KyomationCare研究会(第6回羽田野杯) 会長 ご挨拶

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厚生労働省の報告では、2025年の認知症を有する高齢者数は323万人(65歳人口比9.3%)との推計がなされる中で、認知症の高齢者は増加の一途をたどっています。近年、認知症における行動・心理症状(BPSD)が顕著な認知症の方への適切な支援方法について様々な研究実践の成果が発表されています。
しかし、専門職間でも十分な情報の共有が行われておらず、実践でのチームケアに生かしきれない現状が未だ存在します。この背景には、介護職員に対して適切な教育機会が不十分なことが指摘されています。認知症に関する十分な理解が図れなければ、介護現場に於いてお年寄り一人一人にあった適切な対応ができず、認知症の症状が悪化、そのために介護負担が増加することで、正しい知識を得るチャンスを失う悪循環に陥ることが懸念されています。これらの課題を乗り越えるために今必要なことは、まず、認知症ケア実践の法則化(理論化)であり、実践的な検証が急務ではないかと考えています。
以前より私は、認知症が病態の種類や程度によって差異はあるものの、対人関係によって困難を来たし、安定感を見失う病気と考えて、その対応には病態の特徴を理解しなければ成らないと考えていました。何故ならば、認知症の方は日常生活の場面において表出する生理機能の歪みは、脳の障害が関係していると考えていたからです。
私の師事する岩田先生の言葉を借りるならば、「認知症の介護を行なっていくには、認知症患者の示す様々な症状の発生メカニズムに対する正確な理解が必須であり、認知症と言う状態は脳の病気によって引き起こされる脳の機能障害である。脳の働きとその病態メカニズムをよく知れば、一見手に負えない様に思われる不可思議な混乱状態も、脳機能障害に基づく病態として正確に理解することができ、それに対する理屈にあった科学的な対策を考えることが可能となる。」という事です。認知症の至るプロセスは、時間、空間、目的、関係などの繋がりとその意味が障害によって寸断されたり、繋がらなくなることにあります。病態イメージを13項目から導き出すことによって、認知症の方の的確に表現できない言動や行動が理解しやすくなるコミュニケーションメゾッドとして開発してきたものがKyomation Careです。
次に医療と看護の目的の理解が介護には必要でした。介護者は24時間のケアの中で、しっかりと認知症患者を観察しているにもかかわらず、医療従事者との連携が虚栄や尊大に対する嫉妬や僻み、怠惰などから出来ないのが現状でした。“Health is not only to be well. But to be able to use well every power we have. ”とナイチンゲールは述べていますが、これは「よりよい状態を示すだけでなく、私達のもてる力を十分に活用できる状態」と言う意味です。Kyomation Careでは、持てる力を発見しその力を十分に活用する方法を提示し、これらの力を活かすことが、介護者の感性と知性、創造性に委ねられているとしています。そのための教育システムとしてもKyomation Careは存在しているのです。
Kyomation Careでは相互作用という自覚の育成を行っています。とかく認知症の方との接し方は、決して一方向ではなく、常に相互作用と言う双方向の関わりであると言う視点が大切です。この事を介護者が再認識し、相互作用のずれに気づくことができるようMDSで再確認を取っています。
また、Kyomation Careでは認知症の接し方についても研究しています。室伏先生の影響もありましたが、100人100様の工夫が必要な認知症の方への関わり方には、量と質がQOLに大きく影響することを配慮し、均一的な関わり方をしなければならないと考えました。このため10カ条に及ぶアプローチに13項目の観察項目を取り入れ、新人に於いてもベテランに於いても落ち着きや安心感を与える望ましい接し方を創造しました。また、Kyomation CareのRDR(Retrospective Data Research)の創出には、キーワードの発見を導くように考察しています。長い歴史を生き抜いた高齢者は、生活の中から生み出された多くの知恵や技を内に秘めています。今だけを見ていると何も出来ないと見えるような人達であっても、RDRを役立て過去に培った力を引き出すのです。得意なことや好きだったこと、誇れることなどのキーワードを家族から聴取し、ケアに活かせるヒントを抽出し共有できるように記録することでゆとりを持って行動を予見する予防保全的介護手段と考えています。
Kyomation Careは、今でこそ仮設思考型と呼ばれていますが、認知症の方が安定しているかどうかを常に13項目により態度や表情から読み取ることが出来るように、論理回路(logic circuit)でその人の内側にある言葉やヒントを見出しながら、現状の異常のみならずその訂正や解消および緩和や消滅を導くため、その行動を起こしている要因を見出し予測しつつ認知症の方の世界観に上手に入り込み安定する方向への関わりを試みていくプランの創出をするもので、相手の反応をしっかり読み取る接し方の工夫を示すものでもあります。
私達はこれまでに施設などでの実践を通じて、1日の業務全体に占める食事、入浴、排泄などの時間配分を一定の時間枠と規定の人員で効率的なケアを出来るように示す香盤表(ケアスケジュール)を提示できるようにしました。また在宅に於いては24時間のサポートを効率よく行えるようにコロニー(地域コンソーシアム)間の専門性を活用できるシステムを創造しています。それがKyomation Care Interface System:KCISです。
更に表現に対するアプローチを技に変えるため、行動評価法のMNFISや睡眠排泄パターングラフ、知的機能検査評価法、バイタルサインや食事量、水分量の比較検討グラフを用いて、認知症の方との接し方で具体的な表現方法を示してきました。そして病状や生活の状況、その人の特徴を知り的確な表現と相手のペースに合わせた対応をし、また並行して薬物による問題抽出も行ってきたのです。
また、Kyomation Careを学ぶスタッフは、語彙や表情を13項目で注意深く見ながらコミュニケーション能力を発揮できるように指導しています。言語・非言語的な接し方を均一的に行いシニアサインやシニアモードを捉えてセルフケアや埋蔵資源能力を効率的な活用で、時間と空間をともにし「寄り添う」ことに心掛け「今」を「楽しむ」ケアを認知症の方とともに行い、「快の感情を保障」することがKyomation Careの本質とも考えています。しいて言えば「老いを遊ぶ」ことがKyomation Careの理念でもあります。
このような取り組みを基に多くの実践者・家族・研究者の想いとご協力によりこの度Kyomation Care研究会が設立され、この事例発表会を開催する運びとなりました。
この活動がこれからの未来に向けて、認知症ケアを通じた社会貢献に繋がることを願っています。
Kyomation Care 研究会
会長  羽田野 政治

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