2008年 第16回 日本介護福祉学会 「認知症高齢者の食事状態把握の取り組み~グループホームでの栄養士のラウンドについて~」

認知症高齢者の食事状態把握の取り組み
~グループホームでの栄養士のラウンドについて~

【研究目的】

高齢者の食生活上の問題点として食欲低下、義歯の使用や噛む力の低下、飲込む力・筋肉の衰えによるむせや喉の渇きが感じにくいことが挙げられ、栄養不足による生命維持の危機、咀嚼・嚥下障害、脱水の危険性が高まる。当研究所附属のグループホームでは栄養士が毎日のメニューやレシピ作成をし、スタッフが中心となり入居者と一緒に各ユニットで食事作りを行っている。しかし、これまで入居者の普段の摂食状態が把握できておらず、問題発生時の事後的対応しか出来ないことや調理時間と食事の出来上がりにユニット毎のばらつきがあることが課題となっていた。そこで、日頃から栄養士が課題の把握や問題点に迅速に対応するための仕組みとして2008年4月よりラウンドを導入した。

【研究方法】

ラウンドの目的は①入居者の食事状態把握②スタッフの食事作りの現状把握③衛生・環境整備である。週に1度、各ユニットに栄養士が周り、食事作り、スタッフと情報交換、食事介助、摂取状態の観察を行った。観察時は、食事状態、作業効率、衛生・環境整備について、独自に作成した「栄養士ラウンド記録」を使用した。食事摂取に問題があると疑われる入居者については「摂食・嚥下各期の観察ポイント」用紙にチェックした。「摂食・嚥下各期の観察ポイント」は黒田留美子(2003)をもとに認知症高齢者に合わせて、食事行動を観察項目に取り入れ作成した。衛生・環境整備での課題についてはその場で対応策を伝え、次回ラウンド時に再確認した。ラウンド実施後、当研究所にて入居者へのケア内容の検討、メニュー・レシピの再検討を行った。2008年4月21日~7月31日の「栄養士ラウンド記録」を元に、明らかになった課題内容と件数について検討した。

【研究結果・考察】

検討の結果、①入居者の食事状態把握についてはI.食事形態、Ⅱ.姿勢、Ⅲ.食事介助の方法、Ⅳ.食事提供の方法、の4つに分類された。それぞれの件数はI.9件、Ⅱ.9件、Ⅲ.6件、Ⅳ.2件であった。I.食事形態の課題では、嚥下が困難な入居者へのトロミ濃度の検討事例で、「摂食・嚥下各期の観察ポイント」により問題となる段階を明確にし歯科衛生士と情報を共有し、口腔状態と合わせて検討を行った。ラウンド時にトロミの濃度を調整し、適度な濃さを見つけ、容易に嚥下して頂けるようになった。併せてスタッフと嚥下有無の確認をした。Ⅱ.姿勢の改善では、状態により姿勢が保てない入居者への検討・対応をスタッフと行った。Ⅲ.食事介助の方法は使用するスプーンの大きさや一度に口元に運ぶ量の調整をスタッフに提案し、ユニットでの均一ケアを図った。Ⅳ.食事提供方法は視覚からの満腹感に対し、少量ずつの盛り付けやお皿をワンプレートにする等、提供方法を考慮するように伝えた。栄養士によるラウンドの実施は特に①入居者の食事状態把握における課題の抽出と、迅速な対応に有効であった。②スタッフの食事作りの作業工程を把握することで、調理作業の問題点を把握・レシピの改善につなげることができた。③衛生・環境整備をチェックすることにより、スタッフの意識付けにもつながった。ラウンドを行うことで入居者やスタッフと接する時間が増え、コミュニケーションも行いやすくなった。問題点が挙げられた入居者への対応は当研究所で再度検討した内容をケアプランへ反映させた。また医療チームや研究所、スタッフとの連携により入居者への安全・快適な食事提供を含めたチームケアが可能となった。

【参考文献】

1)『高齢者ソフト食 安全でおいしい介護レシピ』 図書印刷株式会社、(2003)

2)『薬と摂食・嚥下障害』 医歯葉出版、(2007)

3)『嚥下障害ポケットマニュアル』 医歯葉出版、(2005)

 

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