第14回「ピック病の対応」

認知症と付き合う隠れ技 キョウメーションケア
認知症高齢者研究所 所長 羽田野 政治の連載コラム 今回は第14回目「ピック病への対応1」です。
10年以内に進行 経過早い認知症
従来から知られている「ピック病」は、前頭側頭葉変性症と1994年に概念化された前頭側頭型認知症を含めた疾患として1996年に提唱されました。ピック病はアルツハイマー病が報告された同時期の1892年に精神科医のアーノルド・ピックが報告しています。特徴的な精神症状と脳病理所見が見られる原因不明の7症例を基に1926年に神経病理学者のシュパッツが疾患として概念化したものです。特有な人格障害、行動障害、感情障害、言語障害と脳の前頭葉や側頭葉に損傷が認められるもので、症状などから「前頭型ピック病」「側頭型ピック病」「前頭側頭型ピック病」に分けられました。
 
ピック病がなぜ発症するのかについては完全には分かっていませんが、脳内の蛋白質(タウ蛋白あるいはTDP4蛋白)の以上により引き起こされていると言われています。アルツハイマー型認知症ほどではありませんが遺伝子の可能性が認められており、男性よりも女性に多く、初老期(45~65歳)に発症することが多いようです。
 現在ではピック病は侵されている脳の部位と症状の違いから「前頭側頭型認知症」「意味性認知症」「進行性非流暢性失語」の3つに分類されています。それぞれの特徴としては前頭側頭型認知症では行動の障害が強く、意味性認知症では言語の理解の障害と行動の障害の両方、進行性非流暢性失語では発語の障害のみ現れるのが特徴です。そして、これらの分類のうち前頭側頭型認知症と意味性認知症が従来のピック病に相当すると理解されています。
 キョウメーションケアでも同様に考えてケアにあたります。つまりピック病と病名の付いた人では、その症状の特徴を見て行動障害が強い前頭側頭型認知症なのか意味性認知症のように行動障害と言語障害ともに強いタイプなのかを見極めて介護にあたることを基本にしています。
 ピック病の経過は初期には人格変化や行動異常、言語障害が特徴です。つまり早期は感情の起伏が無く、平坦で無関心な状態ですが徐々に感情は鈍くなり鈍麻してしまうのです。一般的には美意識や道徳観といった感情から侵されていくのですが、万引きなどの反社会的な行動も出現してきます。しかし本人には罪の意識や自覚症状は無く、平然としていることも多いため、幼児の様です。仕事や家事に対しても無関心になり掃除をしていない汚い部屋にも平気で暮らすことができます。それだけでなく寝る場所も無いくらいゴミを収集する様子も伺えるのです。
 中期になると躁鬱症状やヒステリーを伴う人格変化や行動障害などが顕著となります。日常生活で習慣化した行動や習得したことはできるのですが、新たに解決方法を生み出し遂行して物事を処理する行動は困難になります。同じ場所にいつまでもうずくまり放っておくと一日中寝ています。加えて自制心が無くなり、周囲への態度は無配慮・非協力的になってしまいます。家族や介護者と会話を交わすことも無くなり、言語理解の障害も加わって意思疎通は低下し、介護者との良好な信頼関係が築けなくなるのです。症状としては感情表現が乏しくなり喜怒哀楽の感情反応も薄くなります。その一方では機嫌良く高揚状態が続いたかと思えば関心も興味も持たない無表情な状態も現れるといった状態です。
 しかし、これらに比べ出来事記憶は中期でも保たれている点がアルツハイマー型認知症と大きく異なる点なのです。例えばピック病の方はふいっと外に出て行っても家に帰ってくることが出来るので、徘徊とは言わず周徊と言われています。末期では認知機能、身体機能の低下も進行して無動になり運動麻痺や腱反射の減弱・亢進、動作緩慢、振戦などの不随意運動も出現するなど、10年以内に進行してしまう経過が早い認知症なのです。
 
 次回は、診断できても治せない病への挑戦、介護にゆだねられたピック病の対応について学びます。

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