認知症と心の科学3

◆蘇る脳、脳の可塑性で驚くべき回復を遂げた部位!◆
人間の脳は、最後の未開拓領域かも知れません。まだまだ分からないことばかりですが、脳を装置として捉えれば宇宙で最も精密な装置かもしれません。そして、その精密装置の故障が認知症なのかもしれません。故障であれば直(治)せる可能性は大きいはずですね。
認知症と心の科学では、研究所が選んだ世界の認知症研究を分かりやすくお伝えしていきます。
アラバマ大学バーミングハム校(University of Alabama at Birmingham)の神経学者エドワード・ターブ(Edward Taub)教授の研究プログラムは、脳卒中の患者に発症後何年たってからでも患部を回復させる方法を発見、ターブ教授の革新的な治療法を紹介します。発症から3年、多くの傷ついたニューロンが脳の回復力によって蘇ったお話です。
この方法を活用すれば、認知症の認知機能も蘇るのかも知れませんね。
3年前、K氏は脳卒中で左半身不随になりました。何カ月もリハビリしましたが左腕の機能は戻りません。しかたなく会計士の仕事はやめざるを得ませんでした。
K氏は、自分が役立たずになった気がしたと言います。
「前のように体は動かないし頭も働かない、家族にも迷惑をかけています」「こんな体になってしまって、元に戻りたい、それに尽きます」「左腕を取り戻したい、左手で何かを握りたい、自分で靴紐を結びたい。63歳にもなって靴紐が結べないなんておかしいでしょ。自分で結びたいのです」と言い、マジックテープはヤダと心を打ち明けてくれました。
麻痺になったK氏は、歯磨きの時も着替える時も積極的には、麻痺側の手は使っていませんでした。
すべて麻痺のない側の手を使っていました。つまり麻痺した手は、ただそこに置いているだけでした。
そこで、K氏はエドワード・ターブ教授の研究プログラムに参加しました。
K氏は左側の機能を失ってしまいましたが、また元のようになりたいと願っていましたので、機能回復リハビリテーションのプログラムを行っていました。
K氏は手を大きく動かすことは出来るのですが、自分では動かすことが出来ません。
左腕麻痺の原因となった脳卒中は右脳の腕の動きを司る部分で起こりました。動脈が突然詰まって血の流れが止まり、酸素が脳に行かなくなってしまったのです。
何百万個というニューロンが死滅あるいは損傷して患部は元の大きさの半分にまで縮んでいました。
右脳は左半身の運動機能をコントロールしているため左腕と左足が麻痺したのです。
患者の多くは、先生からこんなふうに告げられるのです。
「脳卒中の発作から、半年ないし一年たった時点での体が動かせる範囲が最大です。その後は一生、それ以上、体を動かすことは出来ないでしょう」と・・・一年後にどんな状態であれ、それ以上良くはならないと言うことなのです。
しかし、神経科学者エドワード・ターブ教授のチームは脳卒中の患者に発症後何年たってからでも患部を回復させる方法があると伝えています。
ターブ教授の革新的な治療法では正常な方の手を使えなくします。
動くほうの手を使ってはいけないので悪いほうの手を使わざるを得ないのです。
その結果、使えなくなってしまった手がまた使えるようになるというのです。
脳の回復力によって、K氏は発症から3年、多くの傷ついたニューロンは回復しました。しかし、その殆んどは脳卒中で損なわれなかった周辺の回路のために使われるようになっていました。リハビリテーションを充分やれば回復したニューロンが元の役割を取り戻し左腕に信号を送り始めるのです。
それにはまず脳にインプットされた右腕に頼る癖をやめなければなりません。
麻痺した方を使おうとしつづければ動くようになるのです。しかし、それを殆どの患者はやらないのです。
やらないでいると、やらないのが習慣になってしまって、つまり条件付けになってしまうのです。
1週間が経ち、1カ月が経ち、時が過ぎていくと麻痺した方を使わない傾向はどんどん強まり、遂にはどうしようもないほど強力になってしまいます。従って麻痺した方を使うという逆の条件付けをしなくてはならないと言うことになるのです。
麻痺した方の手をひたすら使い続けるターブ教授の治療法は、非常に効果的ですが疲労困憊します。
麻痺した方を使わない癖を克服するだけでは不十分です。指示された通りの動きをひたすら何度でも繰り返すことが肝心なのです。
この治療により多くの患者が驚くべき回復を遂げました。
脳には可塑性、すなわち状況に応じて変化する性質があります。
脳には体の各部分の動きを司ったり感覚を受けとったりしている領域がありますが、その領域は体のその部分をどれだけ利用したかによって絶えず変化し続けているのです。
そして、たとえ人間がどんなに年をとったとしても、脳自体がどんなに老化したとしても脳の可塑性は変わらないということが分かってきたのです。
ターブ教授の治療法を2週間続けると、麻痺した手足の動きを司る脳の部位が元の大きさに戻ることが確認され分かりました。しかしながら、理由は今も謎のままです。
次回は、あまりにも身近な存在で普段意識することのない自分自身。その自分自身が壊れていく認知症。
認知症の神秘の世界と驚異のメカニズムを人体の構造を通して、その中で何が起きているのか、仕組みはどうなっているのか、複雑でいまだに多くのことが解明されていない認知症の世界感をシリーズで人体の神秘と共に探検します。

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