脳と心~介護者にとって負担となる種々の症状(後半)行動・心理症状BPSD~

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最近の認知症研究は、行動・心理症状BPSDの出現や進行を遅らせることに重点が置かれています。

 

 

20170316そのための新薬の臨床試験もアルツハイマー病を引き起こす遺伝子変異を持つ人々を対象に始まっていますし、レセプター遺伝子変異を持つ3種類の遺伝子、例えばプレセニン(presenilin)なども見つかりましたが、このような遺伝子変異が原因の症例は全体の数パーセントに過ぎないのです。

 

 

 

むしろ加齢の影響から神経細胞を守るREST(repressor element1-silencing transcription factor)別名NRSFと呼ばれるタンパク質が減少してくると中核症状が発症し、20170317BPSDが出現してくると最近の研究では考えられているのです。

このような神経伝達物質の低下をはじめ性格やストレス、そして環境の変化や人間関係などが組み合わされるほうが極めて影響しているということなのです。

脳の機能は、高次になればなるほど複雑になることは脳の進化で話しましたが、同じ刺激に対しても人それぞれ対応が違うわけで、これが性格と関係して様々なストレスを生む要因になっていると私は思っています。

 

 

20170318脳もまた、認知機能の障害が困惑と混乱で酷使されると、いわゆるストレスがたまった状態になりBPSDが出現するのかもしれません。

例えば、本人が何か意味不明なことを言い出した時に、そうではないと説得したり、そんなことはしてはだめですよと反ばくしたりして、論争になることで本人の心がとがめられて不愉快だったという感情が残ってしまうのです。

 

20170319それだけでなく説得しようとしたり否定したりすると、かえって混乱して、ストレスから一層BPSDがひどくなってしまうことになります。

BPSDは局在的な脳の病巣に由来して現れることや様々な認知症の疾患によってパターンも異なることもいわれています。

心のストレスは計りにくいものなのです。

本来ストレスとは、ある刺激に対してどう受け止めたか、どう反応したかということを指します。

 

20170320だから、「楽しい」と感じる快感も「つらい」「苦しい」と感じる不快感もストレスなのである。

そして、不快感ばかりが長く続くとBPSDの引き金となるわけです。

また、その一つにサーカディアン・リズム障害と呼ばれる概日リズムの乱れがBPSDを生じさせることが分かっています。

これは、認知症により睡眠パターンに異常が起こり、日常生活を営むために必要な睡眠パターンとの間に生体現象のズレを生じさせて日中は焦燥と傾眠、夜間は不穏という症状をもたらしてしまうのです。さらに概日リズムの異常は「夕暮症候群」の原因になることも言われています。

 

20170321キョウメーションケアでは、多くの場合、社会的役割の喪失や環境の変化など生活上の出来事の後や、あるいは身体的不快感や疾患が進行するとBPSDを出現すると予見しています。しかし、高次脳機能のすべてが障害されて発症しているのではなく、ストレス要因と原因脳病変によって失われていく機能と、原因脳病変が及ばず失われずに保たれる機能とがあるということも念頭に入れておくことが認知症ケアには重要と考えているのです。

また、遺伝的要因に随伴して認知症を発症した人の脳では、神経生物学的要因と言われる複数の神経伝達物質の変化が認められています。

アセチルコリンの濃度の低下は記憶障害、混乱、せん妄を引き起こします。

せん妄は、幻覚や妄想、睡眠の断片化や足で床を叩いたり、手を揉んだりする精神運動性興奮をも伴います。

ドパミンの濃度低下などは作業記憶などの認知機能に関わって攻撃性および焦燥と関連しているのですが、そうした変化とBPSDとの間には大雑把な関係しか見いだせていないのです。20170322

残念ながら現時点でのBPSDに対する治療は、すべて対処療法であり現在使われている薬剤からは望むべくも無いというのが現状です。 

したがって、BPSDにおいては、薬物を用いない対症療法ともいえるケアの役割が極めて大きく認知症BPSDの緩和および治療が可能であり、認知機能障害に於いては苦悩を和らげたりすることもできるのです。

非薬物療法は心理社会的療法と呼ばれ、回想法や音楽療法など様々な研究がなされています。

そんな中、BPSDでも泣き叫び、ののしる、無気力、繰り返し尋ねる、つきまとうなどは、本人の生活史をよく理解している介護者が側にいて関わることで軽減もしくは緩和することがよくあります。これを共同注視による相互作用療法と理解することができます。

焦燥、不適切な行動、性的脱抑制、部屋の内外を行き来する、叫声などは介護を困難にさせるが必ず何かきっかけがあるはずだと考えて、丹念に本人の話を傾聴して観察すれば、不適切な行動は何かが気に入らないのだから、何が気に入らないのかを見つけることで適切にケアを行うことも出来るのです。

しかし、攻撃的行動、徘徊、不穏などは脳機能障害に基づく病態として、正確に理解し、それに対する理屈にあった科学的な対策のケアを行わなければならないのです。

このような場合は、しっかりと様子を観察し原因を見出し、その原因を解消するように説得したり否定するのではなく、保たれている機能を活用して失われた機能を補っていくように「これをしてみませんか」「一緒にこれをやりませんか」などと日常生活動作を利用した自立支援を中心に勧めると落ち着いてくることが少なくありません。

また、症状を抑える薬を止むを得ず使わざるを得ない場合には、誰が、いつ、どのようになど薬を管理する体制もしっかりと行うことが大切です。

妄想、誤認、幻覚、抑うつ、不眠、不安などの心理症状は気圧など気象の変化だけでも頻回に出現する極めて厄介で対処が難しいBPSDです。

このような症状をケアするためには、本人をよく知っている介護者が辛抱強く観察と、こういう症状の時には、こうしたらうまくいったとか、こうしたら失敗したというような記録を積み重ねて、それに基づいて介護者がケアを工夫したやり方を試みることです。

20170323その記録方法に適しているのが生活場面面接と生活支援記録法です。

生活支援記録法とは、多職種協働によるチームケアにおいて、生活支援の観点から観察、支援の根拠、認知症患者とその環境との相互作用、認知症患者の生活変化、これらを基にしたケアプラン反映への根拠などが明示可能な支援経過記録の方法です。

記録に用いられる項目はF:着眼点、ニーズ、気がかり、S:主観的情報、利用者の言葉、O:客観的情報、観察や多職種から得られた情報、反応、A:アセスメント、気づき、判断、I:援助者の対応、声かけ、P:計画、当面の対応予定の6項目からなっています。

また、身体疾患や合併症、薬物もBPSDの原因になるので確認しておく、いわゆるアセスメントをしっかり行い根拠を見出すことで緩和することも可能となるのです。

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