第15回「ピック病の対応2」

認知症と付き合う隠れ技 キョウメーションケア
認知症高齢者研究所 所長 羽田野 政治の連載コラム 今回は第15回目「ピック病への対応2」です。
表情や態度を確認し 本人なりの生き方を
ピック病と呼ばれる前頭側頭型認知症の初期では人格障害、行動障害、感情障害、言語障害などに行動抑制や道徳観の低下が加わり、社会に無関心になります。しかも本人には病識が無いので、「万引き」や「無銭飲食」などの反社会的行動を起こしても一切覚えていないのです。中期に入ると意欲の減衰、無欲状態、はぐらかしや日常生活では同じ内容の言葉が繰り返されるようになるだけではなく短時間の記憶が著しく障害され、見聞きしたことを直ぐに忘れてしまいます。
さらに他人の言葉や文章をオウムの様に反復したり、同じ言葉も何度も繰り返すようになります。そのため、周囲の人を巻き込んでしまう厄介な認知症でもあるのです。そして、末期には精神が荒廃し無動・無言状態となり、廃用性的に亡くなってしまいます。前頭側頭型認知症は前頭葉の機能の低下により感情が不安定になったり、多幸状態になったりと様々な精神症状や行動面での障害が出現しますが、元々前頭葉は意思、思考、創造などと関連しており、本能的な衝動を抑制し、理性的な行動をとったり物事に対する興味や関心を維持したりする場所でもあるのです。この場所に障害が出るため、部屋中に新聞紙を引き散らかしたり洋服などを散乱させたり部屋中を汚すのですが、不思議なことにトイレなど決まった場所だけは毎日掃除する「掃除の繰り返し行動」があるのです。
それだけではなく散歩などは必ず同じ時刻に出かけ、同じコースを何度も歩き回る周徊「繰り返しの散歩」と呼ばれる常同的な徘徊も認められるのです。しかも、周徊中には人前で平然と無礼な態度をとったり店先で勝手に物をとって食べたり他人の家に上がりこみ迷惑を省みないなど、非常識で無配慮な行動が現れトラブルになることがしばしば起こります。このような人の対応には母親が子に示すような態度で接することが重要で本人のペースに合わせ感じ方、考え方、安心の仕方などを本人に代わり介護者が見本を示していきます。つまり姿勢や態度などの行動を真似してもらうよう指導するのです。「ダメ」「いけません」などと否定するのではなく、子育てのように本人なりの生き方を援助していくわけです。
また、視覚失認で手元が見えにくいために興奮を起こすことも多いので、見えている範囲を事前に確認し、介護者が横隣りに座り、同じ方向を見て何を見ているのか共同注視しながら丁寧に説明していきます。抑制が効かず他人の物に「手を出してしまう」場合には、本人の勘違いを受け入れ相手の反応を読み取り、予測しつつ「手が出せないよう」に環境を配慮します。
自発性の低下から日中も布団を敷いて寝ていたり、一日中寝巻姿で過ごしている方には本人の表情や態度を確認しながらできないところを援助していき、可能な限り本人の残存能力を活かして着替えや布団をたたむなどの生活動作を訓練するようにします。同じことを何回も繰り返す人には、別の手段や方法を目の前に示し、簡単にパターン化して視覚的に導いていきます。
また、ピック病でも意味性認知症のように言語障害が多く、意図した言葉を上手く出せない健忘性失語や言葉が間違って発せられる錯語の障害が見られる方には、物の名前が言えなかったり物の名前を聞いてもその言葉の意味が分からなかったりするので、やはり横隣りに座り同じ物を共同注視し背中に見ているものの頭文字を書きあて「この字は何の字」と耳元で囁いたり、口元に指を当て介護者が発音し真似してもらうなどの援助をすると効果的です。
ピック病の対応では、できることをできるようにすることに心掛け本能的な衝動を真似してもらうことで抑制し、理性的な行動ができるように自立支援していくことが大切なのです。
次回は、診断できても治せない病への挑戦、介護にゆだねられた脳血管性認知症の症状と対応について学びます。

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