脳と心★たとえ認知症になっても★

★たとえ認知症になっても★
ヒトは自らの運命をその手で決めているのでしょうか?
全ては始めから、遺伝子に書き込まれていて、未来は変えられないのかもしれません!
むしろ、未来が過去を変える可能性さえあるかもしれません・・・選択の自由や意志の自由は、幻なのでしょうか?
昔の人々は、こんな考えを持っていました。人は神々の決めた運命から決して逃れられない、選択の自由は幻だと…今では、私達の行末を決めるのは、神々の意志ではなく脳の働きや自分を司る強い意志だという人も大勢います。
今回は、認知症になった両親を介護していくうちに自分に降り掛かるであろう運命を自分の力で変えようとするお話です。
自分の未来に対するチャレンジは、忍耐力や戦術、豊かな想像力が必要です。
それらを操るのが、頭の中の柔らかい器官、そのお陰で、ヒトは自分の人生を左右し、楽しみや苦しみを自分に与えるのです。そして、心がけ次第で・・・たとえ年老いて認知症になったとしても最期まで楽しく自分らしく暮らせて行けるのではないでしょうか?
アメリカの世界健康擁護団体代表のアラン・シェイク(Alanna・Shaikl)さんは。「アルツハイマー病が、あなたの将来にあると知っていたら、あなたはどうしますか?…と・・・認知症になる準備をしているか?」と問います。
私は、時々、彼女の話を思い出しながら介護現場で家族や介護スタッフに私たちの将来について話しています。
アラン・シェイクのお父さんはアルツハイマー病に罹ってしまいました。症状は12年ぐらい前に現れ、2005年に正式にアルツハイマー病と診断されたのです。
アルツハイマー病を発症するリスクは65歳以上では10〜12パーセントですが、85才を超えるとほぼ50%近くになるのです。
しかも、アルツハイマー病になるリスクは、少なくとも両親のどちらか1人がアルツハイマー病を発症していた場合には、さらに倍増するのです。
アルツハイマー病のように衰弱させてしまう病気に罹る危険性が高いことを知った場合、あなたなら・・・その情報を使ってどうしますか?
アラン・シェイクのお父さん病状は、進行が止まらず悪化していきました。
食事や着替えに介助を要し、自分がどこにいて…今、何時か分からなくなっていきました。それは、本人だけでなく介護をする家族にとっても、ひどく辛いことです。お父さんは彼女にとってはヒーローであり、人生の助言者でもあったから…なおさらです。
過去10年間、彼女はそんな父の面影が消えていくのを見守ってきたのです。
勿論、アラン・シェイクの父だけではありません。
国際アルツハイマー病協会(ADI)は、去年の9月21日の「世界アルツハイマー・デー」で、世界の認知症人口は、2015年で4,680万人と推測していたが、現在では3.2秒に1人が発症している状態であり、このままだと2030年までに7,470万人に増加し、2050年までに1億3,150万人に増加すると予測しているのです。これは大変な数です。
しかも、新たに認知症と診断される患者数は、年々増えており、日本を含むアジア地域が2,620万人で全体の49%を占め、もっとも多いのです。
私達にとっては年をとるにつれ近づいてくる認知症は恐ろしい病でもあるのです。症状である困惑した表情や手の震え、絶えず訪れる不安や頻回に襲い来る極度な健忘状態…増える患者数に私たちは恐怖感を抱かずにはいられません。

その恐怖心ゆえに私達は認知症に対して次のいずれかの反応を示しがちです。
ひとつは否定です。私には関係ない!そんなことが自分に起こるはずがない・・・アルツハイマー病のような重篤な疾患への遺伝的素因に直面している多くの人々は、自分自身に「私には起こり得ない」と自己暗示的に言い聞かせては否定する傾向にあります。
また、遺伝子要因を持つ極端な例の1つは、Googleの共同創設者セイゲル・ブリン(Sergey Brin)が、パーキンソン病の研究に5,000万ドルを寄付したことは有名です。
これは、彼がより高い疾患率に関連する遺伝子変異を持っていることがわかったためです。 もう一つの反応は予防です。あらゆる予防策をとっているから、自分はアルツハイマー病にはならないはずだ・・・という人達です。
予防自体は悪い事ではありません。
適切な食事「マインド食」、適度な運動「有酸素運動」、物事に対して前向きであること、研究の結果、予防策として勧められていることです。
アルツハイマー病のリスクが高くなってきている高齢者達に予防できることはいくつかあります。
まずは、よく食べて、毎日運動することです。マインド(MIND)食といわれる栄養価の高い食事を摂り、定期的に運動することです。
これによりアルツハイマー病を止めることはできませんが、発症を遅らせることは出来ます。
また、リスクをわずかに下げる可能性があることも研究で示唆されているのです。
次に認知症の専門家(専門医や介護支援専門員など)を探しておくことです。
特に認知症の専門家を探しておきましょう!専門家は認知症がどのように進行するかを説明してくれるので非常に役立ちます。
そして、いくつか新しい趣味を持つことです。認知症の人にとっては、認識していない人と会話したりするよりも、絵画や手芸など“四十(七十)の手習い”は、手続き記憶を活用した実践的な活動になるので生涯楽しく過ごせるツールになります。そして、難しいことですが、人には優しく、より良い人になることに努めることです。
ただ、これらを行ったとしても100%予防することは出来ません。完璧な方法ではないことは明らかです。
つまり、今のところアルツハイマー病に狙われたら逃げる術は無いからです。
アラン・シェイクのお父さんに起こったことがまさにそれなのです。
お父さんは2ヶ国語を話す大学教授で趣味はチェス、ブリッジ、新聞にコラムを書くことだったと言います。つまり、彼は常に頭を使っていたわけですが、それでも、お父さんはアルツハイマー病になってしまったのです。この怪物に狙われたら逃げられないのです。
ですから、アラン・シェイクは、お父さんの遺伝子を持っているので特に逃げられないと言います。アルツハイマー病は遺伝する傾向があるためです。
という訳で、彼女はアルツハイマー病になる準備を始めたわけです。それは、予防というより第三の選択だったのです。
アルツハイマー病になる準備を今からしておこう・・・というのがスローガンです。
お父さんの介護や認知症と共に生きるとは・・・どういうことか彼女は介護を通して3つの準備をすることにしました。
趣味を変えること、体力をつけること、そして難しいことですが、より良い人間になることです。
まず、趣味から話しましょう!
認知症になると次第に楽しみが減ります。
古い友人のことも分からなくなるので、彼らと長い時間、話すことも難しくなります。
テレビを見ても混乱するだけで、しばしば恐怖すら伴います。読書にいたっては、全く不可能です。認知症の介護をする人に向けた訓練では、慣れ親しんだ継続できる手作業を患者に与えることが有効だと教わります。
お父さんの場合、書類作成がその様な手作業でした。
お父さんは大学の教授だったので、書類作成がどんなものか知っていたからです。

それは長年おこなってきた動作の習得である手続き記憶なのです。手続き記憶は、たとえ認知症になっても比較的に最期まで残る記憶で、その人を助けてくれる記憶でもあるのです。
だから、お父さんは書類の下線を見れば全て署名しボックスには全部チックを付け、必要と思う所に番号を振ることが日課になったのです。
役割を持ったお父さんの表情には輝きが戻ってきたと言います。
そんなお父さんを見て彼女は思いました。私を介護する人はどうするだろう?・・・娘の私もお父さんと同様に学術誌を大いに読み書き、考えてきました。だから、余白に書き込めるように学術誌でもくれるのでしょうか?
それとも塗り絵が出来るように、画用紙やグラフや図表をくれるのでしょうか?
しかし、私がアルツハイマー病に罹ったら、そういう訳にもいかないでしょうから、手を使う作業をするよう努めてほしいと思い、もしも私が認知症になったら~介護手帳を書いておきました。それだけでなく、自分でもその準備を始めたのです。元々絵を描くのが好きなので、下手くそですが、たくさん絵を描くようにしました。
折り紙も始めました。きれいな箱を作ることも出来るようになり編み物も編み始めていると言います。何が私を助けてくれるか分かりませんが、ただ重要なことは、上手かどうかよりも手が“やり方”を覚えているかどうかです。
手が覚えていることがたくさんあれば、脳の働きが衰えても、楽しんで熱中できるからです。
何かをすることがある人は幸せなのです。
そうした人のケアは、より容易で認知症の進行も遅いと言われています。
これは大変重要なことなのです。
私は老いても出来るだけ長い間“幸せ”でありたいと願っていますと彼女は言います。
アルツハイマー病には認知的症状だけでなく、身体症状があることを多くの人は知りません・・・平衡感覚を失い、筋肉が震える結果、動きが少なくなります。

歩き回ることや動くことが怖くなるのです。だから、平衡感覚を鍛える運動を今から準備しておくとよいでしょう・・・平衡感覚が多少衰えても動くことが出来るような運動です。たとえばヨガや太極拳は、ゆっくりとした動作で呼吸に合わせて行えるので、高齢者にもうってつけです。また、少し筋力が落ちても動けるように、自分の体重を負荷とした運動(屈伸運動)もやっています。
そして、第三の点です。
より良い人間になろうと努めることです・・・彼女のお父さんは親切で誰からも愛される人物だったと言います。
それは、病気になる前からずっと変わっていません。
彼女はお父さんが知性、ユーモア、言語能力を失うのを見てきましたが同時に、お父さんが、私や私の息子たち、私の兄弟、母、介護してくれる人達を・・・変わらずに愛してくれていることも見てきました。
その愛情こそが現在の非常に困難な状況においても・・・私たちを父の周りに繋ぎ止めているものだと・・・
この世で学んだすべてを奪い去られても、お父さんの「心の輝き」が消えることは無かったと強調します。
そして、アラン・シェイクはお父さんほど優しくもないし、愛される人間でもないといいますが、努めて、今、彼女はお父さんのようにありたいと強く感じていると言います。
認知症によって、その人の飾りが奪われても、なお、輝きを失わない「美しい心」を持ちたいと強く願っています・・・
だれでも、アルツハイマー病になりたい訳はありません・・・私がアルツハイマー病になる迄に間に合うように・・・この20年以内に治療薬が開発されればよいと思います。
ただ、この怪物に狙われても、その準備が出来ていれば、襲われたとしても、その言動を適切に理解してもらい、行動抑制の薬漬けだけはしてほしくないと願っています。
アラン・シェイクのTED映像はこちらから…

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