第9回「不安への対応」

認知症と付き合う隠れ技 キョウメーションケア
認知症高齢者研究所 所長 羽田野 政治の連載コラム 今回は第9回目「不安への対応」です。
誰でも年をとると、経済力、健康、思い出、生きがい、ついには生活歴や生きるよりどころまでもが失われていきます。その時々に私たちは漠然とした恐れの感情が湧きあがってくるのです。これを不安といいます。
不安の表現は、恐ろしい、どうにかなってしまいそう、何も覚えられないなど主観的に訴えることが多く動悸、発汗、手指振戦などの身体症状も伴い破局感や切迫感からパニック発作も引起す行動心理症状BPSDの主訴でもあるのです。
認知症の介護現場では恐怖感が不安に先立って出現しているので、不安への対応では「心配いりませんよ」「怖く無いですよ」などと説得する態度は避けます。むしろ本人が納得する姿勢や態度で話を聞き不安の感情を受け止め、不安の要因や内容を整理し安心感を取り戻させ解消させます。
たとえば、認知症の方では共有スペースに苦手な同居人や入居者、介護者がいると直ぐに自室に戻って出てこないことがあります。そのうち自室から出てこなくなるのです。「心配ないから出てきてください」ではなく「側に居てもいいですか」と寄り添い本人の言動を受容し不安を緩和します。トイレに行きたいのにトイレの場所が分からずに起る不安には「用足しに行きますか」ではなく「一緒に行きましょう」と声掛け一緒に付き添い本人にふさわしい支援を行います。
「分からない」「どうしたらいいの」などと言う方には、本人のペースに合わせ簡単にパターン化して目の前に示しながら繰り返し伝え不安を解消します。キョウメーションケアでは「江戸しぐさ」の接遇方法で不安の方への援助を行います。江戸は、言語も習慣も異なる人々が集まった異文化のるつぼだったので、あつれきやトラブルが日常茶飯事に起こっていました。これは、あたかも認知症の方々の世界感にも似ているのです。このような状態を未然に防ぎ、安心して楽しく暮らせるように様々な工夫をしたのが「江戸しぐさ」です。目つきや表情、話し方や身のこなしによって、思いを表現する「しぐさ」から心の動きを察知するのがキョウメーションケアの様子観察13項目と対人援助方法なのです。
不安のある認知症の方への対人援助では、まず微笑みを交わし目があったら卑屈でなくハッピーであることが分かるよう照れくささを捨てて微笑みます。笑顔は相手を和ませ敵意を持っていないと言うメッセージになるからです。そして、一期一会の温かい眼差しを交わします。認知症の方は記憶障害のため明日が描けないのです。もちろん会ったことも忘れてしまいます。ですから出会いは生涯にただ一度と考えその時を大切にする心掛けで、嬉しさがにじみ出るお愛想目つきで喉仏の位置からその方を見ます。そして、言葉のセンテンスや呼吸に合わせ話す方の目を見て身を乗り出し、ひたすら聞く仕草でうなずきます。相手が何を望んでいるのかを真剣に聞き察するのです。微笑んだりうなずいたりして共感を示すしぐさや相づちは、優しい人柄を感じさせ相手の不安を取り除く隠れ技なのです。相づちに合わせて大切なのが、和らげな話しかけです。正面からではなく斜め45度から視線に入るように近づきます。謙譲語や尊敬語を使う必要はありません普段の言葉使いで緊張せず自然体で丁寧さが伝われば、相手に不快感を与えることはありません。そして、横隣りに座り、同じ姿勢、同じ方向を眺めてその人の気持ちに寄り添いながら気分や態度などを察して13項目でその人を観察し不安の要因や内容を整理するだけで不安は解消するのです。
次回は、診断できても治せない病への挑戦、介護にゆだねられたアルツハイマー型認知症の症状と対応について学びます。

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