけて、ゆっくりと起こります。逆にこれは不幸中の幸いです。もし早期に発病に気付いて、この「もつれ」の形成を阻止することが出来れば、病気の進行を食い止めることが可能になるかもしれないと言います。
そして、ピーター デイビス教授は、この「もつれ」と深く関わっているかも知れない物質を見つけました。
Pin-1と呼ばれる酵素です。Pin-1という酵素は繊維の「もつれ」つまりタウ蛋白の変化と密接に関わっているようです。
Pin-1のタウ蛋白に対する働き掛けがどのようなものなのか検証はまだこれからですが、それを突き止められればタウ蛋白がもつれるのを予防できるかもしれません。
デイビス教授は神経原線維の「もつれ」を予防する薬の開発を目指しています。
一方、老人班の予防を目指すグループもあります。
ニューロン同士の隙間には、たんぱく質の分子が漂っています。
アルツハイマー型認知症に侵された脳では、βアミロイドと言うたんぱく質が多く見られます。
βアミロイドには、卵の白身のような粘着力があるためお互いに結合して老人班になります。そして、藤壺のようにニューロンの外側に付着します。
ある仮説によれば、それを敵と判断した脳は、化学物質を放出して戦います。しかし、化学物質はニューロンをも攻撃しゆっくりと破壊してしまうというのです。
脳はβアミロイドから守ろうとしているわけですが、かえって酷い状態にしていると言えるかもしれません。
ダメージが広がるとニューロンがさらに死滅し、この領域全体が老人班に覆われてしまいます。
そこで、脳内のβアミロイドの量を減らせばアルツハイマー型認知症を予防できるという仮説をたてました。
コレステロールを減らせば、心臓疾患が予防できるのと同じ考え方です。
しかし、それほど簡単にはいかないでしょう。第一に理論が間違っているかも知れないからです。これは仮説にすぎないからです。
第二に仮説が正しかったとしても、やはり難しいでしょう。副作用の可能性があるからです。
しかし、世界各国の研究室で行われた実験が、この仮説を強く支持しています。
βアミロイドを減少させて症状が回復すれば、仮説は証明されるのですが、現在ではその仮説自身にも疑問が出てきているため、この方法では難しいと言えます。
サンフランシスコの神経科学者のデールシンク(Dale Schenk)博士は、βアミロイドを減少させる画期的な方法を考え出しました。
目新しい点は、免疫システムを使ってアルツハイマー病の治療をしようとしたことです。
シンク博士は免疫システムに老人班は異物だと認識させたと言います。
そうすると免疫システムは取り除こうとするというのです。
シンク博士はβアミロイドそのものからワクチンを作り、アルツハイマー型認知症の老人班が出るよう遺伝子操作したマウスで実験しました。
そして驚くべき結果がでました。若いマウスだけでなく既に老人班が出来ているはずの年老いたマウスにもワクチンを接種して調べたところ、どのマウスの脳もほぼ完ぺきに消えたのです。
シンク博士は年老いたマウスに既にあった老人班がワクチンで消えたのではないかと考えました。
マウスを二つのグループに分け、片方にだけワクチンを接種すると接種しなかった方の脳には、老人班がはっきりと認められ、摂取した方の脳は健康な状態でした。
私達が死ぬまでにアルツハイマー型認知症の治療法は見付からないだろうと思っていましたが、今は、きっと見つかると信じています。

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