第8回「抑うつへの対応」

認知症と付き合う隠れ技 キョウメーションケア
認知症高齢者研究所 所長 羽田野 政治の連載コラム 今回は第8回目「抑うつへの対応」です。
~「なじみの関係」抑うつ状態の緩和に~
脳が生み出す心は性格を作り出します。そして、性格がもたらす感情は、暑くて喉が渇いているときの一杯の水が満足感を感じさせてくれたり、逆に喉が渇いていないときに無理矢理飲まされる水がまずいと感じるように、同じものなのに受け取る側の状況によって変わるのです。
そんな変化する感情の中でも、心がふさいで晴ればれせず、不快で気分が沈む感情を抑うつと言います。
抑うつ状態を引き起こす大きな要因の一つに、人と人との過敏な反応によって感情を変化させる境界域の存在があります。自分と他人の距離感とも言うべきパーソナルスペースです。つまり、人間は見知らぬ他人が近づいてくると身体が固くなったり、緊張や興奮を感じるわけです。この心理的な圧迫感の影響から人間関係がうまく行かず、孤独感や孤立感を感じ、非難されると自身や自尊心が低下して絶望感や自責感が起こり、抑うつになるのです。
しかし、認知症の方の場合は、悲壮感や孤独感を感じるよりも、何事にも興味が無くなり楽しめず、寝つきが悪くなり夜間によく目を覚ますようになります。朝は早くから起きてしまい1日中不安感や焦燥感(イライラ感)があり元気が無く気力の低下がみられます。
その上、自分が無価値であると考えたり、あるいは悪いことをしても何も考えられない状態が続いてしまい、集中できない状態から食欲が低下して体重が著しく減少するなどの身体症状も現れるのです。
被災地の避難者には、家に戻りたいけれども戻れないという、自分の行動が抑えられてしまっている状態の人がたくさんいます。早く戻りたいと不安感つのり、心の中で感情が渦巻きうつ状態になるのです。
認知症の方の抑うつは、このようなうつ状態と異なるためBPSD(行動心理症状)には含まれないと研究者の意見の分かれるところでもあるのです。
 
キョウメーションケアでは、抑うつへの対応には様子観察13項目により会話が成立するか、態度、表情、行動、判断力、感情表現が失われていないかなどを観察します。そして、身体症状として抑制や不眠の有無も確認します。なぜならば、認知症の方は憂鬱気分が長く続くとやがては意欲をなくし喋らなくなってしまうからです。
そして、表面的非難や抑制などによる悲壮感や孤独感が起こった要因は何かを考えます。通常は寂しさや孤独感、自己決定の抑制による欲求不満から自分のものを盗られてしまう妄想や誰かに意味もなく怒られてしまうなどの恐怖心によるものが多いようです。言葉だけでなく優しい仕草や温かい眼差し、手を握り肩を抱くなどのタッチングを利用して感情面に働きかけます。
抑うつ状態の方には、その方の生き方に沿ってケアをしていくとどんな介護者も現場ではいつの間にか顔見知りになって親近感が生まれ、「娘」「孫」「嫁」「従兄弟」など、身内と勘違いされたりするほど「なじみの関係」が出来て信頼され、依存されてきます。
これらは、誤認に基づく行動心理症状BPSDではありますが、注目すべきことは感情面や意欲面で生き生きと暮らして行く「生きがい」の創造とも言うことができ、抑うつ状態の緩和になるのです。そして、その方の手に触れながら顔を近づけては、うなずきを示して隣に座るだけで、相手に安心、安堵感を与えることができ、「側にいる人」になっているのです。
様子観察13項目から得られた情報を基にケアを工夫し、その方の心の働きを知り、生活能力を見極めてセルフケア能力を最大限に活用したケアを行うことで、認知症の方の抑うつ状態は緩和されるのです。
  
次回は、抑うつ状態の要因でもある不安の対応について学びます。
 

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