以下、第1回目の記事を引用
多様化する介護ニーズに応える期待のサービス
本連載では、定期巡回随時対応型訪問介護看護(以下、定期巡回随時対応サービス)の現状や課題を考察しながら、事業運営のポイントを探っていきたいと思います。
皆さんご存知だとは思いますが、介護の歴史が示すように介護や看護による支援や援助は、安定的に確定しているわけではありません。一人暮らしの高齢者や認知症高齢者の増大、医療依存度の高い要介護者やターミナルケアの増大など、介護ニーズは多様化しています。
それに伴い、支援や援助は複雑化し高度化するなど社会状況によって常に再編され変革し続けています。
厚生労働省が実施した介護保険制度に関する2012年の調査では、65歳以上の被保険者数はこの12年で約910万人急増し2986万人にのぼりました。東京都の総人口は1300万人ですから、その多さに驚きます。要介護・要支援の認定者数は実に533万人、認知症の方は305万人にも及んでいます。
このように高齢化が進む一方、一般病床と療養病床を合わせ130万床、介護施設や居宅系サービスで123万人分という現状から、必然的に「施設から地域へ」「医療から介護へ」と移行すべく地域包括ケア整備となりました。また介護が必要になったら75%が自宅で介護を受けたいと答えていますが、介護状態の重度化、長期化が進み病院や介護施設との許容バランスの崩れから介護放棄や介護殺人、孤独死など、介護問題は大きな社会問題として顕在化しています。
こうした問題を解決すべく誕生したのが、定期巡回・随時対応サービスです。このサービスは重度者をはじめとした要介護者や、認知症になっても住み慣れた家で暮らし続けたいという願いを大切に、介護、看護、医療をトータルにサポートする事業です。次に、実際の事例を通じて、同サービスの可能性を3つの視点から具体的にお話します。
病院同様のチームケアが居宅で構築される。
退院を1週間後に控えたAさんは、自宅で家族と外部の介護サービスを組み合わせてケアを受けたいと希望にその依頼に応えるため病院内のカンファレンスで退院後の介護、看護、医療のサポート体制を話し合いました。
病院のソーシャルワーカーは地域包括支援センターに連絡、ケアマネジャーと話し合いの結果、希望どおり自宅での介護が決まりました。
Aさん症状は脳梗塞の後遺症、糖尿病、認知症状から自宅での介護は難しい状況でしたが、病院ではなぜ自宅での介護を許可したのでしょうか?その答えが定期巡回・随時対応サービスでした。
実はここが第1の可能性です。定期巡回・随時対応サービスは従来型の訪問介護や訪問看護と異なり、介護士や看護師が一体となって24時間、身体介護を中心に生活のリズムに合わせて、1日複数回の短時間サービスが提供できます。まず、ケアマネジャーから依頼を受けた定期巡回・随時対応サービス事業所は事前情報を基に看護師が利用者宅を訪問し現状のアセスメントを行い、健康状態などを確認し情報共有システムに記録します。この段階から介護と医療の連携が始まります。そして、定期的なモニタリングの実施は1ヵ月ごとに義務づけられ多職種間で介護計画が見直されていく。これが自宅での介護を可能にします。
そのためには、情報共有は必須条件です。利用者のケア情報や医療情報などの記録が一元管理されるクラウド型の情報共有システムに整理され、医師、看護師、介護士、薬剤師、栄養士、療法士、ケアマネジャー等で共有。つまり病院同様のチームケアが居宅で構築され地域包括ケアを可能にします。そして情報共有システムを活用して計画作成者とケアマネジャーを中心に多職種間で情報交換が行われケアプランが立案されます。
それに基づき、介護士と看護師が定期的に利用者宅を巡回、身体介助や生活支援、看護などのサービスが提供されます。身体的な変化はただちに医師に情報共有システムを通じて連絡、指示に基づき対応がなされるので安心です。20分未満のサービスが1日複数回利用できるため、短縮されたサービスを状態に応じて組み合わさることができ、これが必要な時間に必要なサービスを生活リズムに合わせて提供する個別ケアを可能にします。
体調管理や緊急時にも対応 自宅で生活を支える
第2の可能性は、身体状態や生活リズムの把握を可能にしている点です。血圧、体温、呼吸、脈拍などを定期的に測定し情報共有システムに記録ができるので医師が経過や薬の効果、様子などの観察が可能です。また、利用者の睡眠や覚醒のリズムを把握し、熟眠障害や昼夜逆転の軽減に役立て夜間の排泄介助や定期巡回のタイミングをつかむこともできます。
さらに、情報共有システムにある薬剤情報は薬剤師により管理され、服薬の定期巡回サービスと組み合わせれば薬の飲み忘れや誤薬などの改善にも役立ちます。もちろん医師にも情報共有されるので、予防医療にも役立ち訪問看護ステーションと連携し介護と医療による在宅ケアも可能にしています。機能強化型在宅療養支援診療所と連携を図れば在宅で重症度の治療を集中的に行うケアも可能です。
1ヵ月後、利用者の生活リズムやADLなどの新情報を基に訪問介護計画書とケアプランの見直しが多職種間で情報共有されカンファレンスが行われました。新情報を基に実施される定期巡回・随時対応サービスは生活のリズムづくりから、睡眠障害の軽減、失禁の予防、ADLの維持などを可能にします。そして、糖尿病の改善や生活介助、夜間の体位交換もできるので、ご家族の介護負担も軽減されます。また、利用者の「自宅に帰りたい」と言う希望が叶い、介護者のかかわりが増えることで認知症の症状が緩和され住み慣れた地域での生活が可能になります。
第3の可能性としては、利用者の通報による随時対応に対応している点です。通報はケアコールで行います。これは「病院のナースコールが利用者宅にある」とイメージすればわかりやすいでしょう。ベッドからの転落など緊急の場合はケアコールを緊急ボタンを押せば24時間オペレーターが対応。オペレーターは熟練のケアマネジャーや看護師などの専門員を配置、通報の内容を的確に判断し介護士や看護師に緊急の駆けつけを要請、状態や状況に合わせて、およそ30分以内に訪問し適切な介護と看護サービスを提供します。
症状や状態に応じてサービスの提供時間や内容が適宜に変更可能なものの、毎回同じスタッフが対応できずなじみの関係をつくることが難しいという面もあります。
その問題を解決するため、事業者は声掛けや接遇の均一化やユニフォームなどでなじみの関係づくりに努めています。24時間対応サービスは、“住み慣れた家で暮らし続けたい”という願いを実現した事業といえるのではないでしょうか。
次回は、ブロークン・ウィンドウズ現象を通して24時間対応型サービスの訪問介護計画や多職種連携のポイントを説明します。